第80話 ロデロン・デクスター

「ロデロン。貴方はね、本当は貴族様の息子なのよ」


 僕の母はかつて、とある伯爵家に仕えるメイドで、当主と愛し合っていた。

 その当主は政略的に他の貴族の娘を嫁にしたものの、本当の愛は自分に向けられていて。

 それに嫉妬した当主の嫁に屋敷を追放された。


「今は貧しくて苦しいけど。大丈夫。貴方のお父さん……いつか、伯爵様がきっと迎えにきてくれるわ」


 橋の下の小さな小屋で、母は毎晩のように僕にそう言い聞かせた。


 だから幼い頃の僕は、自分は本当は貴族の隠し子で。

 いつか父上に認められ、貴族の生活ができるようになるんだと。


 そう思っていた。




 僕が8歳の頃、母が捕まった。


 なんでも伯爵家の屋敷の前で何日も叫び続けていたらしい。

 自分は伯爵家当主の愛人であり、彼の子を産んだと。

 だがその主張は日に日に過激で支離滅裂なものになっていって。

 次第には「自分は伯爵に無理やり手籠めにされ望まぬ子を産んだ。逆らえなかった」と言い始めたらしい。

 伯爵家は大変な騒ぎとなり、僕も血縁魔法(血液中の情報から親子関係や血のつながりを調査する大魔法)によって調べられた。


 結果、僕は伯爵家当主様の子供ではなかった。


 母が屋敷を追放された後、体を売って生活していた時に身ごもった、平民の子だったのだ。

 しかも、母が屋敷を追放されたのも、伯爵様の奥さんに陰湿な嫌がらせをしていたからだとか。


 その後、母は投獄され、僕は王都の孤児院に預けられた。




 孤児院での生活は最悪だった。


 そこで暮らす孤児はみんな低レベルで、いつも僕をいじめてきた。


 当然友達も居なかった僕は、本を読むことに没頭した。


 中でも一番好きだったのは『ブレイブファンタジー』という架空の物語だ。


 魔法に目覚めた平民の主人公が王立学園に通うというストーリー。


 熱いモンスターとの戦いや仲間との友情に、僕は心ときめいた。


「先生! どうすれば僕も王立学園に行けるのですか?」

「あはは。あれは貴族の方々が通う学校だよ。キミには関係のないところだ」


 孤児院の先生はそう言った。


 僕たち孤児院の子供は、10歳になれば町の工房やお店で見習いとして仕事を始め、15歳で巣立っていく。


 学校に通うことなどないと、そう言われた。


 僕は怒りに震えた。


 どうして。


 どうして貴族に生まれただけであんな楽しそうな生活ができるのだと。


 どうして貴族に生まれなかっただけで、僕はこんな糞みたいな生活を送っているのかと。


 僕だってあの主人公たちのように、楽しい学園生活が送りたい!


 自分の生まれを呪った。


「お母さんのせいだ……お母さんが本当に貴族と結婚していれば僕だって……」


 王立学園に通って、素晴らしい生活が送れたのに……。

 そんな怒りからますます孤児院で孤立していた僕は、ある日、運命の出会いをした。


 僕の居た孤児院は国が運営しているから、王様が遊びに来てくれることはよくあった。


 だがその日は、特別にお姫様も来ていたのだ。


「美しい……」


 その日初めて見た、当時8歳のリィラは本当に美しくて。

 リィラに比べたら、孤児院の女の子なんて全員ブスに思えるほど……神々しかった。


「欲しい……」


 由緒正しい血筋とあの美しい姿。


 なんとしてでも欲しいと、そう思った。


 王立学園に通ってリィラと結婚したい。


 それが僕の夢になった。


 でも。


 僕がリィラの10歳を祝う十年祭に呼ばれることはなかった。

 ブレイブファンタジーでは、主人公と王女は十年祭のダンスパーティーでダンスを踊る。


 僕も絶対に参加したかったのに。


 駄目だった。


 その十年祭から二十日ほど経った頃だったか。


 孤児院の裏で、赤ちゃんの鳴き声のようなものを聞いた。


 別に珍しいことではない。


 望まない子を産んでしまった女が孤児院に子供を捨てていく。

 よくあることだった。


 だから、先生に報告しようと声のする方に行こうとして……。


「な、なんだコイツ……!?」


 その日、僕はソイツと出会った。



 ***


「起きなさい……ン……ロン……薬を」


 なんだ?


 誰かに膝枕されている?


 この声は……リィラ?


 そうか。


 あのトカゲにやられた僕を、リィラが介抱してくれていたのか。


「しょう……さね。こうなったら口移しで」


 リィラの口移しか。まったくはしたない子だ。


 どれ未来の夫として説教をしてやらねば。


 そう思って目を開ける。


 すると。


 学園長の顔が目の前にあった。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああ」

「おや、目が覚めたようだね」


「お、驚かせやがって……」


「はん。リィラじゃなくて悪かったさね。ほら、ポーション飲みな」


 学園長は黒い瓶を持っている。


 こんなババアの施しは受けたくないが、体が痛くて全く動かない。


 仕方ない。飲んでやるか。


「体が動きません。飲ませていただいてもいいですか?」

「ああ。ほら」

「ん……んん? んんんんん!?」

「ほら、吐き出すんじゃないよ。全部飲みな!」


 とんでもなく酸っぱい味が口に広がる。吐き出そうとしたが、学園長に無理やり全部飲まされた……。


 おええ。


「全部飲めたね。偉いじゃないか」

「はぁはぁ……これ本当にポーションですか!? 味がおかしいんですけどぉ!?」


 ポーションはもっと苦い味だったはずだ。


 それに……体の痛みが全く消えない。


 僕の体は依然動かないままだ。


「おかしいね。リュクスのヤツがポーションと別の薬を間違えるとは思えないが……」

「リュクス……まさか、リュクス・ゼルディアの!?」

「ああ。アンタに絶対飲ませるようにって……そうかポーションじゃなかったのか。アンタに絶対飲ませるようにって言われたもんだから、てっきりポーションかと」

「ば、ババア! この僕にわけのわからない物を飲ませやがってえええ!?」

「ば、ババ!?」


 あ、あれ!?

 ぼ、僕は学園長になんてことを……でも、恐怖故か、止まらない。


「ど、毒だ……毒を盛られたんだああああ」

「落ち着くさね。どうしてリュクスがアンタに毒を盛る必要が」

「そ、それは……リィラと僕の仲を妬んで……」

「大して仲良くないさねアンタたちは……」


 ヤツはリィラと僕の仲を妬んで、それで僕に毒を……。


 って、肝心のリュクス・ゼルディアはどこだよ?


 動かないから目でヤツの姿を追う。


 すると、ヤツはガリルエンデと戦っていた。


「ったくいつまで手こずってんだよ」

「一瞬でやられたアンタが言うコトじゃないさね」


 負けろ。負けろ。負けろ。


 死ね。死ね。死ね。


 その魔物は僕が倒すためにばせたんだ。


 そう思いながらヤツの戦いを見ていた。


 だがヤツがピンチになる度に、ヤツの回りには仲間が増えていく。


 みんなで協力しながら、ついにヤツはガリルエンデを倒した。


「あっ……ああ」


 まるで、僕の好きなブレイブファンタジーのように。

 勝利したリュクスとレオンが、みんなから祝福されている。


「ああ……ああ……ああああああ」


 ずるい……。ずるいずるいずるい!


 お前達貴族はいつもそうだ。


 僕をのけ者にして……自分たちだけ楽しそうに……。


 リィラまでアイツの横で喜びやがってぇええええ。


 僕の心配をするほうが先だろうがああああ。


 ずるい。ずるい。ずるい。


 許せない。許せない。許せない。


 こんなの間違ってる。

 あのモンスターは僕が倒すために喚ばせたモンスターだ! なんでお前達が倒しちゃってるんだよ!


 もう嫌だ。


「おい……どこかで聞いてるんだろう?」


 僕はアイツに語りかける。


 アイツは嬉しそうに答えた。


 学園長が間抜けな様子で狼狽えているが、関係ない。


 そうだ。


 まだ終わってない。パーティーはここからだ。


***


***


***


「グォ……リィ……」


 俺とレオンの魔法で、ようやくガリルエンデを倒すことができた。


「うおおおおおお!」

「やったぜえええ」


 湧き上がるみんな。


 それを一喝するように、リィラが叫ぶ。


「みんな、気を抜かずに! まだ戦いは終わっていません」


 その勢いに、皆が固まった。


 そして、気を引き締める。


 そう。


 管理棟に戻ってくるまでの間に、リィラとゲリウスくんには全てを話していた。


 アズリアの魔法で『ルシェル』の名を見かけたことを。


 そのルシェルというのは、かつて倒された魔王の名前だと言うことを。


『さっきの戦いでね、私の魔法もちょっとだけパワーアップしたみたい』


 スライム・ジ・エンドを倒したことで、アズリアもレベルアップしたのだろう。

 そのためか、アズリアの魔法もより高度なものに成長していた。


 新しい機能が追加されたのだ。


 ひとつはログが見られるようになったこと。


 そして二つ目は……マップの拡大縮小ができるようになった。


 その二つを駆使して、模擬戦イベント開始前のAチーム拠点を見てみる。


 前は、小さいマップに20人が一斉に表示されていたから、細かい位置関係がわかりにくかった。

 だが地図を拡大してみると、所狭しと並べられていたみんなの名前が正しい位置で表示される。


 そこで、ルシェルと重なって名前が表示されていた一人の人物が浮かび上がった。


「ロデロンくん」


 俺は学園長に膝枕されているロデロンくんを睨む。


「テメェ……リュクス・ゼルディア……僕に何を飲ませやがったぁ……」


「り、リュクス、酷いじゃないさね。アタシを騙して、ロデロンに何を飲ませたんだい?」


「騙してなんて人聞きが悪いです学園長。俺はそれがポーションだなんて、一言も言ってないですよ?」


 まぁ詭弁だ。

 学園長にそう思い込ませるように誘導はしていたから。


「で、何を飲ませたんだい?」


「【嘘をつけなくする薬】です」


「そ、そんなものを!?」


「ええ。俺が留学に行っていた国では、女性はみんな持っていました。旦那に抜き打ちで使うみたいです」


 周囲で聞いている男子たちが青ざめた。


「ぐ……」


 憎しみに満ちた表情で俺を睨むロデロンくん。


 さて、それじゃあ単刀直入に聞こうか。


「質問する。ロデロンくん。魔王ルシェルは今どこに居る?」


***

***

***

あとがき


いま、ロデ×ババが熱い!

次からラストバトル?かな?


ロデロンが可哀そうになり過ぎないように気を付けました。



カクヨムコン効果でPVやばいです。(悪い意味で)

なんか昨日だけで5000作品投稿されたんだとか。


みなさんはもちろん、浮気なんてしてないですよね?


ね?


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