第81話 真の敵

「魔王……?」

「ルシェル?」

「▇▇▆▅▂??」


 学園長、及び何もしらないクラスメイトたちは首を傾げる。


「彼。ロデロン・デクスターは王都で起こっている魔物出没事件の犯人の可能性があるのです」

「「「ええええ!?」」」


 驚くクラスメイトたち。

 だが、誰一人として「犯人コイツじゃないのか?」という視線を俺に向けてくることはなかった。

 それがちょっとだけ嬉しい。


「どうなんですか?」

「……っ!」


 リィラに睨まれ、悔しそうな表情を浮かべるロデロンくん。


「さぁ、洗いざらい答えて下さい。もし貴方が潔白であれば、私が責任をとります」


 リィラの言葉に、ロデロンはニヤリと笑った。


「言ったなリィラ? 僕の名誉を傷つけたんだ! もし冤罪だったら、お前を僕の好きなようにさせてもらうからな!」


 コイツ……、調子に乗りやがって。

 俺がつい手を上げそうになったとき。先に動いた者が居た。


「……痛!?」


 ロデロンくんの頬を、光の弾丸が通り抜けた。


「ひゅっ」


 手をピストルの形にしたレオンは指先にふっと息を吹きかけた。

 どうやら弱めの魔法で威嚇したらしい。


「王女サマニムカッテ何テ口の聞キ方ダー! 許セナイゾー!」

「れ、レオン。あんなにリィラと仲が悪かったのにお前……侮辱されたリィラの為に……怒って」


 いがみ合っていた二人はやっと仲良くなれたんだな。

 ちょっと泣きそう。


「いやリュクスくん!? 全然心籠もってなかったですからね!?」

「自分がイラっと来たから王女様のためって名目で撃っただけでしょ」


 リィラとエリザに突っ込まれる。

 え、そうなの?


「さぁロデロンくん。質問に答えろ」

「……」

「おい、なんとか言えよ」

「……」

「コイツ……」


 このまま黙っているつもりか?


 もし犯人じゃないのなら、普通にそう言えばいい。


 それで身の潔白は証明される。


 沈黙していれば確かに犯人とはいえない。

 だが沈黙していること自体が自分で「犯人です」と言っているようなものだと何故気づかない?


「……。……痛!?」


 再びレオンの魔法がロデロンの頬を掠めた。


「あーもうじれったいな~。黙ってると、次はもうちょっと強めの魔法で攻撃しちゃうよ?」


 不味いな。レオンが爆発寸前だ。


 そして回りのみんなも、特にそれを咎めない。


 ロデロンくんの態度で、みんな彼が犯人だと確信しはじめている。


「ちょっと待つさねレオン! アンタが強めの魔法を使ったら、アタシまで危ないさね」


 確かにレオンの魔法の出力が上がれば、ロデロンに膝枕状態の学園長が危ない。


「ボクも残念だよ。でも仕方ないんだ。コイツが黙秘を続けるなら、もっと高火力の魔法を使うしかないんだ」


 学園長も巻き込めると知って、撃つ魔法が「もうちょっと強め」から「もっと高火力の魔法」にランクアップしている……。


「……」


 だがレオンの脅しを持ってしても、ロデロンくんの口は堅い。

 くそ……万事休すか。


「喋りなロデロン。アンタにはその義務がある」

「……」


 学園長?


「もしこのまま黙り続けるなら……身動きできないアンタにちゅーしちゃうよ?」

「ああああああああ喋る喋る!」


「おお……」

「流石学園長……!」

「レオンでも無理だった相手に」

「口を開かせるなんて!」

「凄い!」


 感激する生徒たち。


「複雑さね……」


「さて、それじゃ質問だ。ここ最近の一連の魔物の事件。全部お前が仕組んだんだな?」

「ああ。王都の魔物も、この訓練場に現れた魔物も、僕とアイツがやったことだ」


 ロデロンの言葉にクラスのみんながキレる。


「ふざけるなー!」

「死にかけたんだぞ」


「静かに。まだリュクスくんの質問の途中です」

「サンキューリィラ。じゃあ続けて質問だ。キミが言うアイツっていうのは一体誰だ?」

「……」


 コイツ……。

 再び黙り始めたロデロンに、苛立ったリィラが質問する。


「そのアイツというのが魔王ルシェルなのではありませんか?」

「はぁ?」


 リィラの言葉にロデロンは素っ頓狂な声をあげた。

 これは……。


「独自の調査で、貴方が【ルシェル】という者と共に居たことはわかっています」」

「そしてルシェルというのは、かつて倒された魔王の名前だ」

「その魔王と貴方が手を組んでいたのではないのですか?」


 ロデロンはぽかーんとしている。


 これは、本当に何も知らないヤツの反応だ。


「ぷっ……あはははは! アイツが魔王!? 馬鹿らしい! あんな出来損ないの不細工が魔王な訳ないじゃん!」


 どうやら嘘ではないらしい。

 薬の影響で、嘘はつけないから。

 だとすれば、ゲーム版リュクスの時とは違い、魔王であることをロデロンには隠しているのか?


「では、そのアイツという者のことを詳しく教えなさい」


「ああいいぜ。アイツはなぁ、僕にとってはペットみたいなもんでさ。昔孤児院の前に倒れてたのを助けてやったんだ」


「そのアイツとは、今はどこに居るのですか?」


「知らないよ。アイツは姿を消せるし、地面にも潜れる。あらゆる魔法での感知を回避できる。なんか『自分は普通の生き物とは違う』とか言ってたな。本気で隠れたら誰にも見つからないんじゃない?」


「リュクスくん……これは」

「ああ。なんか謎がより一層深まったな」


 ロデロンの言う「アイツ」とやらの特徴。

 出来損ないの不細工。


 ゲームで見た魔王とビジュアル的特徴が繋がらない。


 では魔王とは関係ないのか?


 しかし、ルシェルという名が表示されているのを確かに見た。


 アズリアの魔法のバグ?


 わからないが……ここで仕掛けてこないと言うことは、一応危機は去ったのか?


「はぁ……」


 学園長がため息をついた。


「ロデロン。アタシたち王立魔法学園は、アンタの過去も知った上で魔法特待生として選んだ。もちろん、母親のことも知った上でだ」

「知っていたのか?」

「当然さね。アタシたちは、アンタがこの学園で成長し、変わっていってくれることを願っていた。国の為、仲間の為に頑張る。そんな偉大な魔法使いになって欲しかったんだ」

「はぁ!?」

「残念だよ」


 そう言うと、学園長は立ち上がる。


「ロデロンはどうしますか?」

「すぐに騎士団と救助隊が駆けつけてくるさね」

「ち、ちょっと待てよ……僕が騎士団に引き渡されるって……学校は!?」


 放置されているロデロンが叫ぶ。


「もちろん、退学さね。悪いがアンタには、全ての責任を背負ってもらうよ?」

「く……そんな……やっと王立学園に入れたのにぃ……くっそおおおおおおおお!」


 一人叫ぶロデロンを、皆いたたまれない目で見ていた。


 その時。


「キヒヒヒヒヒヒ」


 誰か一人だけ。


 笑っている。


 皆「え、誰?」と顔を見合わせる。


 生徒じゃない。


 だが、ずっと聞こえてくる不気味な笑い声。


 その声は……。


「あ、あそこ!」


 誰かが指差した。

 そこには、起き上がったガリルエンデが居た。


「コイツ……まだ死んでなかったのか!」

「そんなわけない。確かにヤツは倒したよ!」

「何か様子がおかしい」


 再び戦おうとするレオンをゲリウスくんが止めた。

 確かに何かおかしい。

 さっきまでとは様子が違う。


「キヒ……キヒヒ。忘れろよロデロン。王立学園なんてさ……」


「が、ガリルエンデが……」

「喋ってる……」


 恐怖で引き攣るクラスメイトたち。

 そんな中、お構いなしに会話を始めるロデロンとガリルエンデ。


「お、お前……そんな所に隠れてたのかよ?」


「キヒ……コイツらが頑張ったお陰で、強い体手に入った……から」


「ったく。ってか、僕捕まるらしい……なんとかならないか?」


「キヒヒヒヒ。ならない。でも……キヒヒ、大丈夫。ロデロンが欲しいのはリィラ・スカーレットただ一人。他は殺そう。そうすれば、キヒヒヒ。捕まらなくて済む」


「そ、そうだよなぁ! もう学園なんてどうでもいいや! リィラさえ居れば!」


「キヒヒ。そうだろそうだろ。俺に……キヒヒ……任せろ」


 ロデロンと……ガリルエンデが会話している?


 でもさっきロデロンはガリルエンデにボコられて……ん?


 俺たちが混乱していると、ガリルエンデは大きく口を開いた。


 そして、ペロンと出された舌の上に、奇妙な生物が乗っかっていた。


 青い肌をした赤ん坊の頭部。首から下はなく、後頭部から伸びた脊椎がまるで蛇のようにうねうねとしている気持ち悪い生物。


 ソイツと目が合った。


 いや、正確には目は合っていない。

 何故ならそいつの目があるべき場所は、空洞になっていたからだ。


 寒気がした。


 そんな俺の姿が面白かったのか、キヒヒと笑いながら化物は言った。


「俺はポパルピト・マルケニス。よろしく、魔眼の子。キヒヒ」


***

***

***

あとがき


次回、いろいろ判明?




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