第82話 真打ち登場

 ポパルピト・マルケニス……。


 ガリルエンデのベロの上に乗った化け物はそう名乗った。


 あの化け物がロデロンと組んで王都に魔物を出現させ、噂を流しその罪を俺に着せようとしていた犯人。


 そして、この模擬戦イベントを混乱に陥れた元凶。


 ポパルピト……その名に覚えはないが。


「マルケニス……」

「あの男、マスマテラ・マルケニスと関係があるのでしょうか?」


 名前を聞いたリィラも俺と同じことを考えていたようだ。


「キヒ……君たちが不当にも王城地下に幽閉しているマスマテラ・マルケニスは……キヒヒ……俺の偉大なる父親だ」

「偉大? 父親?」

「ヤツが……?」

「ということは、お前は魔王ルシェルとは関係ないのか?」


「キヒ……いや……」


 ポパルピトの口元が歪む。


「キヒヒ……関係なくはない……というより……俺は魔王そのものだ……キヒヒ」

「……?」


 魔王そのもの? どういうことだ?


「もしかして……復元魔法?」

「復元? ……まさか」


 復元魔法。

 魔族の間に伝わる大魔法。


 俺も、いにしえの薬草を化石から復活させるときに参考にさせてもらった魔法で、言わばSF作品で言うところのDNA復元……クローンである。

 化石から恐竜を蘇らせてクローンを作る……みたいな映画は、かつて大流行したし、実際にマンモスを復活させる計画があるという話も聞いたことがある。


 俺の場合、化石に含まれていたDNA情報から解析をおこない、イミテーションやら既存の植物との掛け合わせでいにしえの薬草を復活させた。


 それと似たことを。いや、それ以上のことをマスマテラ・マルケニスはやっていたといことか?


「魔族の魔法は我々のものより高度です。もし、魔王の血液……いえ。髪の毛の一本でも残されていたら、そこから魔王を復元することも可能なのかも知れません」

「確かに魔王復活教なら、魔王の肉体の一部が受け継がれていても不思議じゃないな。それじゃアイツも、マスマテラの魔王復活計画の一部だったってことか」


 確かに、それなら辻褄は合う。


 魔王と同じDNAを持つクローン魔王だから、ヤツはアズリアの魔法に魔王ルシェルと認識されたのだろう。


 それに、ゲーム的に見ても、なんとなく繋がってくる。


 リュクスの死後、魔眼を回収したマルケニスは魔王の魂を新しい肉体に入れて復活させていた。

 ゲームのテキストではさらっと流されてしまう部分だが、ここに出てくる「新しい肉体」……魔王の魂の入れ物こそが、ヤツなのではないか。


「おそらく十年祭の後、騎士団が王都内の魔王復活教の隠れ家を襲撃した際、信者に逃がされたのでしょう」

「確かにクローンにしてはかなり不完全だ。で、王都を彷徨っているときにロデロンと出会ったと……」


 なんという運命の悪戯……。


「キヒ……キヒヒヒ。概ね正解」

「でもなんの為にこんなことを?」


 マスマテラ・マルケニスを父と呼ぶなら、ヤツを助けに行くのが先じゃないのか。


「キヒヒ。俺、不完全。だから……強い魔物を食って……完全体になる。キヒ……お前ら……ご苦労……お陰でキヒ……強い魔物の体……キヒ……手に入った」


「完全体?」


「キヒ……偉大なる父上……俺に……魔王を越える魔王になって欲しがっていた……キヒヒ……だから俺……完全体になる……」


 ガリルエンデがバクっと口を閉じる。

 同時にポパルピトはガリルエンデの体内に入った。


 そして、その体は強く発光する。ドクドク脈打つ体は、何か違うものに変わろうとしているようだった。

 光輝くガリルエンデの身体が変わっていく。


「まずい……レオン!」

「ごっ……ごめんよリュクス……あまりの光景に……つい」

「完全体とやらになられたら不味い……みんなで一斉攻撃だ!」

「うん!」


 唖然としていたみんなに渇を入れる。


 俺とレオン、それにリィラ。


 他のみんなも、それぞれ最強の攻撃をガリルエンデに打ち込む。


 だが、すべて体から放つ強い輝きの中に吸い込まれてしまった。


「魔法はともかく聖なる炎まで……」

「なら、剣で切り倒す……ゲリウスくん!」

「わかりました」


 俺とゲリウスくんで斬りかかろうとするが……。


「キヒヒ……無駄だよ……キヒ」


「くっ……堅ってぇ!?」

「先ほどまでのガリルエンデの肉質とは桁外れに堅い!?」


 エクスカリバーⅢをもってしても、まるで刃が立たなかった。


「キヒ……無駄無駄。そこで俺が完全体になるのを……キヒヒ……見てな」


 まずいな……みんな疲れ切って、戦闘できないやつも居て。


 こんなタイミングで魔王出現なんて……冗談じゃないぞ。


 光り輝くガリルエンデの肉体は、徐々にその姿を変えていく。変身が完了に向かっているのか……。


「キヒヒ……この魔物とても強い……お前たちが倒してくれたお陰で……容易に吸収できた……俺……魔王より強い……完全体になれる……」


 俺たちを嘲笑うかのようにポパルピトは笑った。


 だがその時。


 ガリルエンデの体が上下真っ二つに割れた。


「キヒ……?」


 光り輝くガリルエンデの上半身が地面に落ち、反対に下半身が塵となって消滅した。


「な……なんで? この体……とても堅い……切れるはず……ない」

「残念だったね。私に切れないものはないんだ」

「ギギ……お……お前……お前も……父上を邪魔した……やつだ」


「クレア!」

「やぁ、待たせたねリュクス」


 ガリルエンデINポパルピトを真っ二つにしたのは、遅れてやってきた最強剣士クレア・ウィンゲートだった。




 ***




 クレアside


 時は少し遡って。


 レオンとクレアが「どちらがリュクスの親友か」で争っているときのことだ。

 彼らの元に、ヘラクレスビートルを二つくっつけたようなモンスター【デュアルヘラクレス】が出現した。


「魔物? まぁいいや。私の敵じゃない!」


 すぐに剣で斬りかかるクレア。

 だが、デュアルヘラクレスの堅い外殻にクレアの剣はまったく通用しなかった。


「なっ!?」


 剣を弾かれ、さらに追撃を食らい早々に戦闘不能になってしまった。


「くっ……こんなはずじゃ……」


 モンスターとの戦いは初めてじゃない。

 だが自分より強いモンスターと戦うのは初めてだった。


「――フォトンブラスター!」

「ギイイイイイイイイ」


 その後、目の前で楽々と、魔法によってデュアルヘラクレスを始末するレオンの姿を見せられる。


「回復だけはしてやるよ――フォトンヒール」


 クレアの傷は瞬く間に癒える。

 全身の痛みが嘘のように消えた。


「キミ、魔法も使えないのに王国で最強って言われているんだね」

「……なんだよ。何が言いたいんだよ?」

「いや、この国では【最強】って随分安い言葉なんだなって思っただけだよ。魔法も使えないくせにさ」

「くっ……」


 立ち去るレオンの背を見送って、クレアは生まれて初めて敗北感が湧き上がる。


 とはいえ、魔法は使えない。


 それは生まれつきのことだ。仕方が無い。


 なら……。


「魔法すら越える剣技を……」


 今の自分のスタイルを全て破壊し、一から作り上げる。


 目指すは最強の一閃。


 あらゆる敵を一撃で切り裂く究極の一振り。


 創る……壊す……創る……壊す……創る……壊す……。


 脳内で破壊と再生を繰り返す自分の剣技。


 そうしながら歩いていると、目の前に丁度いいモンスターが現れた。


 肌で感じる。


 先ほど相対したデュアルビートルより、数倍も強い魔物だと。


(試してみるか)


 クレアは剣を手に握る。それはこの模擬戦イベント用に支給された低レベルな剣だった。


 だが構わない。


 ここに来るまでに頭の中で考えたイメージを集約する。


「――開闢一閃」


 そう言いながら放たれた一撃は、シンプルな横一閃だった。

 傍から見れば、素人でも出来そうな、簡単な攻撃に見えただろう。


 だが素人の一筆とプロの一筆が全く違う線に見えるように。


 そのたった一閃に、クレアの才能と努力と、センスが詰め込まれていた。




 ***

 ***

 ***

 あとがき


 クローンは自分で勝手に「ポパルピト・マルケニス」を名乗っています。なので、アズリアの魔法では肉体的情報が同じ魔王の名が優先されて表示されてしまったんですね。


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