第77話 反撃開始!

 エリザの姿が見えた瞬間【ファントムステップ】で一足先に駆けつけた。


「もう……遅いのよ」

「ゴメンて……でも、よくみんなを守ったな」


 悲惨な状況だが、向こうでは生き残った生徒たちが救助活動を行っている。

 それを邪魔されないように敵を押さえていたエリザは、本当によく頑張ったと思う。


「敵を押さえていたのは殆ど学園長だけどね」

「あ、そうなんだ。学園長もおつです」

「はん……当然のことをしたまでさね……それに」


 学園長が悲しげに視線を移す。

 その先にはボロぞうきんのようになったロデロンくんが……。


「ロデロンくーん!?」


 なんでアイツがボロボロに!?


「ロデロンも果敢に挑んださね。でも、駄目だった」


 守れなかった命を……その手からこぼれ落ちた命を嘆くように悲痛な顔で学園長は言った。

 いや、まだ生きてるって。


 ピクピクしてるし。


「学園長、彼にこれを飲ませてください」


 俺は懐から取り出した小瓶を学園長に渡す。


「これはポーションだね?」

「新作です。これを彼に。ロデロンくんには、このまま死なれては困りますから」

「わかったさね。で、アンタは?」

「俺はヤツと戦います」


「グォリイイイイイ」


 スタンから回復したのか、敵は起き上がる。興奮した様子で自分の胸をバシバシ叩いている。


「エリザも、アシスト頼めるかな?」

「ふん。当然よ……」

「わかったさね。生徒に頼るのは不本意だが……アンタならできる」


 学園長にぽんと肩を叩かれた。


「何せ、あの男の息子だからね。それじゃ、任せたよ」

「ありがとうございます。じゃあ学園長、その薬、絶対にロデロンくんに飲ませて下さいね?」

「任せるさね。ポーションを飲ませるくらい訳ないさ。それくらいはやり遂げるよ」


 学園長がロデロンくんの方へ向かう。

 体を張ってみんなを守ってくれた学園長をパシリみたいにしても申し訳ないが、事態が事態だ。


「グォリ……」

「あれは……やっぱりガリルエンデだよな」


 ガリルエンデ。

 ブレイズファンタジーのクリア後ダンジョンのボスモンスター。


 どの既存モンスターとも違う独特の攻撃モーションから、攻略にかなり手間取った記憶がある。

 推奨レベルも100とかなり高く、今の俺では手に余る。


 でも。


 決して倒せない相手じゃない。


「グォリイイイイ!」


 猛スピードで接近してくるガリルエンデ。

 ダークライトニングを見て俺のことを魔法タイプと判断しての行動だろう。


 だが甘い。


 俺は器用貧乏オールラウンダーでね。


「――剣召喚陣起動!」


 先ほどゲリウスくんが使っているのを視た魔法を再現。

 この魔法により、自分が所有する剣を手元に呼び寄せることができる。


 小さな魔法陣から現れたのは。


「アンタ、それってまさか……あの時の聖剣?」


 俺の手に握られたのは黒銀の刀身を持つ疑似聖剣。

 かつてグランセイバーⅡを見たエリザは驚きの声をあげた。


 だが、ちょっと違う。


「それって、あの変態を封じるために使ったんじゃ……持ってきていいの?」

「いや、これは国王に頼まれて新しく作ったヤツさ」

「王様に!?」


 国防用にいくつか欲しいと依頼を受け、密かに製造していた。


 聖剣の材料だったとされる超希少金属グランゾイドメタルをベースに再構築。


 ステータス上昇値は本物の30%程度と以前より低いが、その分、闇属性の魔石を組み込み自然消滅を避けるなど、様々なギミックを追加した。


 作成コストも大幅に下がり、なんと20本も作成することに成功した。

 言わば量産型グランセイバー。名付けてグランセイバーⅢ。


「あ、極秘かつ納品前だからここで使ったのは内緒で……」

「別に言いふらすきはないけれど……敵が来たわよ!?」


「グォオオオリ」

「はああああああ!」


 敵の拳を聖剣で受け止める。


「グォ!?」

「ぐっ……はは! 互角だな!」


 スライム・ジ・エンドを倒したことで、おそらく俺のレベルはアップした。

 体感、レベル60相当まで上がったと思われる。


 さらにグランセイバーⅢによるステータス上昇。


 それらが合わさり、この強力な敵と打ち合えるまでに能力が高まった。


「頑張ってリュクス! ――ハイパワーブースター!」


 さらにそこへ、最強サポーターエリザの強力なバフ魔法が加わる。

 全身に力が漲る。


「はああああ」

「グオリイイイ」


 そして、遂にガリルエンデを押し返す。


「追撃だ――ハイパースラッシュ」


 さらに剣撃スキルで攻撃を仕掛ける。


「グォリイイイ」


「くっ……流石に堅いな」

「でもダメージは通っているわ! 守りは私に任せて、このまま攻めるのよ!」

「オッケー!」


 俺は聖剣にダークライトニングを纏わせ……放つ。


「――ダークライトニング・スラッシュ!」

「グオオオオオオオオオ」


「いける! いけるわ!」


「グォオオオリ!」


 だが「このままやられるか!」といわんばかりに、ガリルエンデが激高する。

 ガリルエンデは空高く跳躍すると、大きく口を開いた。


 周囲の木々が、怯えたようにざわめいた。


 大技が来る。


「グォリイイイイ」


 猿竜砲えんりゅうほうと呼ばれる、ガリルエンデ必殺のエネルギー弾である。


 もし地上に直撃すれば、俺やエリザだけでなく、離れた位置にいる学園長やロデロンくんまで巻き込んで大ダメージを受けるだろう。


 だが俺は何も心配していない。


 何故なら、心強い味方が到着したからだ。


「り、リィラ様……ようやく追いついたと思ったらとんでもない状況ですが……」


 慌てるゲリウスくん。

 だが、共に現れたリィラは落ち着いている。


「あの程度、問題ありません。聖なる炎――」


 リィラの周囲が、清浄な魔力に満たされていく。


「――ヘブンズフェニックス!」


 解き放たれた白き聖なる炎は不死鳥の姿となって、猿竜砲えんりゅうほうを飲み込んだ。


「ゴゴゴ!?」

「そのまま敵を焼き尽くしなさい!」


 炎の不死鳥は旋回すると、そのままガリルエンデに突撃し、その身を焼く。

 無属性のガリルエンデに聖なる炎は致命傷とはならないが、大ダメージは避けられない。


「グオィリイイイ……ゴゴ……ガガ……ギイイ」


 地面に落下したガリルエンデは怒りに染まった眼でリィラを睨む。


 そして、リィラに突進した。


 リィラと聖なる炎を一番の驚異と見なしたのだ。


「化物め、王女には指一本触れさせん」


 その前に、ゲリウスくんが立ちはだかる。

 その手には、ここに来る道中に俺が手渡したグランセイバーⅢが握られていた。

 使ってくれて嬉しい。


「グォリイイイイ」

「――ソードパリィ!」

「グォオオオ」


 邪魔だとでもいわんばかりにゲリウスくんに拳を突きつけたガリルエンデ。


 だが、ゲリウスくんも先ほどの戦いで大幅なレベルアップを果たしている。

 さらにグランセイバーⅢのステータス上昇。


 それらが5年間積み重ねてきた彼の剣の技術を後押しし――最強クラスのモンスターの攻撃を捌くまでになった。


 パリィは見事に決まり、ガリルエンデは体勢を崩しながら宙を舞い、無防備な姿を晒す。


「今だ! ――ダークライトニング・スラッシュ!」

「邪悪な魂を浄化せよ――ヘブンズ・メガ・フレイム!」


 闇の雷と聖なる業火を受け、ガリルエンデは生まれて初めて絶叫した。


***

***

***

あとがき


間が空いてしまいましたが、サポーター様限定特典として、1700文字ほどのSSを公開いたしました。

内容は「合宿後、ベッドに染みついたレオンの匂いにやきもきするリュクスがそのことを有能メイドウリアに相談する」といった内容です。


まだ読んでいないという方は、是非お楽しみください。


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