第78話 光と闇

「しぶといですね……まるであの男を見ているようです」


 無限のような耐久力を持っていた男、マスマテラ・マルケニスを思い出したのだろう、苦い顔をするリィラ。


「グォリ……」


 俺とリィラの攻撃を受けて尚、ガリルエンデは死んでいない。


 裏ダンジョンのボスモンスターだ、HPもかなり高く設定されているはずだ。

 そう簡単には倒せない。


「リュクスくんは……体力は大丈夫ですか?」

「まぁなんとか」


 アズリアの魔法で【ルシェル】の名前を見てから、なるべく体力と魔力を温存しながら戦ってきた。

 とはいえ連戦したことに間違いは無い。


 疲れは確実に出ている。


「リィラこそ大丈夫か? 疲れているなら、一度下がってもいいぞ。敵はアイツだけじゃないんだから」


 俺の言葉にリィラは首を振った。


「いいえ。王女の私がここで引くわけにはいきません。ここで下がっては、なんの為に5年間頑張ってきたのか。それに……」


 リィラはガリルエンデをキッと睨む。


「たとえ前座だとしても……あの魔物は、絶対にここで倒さなくてはなりません」

「だな」

「ですね」


「リュクスくんは前衛に。私は後衛に。ゲリウスくんは間に入り、私を守りなさい」

「「了解」」


 グランセイバーⅢを握りしめ、俺は敵との距離を詰める。

 そして、ダークライトニング・スラッシュでヤツのHPを削りに掛かる……が。


「グォリ……」

「何!?」


 ガリルエンデの体がブクブクと沸騰するように膨れ上がる。

 身体中に魔力が行き渡り、よりマッシブな姿へと変化した。


「ふふ、馬鹿ですね! あれだけ筋肉量を増やせば動きは遅く……何ですとおおお!?」


 ゲリウスくんの台詞の途中だというのに、ガリルエンデは音もなく俺たちの背後に移動する。

 くっ、デカいくせになんてスピードだ。

 ヤツがやったのは只の筋力増強じゃない。単純な身体能力……いや、全体的なステータスの上昇。


「グゥオオオオオオ」


 さらに、敵は猿竜砲の発射準備に入っている。


「くっ……この距離では間に合いません!」


 絶対絶命のピンチかと思われたその時。


 ――バキュン!


「グォリ!?」


 猿竜砲発射準備に入っていたガリルエンデが「スンッ……」となった。


 ゲームで言うところの、モーションキャンセルされたような……。

 そして。


「▇▇▇▇▆▆▆▅▂────!!」


「こ、この声は!?」

「筋肉令嬢!?」


「▇▇▆▅▂────!!」


 雄叫びと共に登場したのは筋肉令嬢プロテア・インザバース。

 ガリルエンデから俺やリィラを守るようなポジショニング。


「グォリイ……ゴ!?」


 再び――バキュン。という音と共に、プロテアに殴りかかろうとしていたガリルエンデの動きが止まった。


「▇▇▇▇▆▆▆▅▂────!!」


 その隙に、プロテアがガリルエンデの懐に飛び込み、連続パンチを食らわせる。

 バトルマンガとかで殴りまくってるとき、手が分身してるような表現あるじゃん?


 まさにあれ。


「▇▇▇▇▆▆▆▅▂────!!」

「グォ……グオオオオオオオオ」


 胴体への怒濤の連続攻撃に悲鳴をあげるガリルエンデ。プロテアを驚異に感じたのか後ろに飛び退こうとするが。


 ――バキュン。


 再び聞こえた音と共に、ガリルエンデの動きが止まる。そしてさらにプロテアの追撃。


「ガリルエンデの不自然な動き……もしかして」


「ララ。その通りですリュクスくん。自前の魔法杖を使ってミリタリアが狙撃をしているのです」

「フォルテラ!」


 得意げに現れたのは音楽令嬢フォルテラ・オルガンガーン。


 その後ろに幾人かの、おそらく誰とも戦わずに森に残っていたAチームのメンバーを引き連れて、ここに戻ってきた。


「そうか。ミリタリア・バルカンの狙撃用魔法杖なら……」

「ララ。彼女の魔法【スナイプスナッチ】で相手の動きを止めることができます」


 ミリタリア・バルカン専用魔法【スナイプスナッチ】。敵モンスターの攻撃モーション中に当てることができればその攻撃をキャンセルさせる強力な魔法だ。


 ゲームだとあんまり成功させてくれなかったが、今回は心強い。


「ラララ。このままプロテアだけで倒せてしまいそうですね」

「▇▇▇▇▆▆▆▅▂────!!」(それは無理~)


「だそうです。加勢しますか」


「だそうです……っていわれても」


 プロテアさんがなんて言っているのかわからんとです……。


「Aチームの皆さんは救助チームに加わって。オルガンガーンさん、インザバースさん、バルカンさんは私たちと一緒にこの魔物の討伐に加わって貰います」


 リィラの指示に、全員従う。


「ラララ。王女様。ミリタリアも草葉の陰で『オッケー』と言っています」


「そ、そうですか。どこに居るのかわかりませんが……」


 あと草葉の陰は意味違うと思う。言わんとしていることは伝わるけど……。


「ラ。結構遠くからこちらを見ています。私は耳がいいので、聞こえるのです」


「は、はぁ……」


 フォルテラのマイペースに押され気味のリィラ。

 頑張れリィラ! 新しいクラスのリーダーは君だぞ!


「王女様! 話している場合じゃないですよ」


 エリザの渇で、リィラとフォルテラも戦線に加わる。


「グォリ!」


 ゲリウスくんとミリタリアが敵の行動を封じ。


 俺とリィラ、プロテアとフォルテラがダメージを加えていく。


 それをエリザがサポートする超攻撃型の布陣でガリルエンデのHPを削っていく。


 だが、それでも敵は堅い。


 ゲーム時代には数万ポイントあったであろうはHPを元にした生命力は伊達ではなく、どんなに攻撃を打ち込んでも全く倒せる気配はない。


 攻撃は効いている。


 だがHPが膨大過ぎて、なかなか倒すに至らない。


 まるで5年前のマスマテラ戦の再演だ。


 戦いでは圧倒できてもHPを削りきれない。


 このままじゃ不味い。


 敵はどんなに攻撃を受けても疲れ知らず。


 だがこちらは、あと数分もすれば集中力が切れてくる。ただでさえ模擬戦イベントから連戦だ。


 俺やリィラはスライム・ジ・エンドと。そしてプロテアたちも、Bチームとの勝負、そしてモンスターとの戦いに勝利してここに戻ってきたはずだ。


 疲れていないわけないんだ。


 クソ……強さなら俺たちの方が上なのに……。


 またHPの差で追い詰められるのかよ。


「グォオオオリイイイイ」


 その時。


 天かける星々のように輝く、光の攻撃がガリルエンデに降り注いだ。


 その攻撃には……見覚えがあった。


 この攻撃は……【ハイパーフォトンノヴァ】だ。


 俺が忘れる訳がない。


 ブレイズファンタジーの主人公。俺たちプレイヤーの分身。レオン・ブレイズが魔法を極めた先に習得する最強の光魔法。


 俺たちプレイヤーとレオンは、この魔法で多くの強敵を打ち破ってきたのだ。


 数々の名シーンを彩ったこの魔法を……忘れるわけがない。


「リュクス~! 約束通り助けに来たよ!」

「レオン! 来てくれたのか!」


 レオンがBチームのみんなを引き連れて戻ってきた。

 Bチームのところにはレベル80相当のモンスターが居たはずだが……なんとかなったようだ。

 よかった……。


「おいおい、また強そうなモンスターがいるじゃねーか!」

「我らも何か協力を……」

「できることをやるだけでござる」

「手伝うぜリュクス」


「お前らじゃ相手にならないよ……下がって見てなって」


「あ、あれ……なんかみんな、仲良くなってない?」


 なんか距離感? 雰囲気が違うような……。

 俺の居ないところで、レオンとBチームのみんなが随分仲良くなっている気がするんだけど、気のせいかな?


「えへへ。リュクスもしかしてヤキモチ~? もう可愛いな~ハグしていいかな? いいよね。するね~」

「は、別に違うし」


 マジで違うし。だから俺のほっぺをつつくなレオン!


「あ、エルとラトラは救出チームに加わって貰っていいか? アズリアもそっちに居る」


「オッケーだよリュクスくん!」

「うちらに任せておいて!」


 エルとラトラは管理棟の方へと向かった。


「グゥウウウオオオオオ」


「うわっ……あれは猿なの? トカゲなの? キッショ」

「気をつけろレオン。あいつはガリルエンデ。強さはもちろんだが、生命力が半端じゃない」

「確かにそれは強敵だ。でもさ」

「うん?」

「キミとボクが居れば、無敵だろ?」

「ああ、間違いない」


 レオンが俺の横に並び立つ。


 レオンとBチームの空気が明らかに違った。


 おそらく、何か壁を一つ乗り越えたのだろう。



 あの日。屋上で出会ったレオンは、俺の知っていたゲームのレオンとはまるで違っていた。


 人と絆を育むことを拒むように棘を纏っていた。


 レオン。キミは本当は、困っている人を見捨てられないやつなんだ。


 どんなに不条理を感じても。不公平を感じても。


 それでも旅を辞めることはなかった。


 通りすがりの他人のために命を賭けてしまえるキミは……そんな自分を守るために、辛辣な言葉で人を遠ざけていた。


 でも。


 この学園でキミが出会う人たちは、キミだけに辛い戦いを強いたりはしない。


 キミと共に戦い、命を賭けて、一緒に強くなってくれる。


 どうかそれを、キミに知って欲しかったんだ。


「どうしたのリュクス?」

「いや、なんでもない」


 どうやらレオンは壁を乗り越え、Bチームのみんなと打ち解けたようだ。


 もちろん、ゲーム時代のレオンとはまるで違う性格だけど。


 それでもキミは……いや、お前は、俺たちプレイヤーが大好きだったレオン・ブレイズで間違いなかった。


「リュクス。キミと一緒に戦うのは初めてだね」

「ああ。見せてくれよレオン。英雄の息子の実力ってヤツを」


 主人公として覚醒したお前の力を。


 この物語の主人公は、お前なんだ。


 脇役の俺が場を温めておいた。ほら、最高の見せ場だぜ?


「もちろんだけど……リュクスもボクに力を見せてよね。ガッカリさせないでよ?」

「え、俺?」

「当然だよ」


 まったく無茶を言ってくれる。


 お前のような主人公に追いつくのに、どれだけ努力すればいいと思っている。


 でもまぁ仕方ない。

 お前を一人にはしたくないからな。お前を孤高になんてさせない。


 全身の魔力を高め、さっき見たレオンの技を思い出す。


 覚醒した主人公に追いつくなら……あの魔法しかない。

 ゲーム時代、数え切れない程使った、主人公レオンの最強の光魔法。


 煌めく星を思わせる、光の粒子が美しい特別な魔法。


 どんな危機的状況になっても、この技で切り抜けてきた。この技がなんとかしてくれた。


 イミテーション起動……よし。


 技のイメージはよし。あとは魔力と、ありったけの憧れを詰め込んで。


「準備はできたみたいだね?」

「ああ。俺の新しい魔法、見せてやるよ」

「それじゃ、一緒に行こう」


「――ダークマターノヴァ!」

「――ハイパーフォトンノヴァ!」


 レオンの手から、光り輝く星の粒子が放たれる。そして同時に、リュクスの手から強力な闇が放たれる。


 強い光はより闇を色濃くし、漆黒の闇は星の輝きを際立たせる。


 光と闇。


 二つの力は互いに互いの威力を引き上げながら、螺旋となってガリルエンデに襲い掛かる。


「グゥオオリイイイイイイ!?」


 そして森に響く敵の声が、試合終了を告げるホイッスルのように、森全体に響き渡っていた。


***

***

***

あとがき


みんなの活躍を描くため、無駄に高い耐久力で頑張ってくれたガリルエンデに合掌。


12月です。いよいよカクヨムコンがスタートです。

僕はこの「魔眼の~」ではなく別の作品で参加予定ですが、2章終了まではこの作品に全力を尽くすので、応援頂けたらと思います。


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