第76話 裏の怪物

 模擬戦イベントを取り仕切っていた管理棟に出現した魔物は、実体化と同時に周囲にある全てを破壊した。


 管理棟は瓦礫の山と化し、多くの生徒や職員が生き埋め状態となった。


 イベントで敗北し管理棟に戻ってきた生徒は救助活動に移る。

 だがそれを邪魔する者が居た。


「グォリグォリ」


 猿竜えんりゅうガリルエンデ。


 体長4メートル程のモンスター。


 一見ドラゴンのような姿をしているが、羽根はなく類人猿に近い体格と独特なナックルウォーキングはゴリラを思わせる。


 ゲームブレイズファンタジーではクリア後のダンジョンに出現するボスモンスターで、攻略推奨レベルは100とされる超強力なモンスターである。


 非常に頭が良く残忍な性格で、人間の絶望を最上の快楽とする。


 人を殺すことではなく苦しめることを一番に考えている最悪のモンスターだ。

 今回も、敢えて管理棟の人々を殺すことなく、助けようと頑張る生徒たちに横やりを入れて楽しんでいる。


「瓦礫の下に人がいるぞ!」

「よし、魔法で持ち上げる……ああ!?」


「グォリグォリ」


 残忍な笑みを浮かべながら、救助活動をする生徒たちを見据えるガリルエンデ。

 自身も瓦礫を片手て持ち上げると、その生徒たちの方に投げつける。


「邪魔するんじゃないよ」

「ゴォ!?」


 だがガリルエンデが投げた瓦礫は炎に包まれ消滅する。

 学園長の炎魔法だった。


「ハァハァ……アンタの相手はこっちさね」

「グォオリ」


 救助活動の間、ガリルエンデの足止めをしていたのは学園長だった。


 得意の炎魔法で、推奨レベル100の相手を足止めしていたのだ。


 だがその足止めが上手くいっているように見えたのは、あくまでガリルエンデが遊んでいるからに他ならない。


 それは学園長もわかっていた。だがそれでも、少しでも多くの生徒が助かるため、命をかけて戦っていた。


「――ヒートヴァイパー!」


 学園長の放つ炎は蛇のような形になり、ガリルエンデを襲う。


「やったか……?」

「グォリグォリ」

「くっ……」


 灼熱の炎に包まれて尚、ガリルエンデは余裕の表情だった。


 魔法に耐性があるわけではない。


 単純な生物としてのスペックの差だった。


「アンタの顔が苦痛で歪むまで、こっちは魔法を繰り出すだけさね」

「もう無茶です学園長!」


 再び魔法を放とうとする学園長をエリザが止めた。

 学園長から少し離れた位置で、補助魔法によって戦いをサポートしていたのだ。


「ふんっ……アンタも良くやってくれたね。流石コーラル家のご令嬢だ」

「学園長……こんなに血だらけで」

「構わないさね。教師が生徒の盾になるのは当然のことさ」


「でも……」

「すぐに騎士団が来る。アンタは生き残った連中を連れて逃げるんだよ」


 エリザは困惑しつつガリルエンデを睨む。


 あの魔物が大人しくこちらを逃がしてくれるとは思えなかったからだ。


 エリザの予想は当たっていた。


 ガリルエンデはただ遊んでいるだけ。その気になれば一瞬でこちらの命を全て刈り取ることができる。その力を持っている。


 エリザや学園長が生きていられるのは、生きるための足掻き苦しむ姿がガリルエンデを愉しませているからに他ならない。


「フフ。学園長。ここは僕にお任せを」

「グォリ?」

「アンタは……特待生の」

「ロデロン・デクスターです。あの魔物は僕が対峙しましょう」


「アンタには無理よ。早く逃げなさい」


 エリザの声に、ロデロンは苛立ったように舌打ちした。


「コーラル家の失敗作が。僕に指図するのはやめてもらおうか」


「なっ!? なんですって!」


「僕は貴様とは違う……」


「貴様ですって!?」


「僕は天才なんだ。家柄だけが取り柄の君とは次元が違うのさ」


「アンタ……よくも」


「辞めるさね……ロデロン。アンタの力はよく知ってる。信じていいさね?」


「お任せ下さい」


 ロデロンは芝居がかった仕草で前に出る。

 その様子を、ガリルエンデは楽しそうにニヤニヤ眺めている。


「三重属性融合――マジアデルヴェンデ!」


 ロデロンから、緑色の炎が放たれ、ガリルエンデを襲う。


「珍しい色の炎……」

「いや、あれは炎じゃないさね」

「え?」


 ロデロンの放った独特の色をした炎に驚いていたエリザだったが、学園長は首を振った。


「ロデロンの属性は闇、水、風の三つ。あの子はその三つを組み合わせて、わざわざ炎を模した魔法を使うのさ」

「ど、どうしてわざわざ?」

「知らんさね。だが三属性を融合させられるあの子は間違いなく天才だよ。もしかしたらヤツなら……あの化け物を倒せるかもしれないさね」

「ぐぬぬ……」


 緑色の炎がガリルエンデを包み込む。


「ははは! 化け物め! 僕の魔法で焼き殺されるがいい!」

「グォリ……フゥ」


 その時、ガリルエンデが「ふっ」と息を吹いた。

 マッチの火を消すときのように。


 すると、全身を覆っていたロデロンの魔法が消滅した。

 無傷のガリルエンデがロデロンを嘲笑う。


「グォリグォリ」

「なっ……馬鹿な!? 僕の魔法が!?」


 パチパチと拍手をするガリルエンデ。

 完全に煽りである。

 わなわなと震えるロデロン。その様子を見て、これ以上無理だと判断した学園長。


「下がりなロデロン。アンタとエリザは怪我人をつれて王都へ……って、待ちなロデロン!?」


 だが学園長の言葉に耳を貸さず、ロデロンはガリルエンデに向かって走り出す。


「あのバカ――オールプロテクション……はっ!? レジストされた!?」


 特攻するロデロンに仕方なく防御魔法を使ったエリザだが、弾かれてしまった。

 格下と見下す相手の援護はいらないとばかりに。


「くっ……猿があああ僕の力を思い知れ――ヴェルデスパーダ!!」


 ロデロンの手から緑色に輝く剣が伸びる。

 その剣で敵に斬りかかるのだが……。


「グォ」

「ぐあああああああ」


 ロデロンは、まるで羽虫を払うような仕草で弾き飛ばされる。

 ロデロンの体は宙を舞い、瓦礫の方へと落下した。


「ロデロン!?」

「そんな……」


 ガリルエンデのロデロンに対する興味は失せ、残ったエリザと学園長に向く。

 ジリジリと距離を詰められる。


(悔しいけど私の魔法じゃアイツは倒せない……)


 エリザは生粋のサポータータイプ。攻撃をしてくれる味方がいなければ、敵を倒すことはできない。


(学園長にはもう戦う力が残っていない。誰か……誰か来てくれれば……)


「グォリィィイイイイ」


 ガリルエンデの巨体がエリザに襲い掛かる。


「くっ……ここまで……」

「――ダークライトニング!!」


 その時、ガリルエンデに黒い雷が打ち込まれた。


「グオオリィ!?」


 意識外からの攻撃に対応できなかったガリルエンデの体は大きく飛ばされる。


(黒い雷……この攻撃は……まさか!?)


「ギリギリセーフ。間に合ったな!」

「もう……遅いのよ」


 間一髪。エリザの危機に、リュクスが現れた。


***

***

***

あとがき


ガリルエンデ、ゴリラ体型のリザードマンを想像ください。

ゲームブレイズファンタジーはアクションが得意でなくともレベル上げを行えばなんとかなる難易度ですが、流石裏ダンジョンボスの一角。

こいつはレベル上げだけではどうにもならない強さを持っていました。


人間を殺すことより絶望させたりする方が好きなタイプのモンスターです。


「面白かった」「続きが気になる!」という方はブックマーク、☆3評価を頂けるとモチベになります!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る