第75話 レオンとBチーム
「――スタースコール!」
天高く手を掲げたレオンの声に応え、銀河を瞬く星の輝きが敵目掛けて降り注ぐ。
「ギャオオオオオグン」
光輝く24連弾を受け尚、三つ首の恐竜トリプルトプスには傷一つ付けられない。
「か、堅い……」
「一応怯んではいるんだけどな……」
「ふん、そもそも恐竜タイプには魔法は効かないんだよ」
狼狽えるドランたちに、ボクは言った。
「恐竜……?」
「あれってドラゴンじゃないの?」
「違う。本当のドラゴンならもっと理性的だよ。恐竜ってのは、言わばデカいトカゲだね」
人類も魔族も生まれる遙か昔の世界、この星の支配者だった生命体。
それが恐竜。その記録を利用して、ダンジョンが生み出すのが恐竜型モンスターだ。
「ダンジョンが生み出す?」
「ど、どういうこと? 恐竜ってのは大昔の生き物なんだろう?」
「お前ら貴族なのにそんなことも知らないのか?」
ダンジョンに居るモンスターと地上に居るモンスターは根本的に異なる。
地上に居るモンスター、例えばゴブリンやオーク、ワームなどは動物と同じように生活し、繁殖を行う。
親が子を産み育て、その子がやがて親になり……といったサイクルを繰り返す。
生きていくために食事が必要だし、そのために争うこともある。
普通の生物の延長線上に居るのが地上のモンスターなのだ。
「けどダンジョンの魔物は違う。何者かがダンジョンに設定したモンスター設計図。それを元にダンジョンそのものが魔力を使って生み出す。それがダンジョンのモンスター」
だから生命のルールを無視した、戦う機能に特化しただけの魔物も居るし、この世に一体だけといったモンスターも存在する。
中には全身機械仕掛けのモンスターだって存在するという噂だ。
「まだ授業で習ってないところだ」
「な、何者かって誰だよ?」
「それは知らないけど……とにかく、ヤツに魔法は通用しにくい。だから恐竜タイプは武器による物理攻撃で倒すのがセオリーなんだけど……」
鎧のようなガッチガチの外殻を見て。
「あれじゃ並大抵の剣じゃ刃が通らない」
「反則だー!?」
エルが怒る。
まぁ気持ちはわかる。
ボクもコイツ等の手前冷静を装ってはいるが、正直活路が見えない。
目の前のこの強大な敵をどうやって倒すのか、想像がつかない。
「ギュルウウウウ……ギャアアアアス」
なんて話している内に、敵の三つの口が大きく開き……強力なブレスが放たれる。
「チッ――フォトンシールド!」
光の粒子がボクたちを包み、敵の攻撃を霧散させる。ボクが持つ最強の守りではあるが、防いだ攻撃と同じ分の魔力を持っていかれる……。
「だ、大丈夫かレオン……」
「さっきから凄い魔法連発してるけど……」
「魔力なら問題ない――エルゴスフィア!」
この魔法は違う次元から魔力を呼びだし、ボクの魔力を回復させる魔法。
「この魔法がある限り、ボクに魔力切れはない」
「さ、流石だな……」
「うん、別次元過ぎて驚くわー」
とはいえ精神力は回復しない。時間が掛かれば掛かるほど精神は消耗し、魔法の精度は落ちていく。
長時間の戦いは危険だ。
「あった……口だ」
その時、ラトラが何かを呟いた。
「は? 口?」
「うん。あのモンスターのおっきい口の中……あそこなら、装甲もないよね?」
口……?
いや……そうか。
「アリかもしれない。口を通じて体内に打ち込むなら……魔法でも十分ヤツを倒せる」
「でもどうやって!?」
「あのブレス攻撃を搔い潜って、口の中に魔法を打てるのか?」
「手はある……けど」
ボクは言葉に詰まる。
何故ならそれを成すためには……こいつらに協力してもらうしかないからだ。
「ど、どうしたのレオンくん!?」
「俺たちに出来ることならなんでも言ってくれ!」
そうだ。
今はコイツ等を信じるしかない。
そうしなければ……。
「ギャオオオオオング」
ヤツは倒せない。
***
「――フォトン・ディメンジョン!」
小さな魔法陣が展開し、そこから小さなネズミが姿を現した。
輝く白い毛並みに虹色のパーティクル。
ボクの魔力で生成した疑似生命体だ。
「よし――デコイ!」
「付与魔法!」
「ピカッ!?」
ボクの作ったネズミに、ドランの【デコイ】をラトラが付与する。
【デコイ】効果は敵モンスターの攻撃意識を発動者に引き付けるもの。ドランが使えば只の自殺だが、ラトラの付与魔法でその効果をこのネズミに与えたというわけだ。
「よしネズミ。全力で敵を翻弄しろ」
「ピッ!」
光のネズミは駆け出す。
「よし――魔法解放! デコイ!」
「ギャオオオ!」
「ビカジュ!」
「すごい! あのネズミちゃん、ウチの付与魔法発動しても砕けないんだ!」
「物質じゃないからな。それより、ヤツの注意がネズミに向いているうちに……」
トリプルトプスの注意がネズミに向いた。今のうちに準備を進める。
「口の中を狙うとはいえ、ボクの魔法だけじゃ決定打に欠ける……そこでだ」
ボクは攻撃魔法を使える四人、モエール、ブシャ、ドロック、ピュートを見る。
そして、魔法を発動した。
それは今まで存在理由すらわからなかった魔法。いつの間にか使えるようになっていて、でも一生使うことはないと思っていた魔法。
今ならこの魔法の意味が理解できる。
「――ブレイブユニオン!」
ボクが魔法を発動すると、光の輪が出現する。
「この輪の中に、オマエ等の最強の魔法を打ち込んで欲しい。そうすることで、ボクのパワーがアップする」
「おお!」
「我々の力を一つにする訳ですな!」
「燃えるぜえええ!」
「いいから早くしろ」
ネズミが頑張っている内に。
「よし! ――バーニングシュート!」
モエールの炎魔法。
「いくでござる――ウォーターハザード!」
ブシャの水魔法。
「力を――ウィンドプレッシャー!」
ピュートの風魔法。
「受け取れ――ガイアブラスト!」
ドロックの土魔法。
四つの魔法がブレイブユニオンの光の輪に注がれる。
「――ッ!?」
凄い……ボクの力が何倍にもパワーアップしたのを感じる。
みんなの力が……一つになったんだ。
父さんが『この魔法は英雄の証だ』と言っていたのを思い出す。
父さんもこの魔法を使ったことがあったのだろうか? いつか、聞いてみたいと思った。
「れ、レオン君!?」
「ネズミがやられたぞ」
その時、焦ったようなラトラとドランの声がした。
「ギャオオオオオス」
「ビガジュウウウウウ!!!!」
時間稼ぎをしていた光のネズミは、巨大な足に踏み潰され消滅した。
だが十分時間を稼いでくれた。
「エル!」
「うん、行くよレオンくん。今度は拒否らないでね」
「フッ。どうだろうね?」
「もういじわるううううう! ――エンジェルフライ!」
エルの魔法が発動する。
ボクの頭上に天使の輪が出現し、体を空高く飛翔させる。
高く高く。
遙か高くへ。
「ぎゃおおおおおおす!」
敵の三つの頭がボクを見上げる。照準を定めたようだ。
そして、大きく口を開きブレス攻撃の準備をする。
空高く君臨するボクを確実に殺せるよう、いつもより多めに、攻撃のためのエネルギーをチャージしている。
「ちょっとそれは、悠長だろノロマ――フォトンドライブ!」
「ギャ!?」
高速移動を可能にする魔法【フォトンドライブ】で、ボクは一瞬でトリプルトプスの顔付近に移動する。
敵の攻撃は間に合わない。
大きく口を開けた姿は、実に滑稽だ。
「そのまま死ね――ハイパーフォトンノヴァ!」
敵の体内に、ボクの最強の攻撃魔法が注がれる。
星の爆発を思わせる虹色の輝きをすべてその巨体に流し込む。
「グギャアアアアアアア」
光の粒子が柔い体内を蹂躙し、敵の体を完全に破壊した。
「はぁはぁ……はは。勝った」
ボクの体は丁寧に。そして優しく地面に降りた。エルの操作だろう。
そういえば、最初に使われた時は天井にぶつけられたっけ……。
「まったく……上手くなりやがって……ムカつく」
地面に降りると、みんなが駆け寄ってきた。
その反応は様々。
ボクに感謝したり、感激していたり、安心したように座り込んだり。
その光景を見て……こういうのも悪くないなと思った。
でも、勝利の余韻に浸るのはまだ早い。
まだ、リュクスたちが戦っている。
「どうしたのレオンくん?」
「行かなくちゃ。まだリュクスたちが戦ってる」
「わかるのか?」
「うん。管理棟の方だね……かなり強い魔物がいる。リュクスもそこに居る」
「今の恐竜より強いって……」
「嘘だろ?」
「ボクは一人でも行くよ。君たちは……どうするの?」
ボクは少し試すように彼らを見た。
だがそんなことをするまでもなく。
こいつらの答えは決まっているようだった。
「行く……行くよ!」
「頭数は少しでも多い方がいいよな」
「みんなを助けなくちゃ!」
「ふんっ。足手まといになるのは勘弁してよね……って、何がおかしいんだよ?」
Bチームの連中はニヤニヤしながらボクのことを見てくる。
なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ。
「ほら、早くいくぞ」
ボクは……ボクたちは、リュクスの待つ管理棟の方へと向かった。
***
***
***
あとがき
いよいよ次から二章最終戦です。
今日はこの後予定があるので早めの投稿です。
レオンの技は性格に反して主人公らしい王道な感じでまとめてみました。
Bチームのみんなもいい感じに全員活躍できたのではないでしょうか?
「面白かった」「続きが気になる!」という方はブックマーク、☆3評価を頂けるとモチベになります!
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