第74話 英雄
「初めましてだな。俺はリュクス・ゼルディア。お前と同じ一年生だ。よろしく」
一目見た瞬間わかった。
コイツは強い……ボクと同じかそれ以上の力を持っていると。
それだけの鍛錬を積んできた強者だと。
底が知れない。
王都で噂になっている魔眼の子。
魔王と同じ眼を持つ呪いの子。
多くの人々を救ってきたにも関わらず、深紅の瞳を持つその男は、多くの人々から忌み嫌われていた。
ボクや父さんは助けてやった奴らから感謝の言葉を貰っていたけれど(儲からないとはいえ)。
リュクスは……。その感謝の言葉や気持ちすら受け取ることはできないんだ。それでも君は……。
だから気になった。
単純にこの男に興味が湧いた。
不思議だったんだ。
だってリュクスは、自分がこうなる原因の一端である無能王女のことが大好きで。
魔法すら使えない名ばかり貴族のぼんたちのことも大好きで、手ずから鍛えてやったりしている。
そんなことをしても無駄なのに。
リュクスが奴らに与えたものの、10分の1も奴らはリュクスに返してはくれないだろう。
何故なら、それが弱者というものだから。
泣いて喜んで感謝の言葉を口にするだけ。
合宿の日、風呂で二人きりになったとき、そんな話をした。
ボクの過去のこと。
リュクスのやっていること。
そうしたらリュクスはこう言ったんだ。
「う~ん、何かを返して貰おうって思ったことはないかな……」
「見返りは求めてないってこと?」
「ああ。魔王復活教とかが居るわけだし、貴族が強くなるのは頼もしいじゃないか」
「なるほど貴族故の考えだね」
「立場の違いもあるかもな。俺はホラ……助けた人たちに何か返して貰わなくても、飢えることはなかったし、そもそも助けたっていっても薬で間接的にだしな」
「けれど自分を嫌っている人間のために何かしようなんて普通は思えないよ。昔は【英雄の息子】って言われてチヤホヤされていたけど、そんな人たちのためにでさえ、命を懸けるのは嫌だった」
「不必要に人を傷つけて遠ざけるのはその為?」
「……」
どうだろう。
忘れちゃったな。
昔はもっと人と仲良くなれた気もしたし……昔からずっとこんな性格だったような気もするし。
「そうだよな。大事な人のピンチだったら……命懸けちゃうよな……」
「ボクはどうだろうね。ボクが危険なようなら、助けないって選択肢もあるかもね」
「え、じゃあレオンは、俺がピンチになったら助けてくれないのか?」
ちょっと寂しそうに言うリュクス。
お風呂に居るからかな、本当に泣いているみたい。
可愛いなぁ……そんなの反則だよ~!
「リュクスだけは特別だよっ! リュクスがピンチになったら、絶対に助けに行く!」
「ありがと。俺もレオンがピンチだったら、絶対助けに行く」
「本当ー!? 嬉しいなー。早くボクがピンチになるような事件が起きないかな~!!」
「おいおい。不吉なこと言うなよ」
「まぁボクたち二人が揃っていてピンチになるようなことなんて、早々起きないと思うけどね~」
「それもそうだな。それこそ魔王でも復活しない限りは」
「あはは! 魔王が来たって、ボクとリュクスが居れば楽勝だよ」
どうしてボクだけがこんなに辛いんだろうって、いつも思っていた。
各地を旅して困っている人たちを助けていたボクは、両親に愛されて、美味しいものを食べて、同じ村の子供たちと友情を育み成長していく。
そんな子供時代を送ることはできなかった。
英雄の息子として生まれた宿命だと、そう思っていた。
その代わりに手に入れた圧倒的な強さがあれば、それでいいと納得させていた。
でも、リュクスと話したら少しだけ心が晴れた。
キミと出会ったこの数日が、本当に。本当に楽しかったからだろうね。
「あはは。そうだな。でも」
「でも……?」
「レオンが自分の命を懸けてでも守りたい。そんな人が、俺以外にも、これからどんどん増えていって欲しい。俺はそう思うよ」
「……何言ってるんだよ。そんな人、増える訳ないじゃん!」
キミは特別。
キミさえ生きていればそれでいい。
それ以外のヤツなんてどうなったって構わないんだ。
「だからそんなこと言うなよリュクス!」
ボクがそう言うと、リュクスは寂しそうに笑った。
何故か、とても胸が痛くなったんだ。
***
Bチームの拠点だった場所に強い魔物の気配して、ボクは自然とそちらに走っていた。
現れた魔物の姿を確認して、ボクは身を潜めた。
「なんだあの魔物……化け物じゃないか……」
見るだけで身震いがする。
巨大なモンスターとラトラ、エル、そして男子5人が戦っていた。
敵は三つ首の恐竜型モンスター……しかも森の木々を優に越える大きさを持っている。
5階建てだった学校の校舎より大きい。
鎧のような皮膚と盾のような頭部はBチームの面々の攻撃を全く寄せ付けない。
恐竜型モンスターには魔法が効きにくい。
だから物理攻撃で倒すのがセオリーなのだが、あのモンスターは体の大部分が鎧のように固い皮膚に覆われている。
今持っている模擬戦イベント用の剣では文字通り刃が立たないだろう。
「あの魔物と戦う? ありえない。死にに行くようなものだ」
捨て身で戦って勝率2割といったところか?
いや、もっと低いかもしれない。
でも、別にいいか。
なんでボクが戦う必要がある?
この森は王都に近い。もしあのモンスターが王都へ行けば、壊滅的被害を受けるだろう。
で?
ボクに何か関係ある?
父さんがいればいざ知らず、ボクにこの国を助ける義務はない。
丁度いいじゃないか。
学校なんて辞めたかったんだ。
学校を楽しんでいたお前たちは可哀想だけど、早く逃げた方がいいよ。
そう思っていた。
「「風と水の合体魔法――ポセイドンフォース!!」」
「ギャルルウウウウン」
「くそっ……全然効いてないぞ!?」
「俺たちだけであれを倒すのは無理だ」
「女子だけでも逃げるでござる」
「ああ、ここは俺たちが命懸けで止める」
「できるわけないっしょ!」
「そうだよ! 私たちだって貴族なんだから!」
「……ああ、そうだったな! あんな化け物を放置したら、どれだけの犠牲が出るかわからない」
「騎士団が到着するまでに、できるだけヤツの命を削る」
「おう! やってやら!」
「何言ってんだよお前ら……」
その魔物はお前らじゃ勝てないんだよ。
相手の強さも理解できないくらい弱いのか?
ボクですら勝てないかもしれない相手だぞ?
何が命を削るだよ……お前たちじゃ束になったってアイツには傷一つつけられないんだよ。
なんで命を無駄にしてるんだよ……。
逃げろよ。
ここは逃げて、父さんのような英雄に泣いて縋るのが貴族様ってやつだろ……。
「ギュルアアアアアアア」
敵の口から炎のブレスが吐かれる。
「ぐあっ!?」
「モエール!? モエールしっかりし……グハッ」
「ピュート!?」
「ぐっ……強い……強すぎる」
次々と倒れていくBチームのメンバーたち。
「はぁ……付き合ってられないよ。ボクは帰らせてもらうからね」
馬鹿な連中を見捨てて立ち去ろうとした。
なのに。
足が動かない。
『はぁ!? ウチより髪サラサラじゃん!? どんなトリートメント使ってんの!?』
「勝手に触るな」
『レオン、俺はいつかお前より強くなってやるぞ!』
「無理無理」
『レオン殿。次の授業はこっちでござる』
「うーん……行く気ないなぁ」
『いや行かなくちゃ駄目だぞ!?』
『お前授業中に寝るなよ。ほら、ノート見せてやるよ。今回だけだぞ』
「余計なお世話……」
『ズバリ! レオン君の好みのタイプは?』
「最低限ボクより可愛い子」
何故か、あいつらとの会話を思い出す。
ああもう。イライラする。
ボクは父さんとは違うんだ。
自分の力は、もっと賢く使う。
そう決めたのに……。
「ギュルアアアアアアアア」
「クソ……ここまでか」
敵モンスターの三つの口から、強力なブレス攻撃が放たれる。
そのブレス攻撃はBチームの面々を飲み込もうと迫るが――。
「――フォトンリフレクション!」
光の壁が現れ、Bチームの面々を敵の攻撃から守った。そして、光の壁は敵の攻撃を吸収すると、そのエネルギーを攻撃力に変換。そのまま敵モンスターに跳ね返す。
「ギュラアアアアアアア!?」
「れ、レオン!?」
「戻ってきたのか!?」
「わ、私たちを助けてくれるの?」
「――フォトンヒール!」
光の粒子が降り注ぎ、怪我を負っていたBチームの傷が完全に癒えた。
「あ、ありがとう!」
「まさか……お前に助けられるとはな」
「勘違いするな。別にボクが助けたかった訳じゃない。キミたちが死んだら……リュクスが悲しむから。それだけだ」
「ギュルアアアアアアア」
立ち上がる敵モンスター。
予想通りの防御力だ。今の反射攻撃で傷一つ付いていないなんて。
「レオンが回復してくれたお陰で」
「また戦える!」
「一緒に戦おうぜレオン!」
「ふんっ。足手まといになるなよ」
まったく、こんな無謀な戦いに挑むなんて、どうかしてる。
でも……。
体の奥から、力が湧き上がる。
不思議と……なんとかなるような気がしたんだ。
***
***
***
あとがき
敵モンスターの名は【トリプルトプス】
三つ首のトリケラトプスのようなモンスターです。もはや怪獣ですね。
投稿遅れてすみませんでした。
土日ちょっと立て込んでました。
レオンとお父さんの旅に関してですが、常に飢えまくっていた訳ではないです!
以前授業でカレーの作り方を知っていたように、食料が潤沢な時期もあったでしょうし、気前のいい村もあったと思います。
前話であの記憶が語られたのは、おそらくレオンが一番理不尽というか、不満を感じたときだったからでしょう。
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