第86話 その後
あの事件から一週間。
幸いにも死者はなく、また後遺症などを負った者もいなかった。
ショックで精神をやられた者もおらず、寧ろ生徒たちはあの事件解決を自らの武勲として、親たちに報告しているという。
たくましい限りだ。
そして、責任とか諸々の事情が大人たちの間で諸々片付いた後。
俺とリィラは学園長室に呼ばれた。
待ち受けていたのは学園長と……。
「国王……!」
リィラの父にしてローグランド王国の国王だった。
「随分余所余所しいじゃないかリュクスよ。私のことはパパと呼べと言ったはずだが」
「いや意味わかんないんでそれ……」
キングハラスメントは辞めて欲しい。
「お父様ったら!」
お、リィラがおこなようだ。
まぁ当然だ。
今回はおふざけなしの真面目な場なのだから。
「リュクスくんにパパと呼ばせるのはまだ早いです」
あれ……?
「コホン」
ちょっと緩んだ空気を引き締めるように、学園長が咳払い。
うん、流石学園長、頼りになるぜ。
「ではまず、ロデロン・デクスターの件についてだな」
今回の件を受けて、騎士団の方で改めてロデロンの調査が行われた。
(入学時にも軽い身辺調査は行われているが、より刑事的な調査が入ったようだ)
王都での魔物出現ポイントを徹底的に調査したらしい。
そしてそのいくつかのポイントで、当時ロデロンらしき人物が目撃されたとのことだ。
「ということは……」
俺が王都に戻ってきたあの夜も、近くに彼奴らがいたということだ。
「リュクスが魔眼によってインフェルノゲートを見ていたのは幸いだった。お陰で奴らの手口を暴くことが出来た。まさか、こんな召喚魔法があったとはな」
あの日魔眼によって観察したインフェルノゲートと融合魔法は、事前に資料としてまとめ、騎士団に提出済だ。
王都に出現する魔物の種類に規則性がないことが騎士団の調査を混乱させる要因だった。
だがランダムにダンジョンからモンスターを召喚するこの魔法なら、説明はつく。
「模擬戦当日は、転移ゲートに使われている魔力を流用してインフェルノゲートを使ったみたいさね」
「なるほど……膨大な魔力を使ったせいで、王都に出現したものより強力な魔物が呼び出されたんですね」
「そのようだね。ロデロンがガリルエンデ相手に無謀に突っ込んだのは、いつも勝てるような魔物しか呼んでなかったからだろうね」
「あの、お父様。噂の方は……」
「安心しなさいリィラ。今回の事件の黒幕はロデロンだったと、国中に知らせるようにする」
「ではこれで、正式にリュクスくんの疑いは晴れるのですね!」
まるで自分のことのように喜んでくれるリィラに、少しだけ胸が熱くなる。
ずっと心配してくれていたし、悔しい思いをしてくれていたもんな。
まぁ……。
民衆ってのは噂が大好きだ。
次は「魔眼の子が偽の犯人を仕立て上げた」とかそんな噂が立ちそうな気がするけど……。
それはここで言うべきことではないだろう。
「ふん。人の噂なんて半年もすれば飽きられ忘れられる。そう思っていたが、まさか自分で解決しちまうとはねぇ。流石、あの男の子供だよ」
パチンとウィンクする学園長。
そんな「ずっと信じてたぜ?」みたいな態度とられても……。
「さて、じゃあ事件の経過はここまでにして。リュクス。君をここに呼んだ訳は、わかっているね?」
「はい」
俺は国王から資料の入った封筒を受け取る。
「言ってくだされば、俺の方から王宮に出向いたというのに」
「うむ。だがお主も疲れているかと思ってな」
「それは?」
「なにさね?」
不思議そうにしているリィラと学園長。
極秘なので「言ってもいいんですか?」と尋ねると、国王は頷いた。
「まぁ、極秘資料ってことで」
俺が受け取ったのは、騎士団が集めたロデロン・デクスターのデータだ。
今回の事件の後、俺はロデロンの人生について調べなおした。
生まれのこと。
母親のこと。
孤児院のこと。
概ね、学園側がやつの入学前に調査したものと変わりなかった。
だが一つだけ皆が見落としている項目があった。
「ロデロンくんは、どうなるのでしょうか」
少しだけ心配そうにリィラが呟いた。
「アンタが心配することは何もないさね。まぁ、下手すれば王都が壊滅だったことを考えれば、極刑だろうね」
「……」
親指で首を切るジェスチャーをしながら学園長は言い切った。
リィラの表情が暗くなる。
あれだけの目に遭わされたのに、優しい子だ。
「ま、裁判は長引くだろうがね……いますぐ処刑という訳ではないよ。それに、確かめなくてはならないこともある」
俺は頷いた。
皆が見落としていたこと。
それは、 ロデロンが、いつから魔法を使えるようになったのか……だ。
国王もそれを聞き出すつもりなのだろう。
おおよその想像はついている。
だが、それは絶対に確定させておく必要があるだろう。
「さて、ロデロンの件は我々がなんとかするとして……リュクスよ」
国王はここからが本題だと言わんばかりに真剣な顔になった。
「リュクス……あのキメラを……お前に預ける」
「いらないです」
しばし、国王とにらみ合う。
そう。
大人たちが今一番揉めている問題。それは……。
キメラの処遇をどうするか? ということである。
まぁ当然だろう。
魔眼で服従させたとはいえ、傍から見ればいつ暴走するかもわからない化け物を管理したくはないだろう。
「国王の命令には従うように言っておきますので、国防にお役立て下さい」
「いらん! あんな怖いヤツいらないもん!」
もん……って。
「いつ暴走するかもわからんのだろう!?」
「まぁこのままずっと支配できるという保証はないですね」
「グレムは!? アイツああいうの好きだろ!?」
「父上は各派閥のパワーバランスが崩れるのを心配してか、ノーでした。それで『騎士団の訓練の相手にさせたらどうだ?』と」
「みんな死んじゃうよ!? 姉上は? 学園にはこういうマスコットキャラが必要なんじゃないか?」
「間に合ってるさね」
「ぐぬううう。魔王の複製体めぇ……とんでもないもの残していきやがってぇ」
いやほんとそれな。
一回自殺させようとしたけど、あのキメラ強すぎて自分の攻撃で自分にダメージが入らないし。
元がダンジョン産の魔物だから絶食でも死なないし。
経験値にしようにも勝てないし。
かといって放置しておくわけにもいかないし。
「ちょっとキメラさんが可哀想ですね」
リィラは連れ去られそうなところを助けてもらった(と思っている)からか、キメラに関して少しだけ温情を見せている。
そしてリィラは、何かを決心したように顔をあげた。
その決意に満ちた顔を見て、俺はまさかと思う。
「わかりました! では、あのキメラは私が責任を持って管理します!」
「「「ええええええ!?」」」
「王宮で飼います!」
「いやじゃああああああああ」
そして、真面目で責任感の強いリィラはそう言い放った。
んで、王様は泣いた。
***
***
***
あとがき
学園長の責任に関してですが、彼女に関しては今後辞めるより辛い日々が待っているので、それでどうかご容赦を。
主に今回の事件を経て滅茶苦茶強くなった1年生たちの起こすハチャメチャなトラブルの全責任を負ってもらうという意味で大事なキャラクターです。
ここで退場されるわけにはいかないのです!
ロデロンの魔法開花については今後もうちょっと詳しく触れる予定。
第二章、完結まで書き終わったので、今日から続けて投稿です。
あと2話です!
よろしくお付き合いください。
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