第79話 救援side 憎しみの連鎖を断って

 伯爵令嬢アリッサ・モンヴェアは、リュクスの攻撃で開幕早々に敗退し、管理棟に戻っていた。

 そして、ガリルエンデ出現と同時に倒壊した管理棟の下敷きとなっていた。


「はぁ……はぁ……」


(苦しい。呼吸が上手くできないわ……)


 足が折れているのか、動けない。


 積み重なった瓦礫のせいで外の様子もわからない。


 その時、外から男子の声が聞こえた。おそらく、救援活動をしているのだろう。


「おーい! まだ埋まってるヤツはいるかー?」

「い……る……」


(救援だわ。ここ! 私はここ! 助けて!)


 だが、アリッサは大きな声を出すことができなかった。


「どうだ?」

「こっちはもう誰も居なそうだ」

「よし全員救助完了だな」

「気が早いよ」

「今度はあっちの方を探してみよう」

「おうよ!」


「まっ……て」


 救助をしているのだろう男子生徒たちの声が遠ざかっていく。


 そして、孤独と絶望感に襲われる。


(私……こんなところで独りで死ぬの? 誰にも看取られずに……? まだ素敵な恋も、結婚もしてないのに……)


 じわりと涙が出てくる。


 誰かに助けて欲しい。


 そう強く願った。


「もうここには誰もいないんじゃない?」

「声もしないなぁ」

「う~ん」


 その時。


 今度は女子の声がした。

 アリッサの胸に希望の光が宿る。


 だが、すぐにその光は消える。


(あの三人は……)


 その声の主に気づいて、アリッサは絶望する。


 エル・オルファ。ラトラ・トーラ。そしてアズリア・フルリス。


 アリッサが今まで散々「田舎者」とバカにしてきた3人だったからだ。


(そんな、よりにもよってあの三人なんて……)


 見つけてくれたとして、あの三人が自分のことを助けてくれるだろうか?


 今まで散々意地悪してきた相手だ。


 きっと見捨てられる。


 そう思った。


(私は……今までなんて愚かなことを……きっと、バチが当たったんだわ)


「待ってエル。ここにまだ一人埋まってる」

「流石アズリアの魔法! って……」

「コイツは……モンヴェアか」


 どのような手段を使っているのかアリッサにはわからなかったが、とにかく、3人が自分の存在に気づいた。


 そして、エルとラトラが明らかに迷っているのがわかる。


 当然だ。


 ずっとバカにしてきたのだ。


 そして彼女たちには助けないという選択肢もある。


 アリッサは「見捨てられる」と、そう思った。


「――魔法付与」「エンジェルフライ!」「――付与魔法解放」


(え? え? あの三人が魔法を!?)


 困惑するアリッサを他所に、彼女を覆っていた巨大な瓦礫が次々と宙に浮かぶ。


 そして、アリッサは三人の手によって引っ張り出された。


(た、助かった……)


「あ、やっぱりモンヴェアさんだ~」

「ったく。散々うちらを馬鹿にしておいて……しっかりしなさいよ」


「ど……どう……して?」


 掠れた声でアリッサは尋ねる。


「あんなに……意地悪したのに……見捨てることだって、できたのに……死んだ方がいいって思っても仕方ないのに……」


 アリッサの問いに、アズリアが答えた。


「確かに私たちは、モンヴェアさんのこと、あんまり好きじゃないです…でも」


 それでもと、アズリアは続けた。


「死んだ方がいいなんて、思わないよ」

「……っ」


 アリッサは涙を流した。


 そして、自分の愚かさを恥じた。


 貴族の家柄……そんなくだらないことでマウントを取っていた。


(私は、こんな素晴らしい人たちに、なんて酷いことをしてきたのかしら……)


 どうか償いたい。そう思いながら大泣きするアリッサに、三人は苦笑いするのだった。


***

***

***

アリッサちゃん、十年祭の時にアズリアのドレスを燃やそうとした子ですね。

連載前のプロットでは、このアズリアに意地悪する役はエリザがやる予定だったようです。初期エリザはメッチャ意地悪な役でした。変えて正解でしたね~!


本日はもう一本投稿予定です!

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