第32話 最強チーム
※前書き
いつもお読みいただきありがとうございます。
コメントを沢山いただいているにも関わらず、毎日投稿だけで手一杯になって返信滞って申し訳ありません。すべて読ませていただいております。
その中で一点、補足を。
〇本物の聖剣グランセイバーについて
ゲーム時代はマスマテラとの戦闘時点で宝物庫に戻されていた聖剣ですが、現在はまだ会場入り口に展示されたままになっております。
(一応リィラが会場を飛び出した際に目撃しております)
スタッフ的にはもう片付けたいけど、結構な人が装備できるかチャレンジをしていて盛り上がっていて戻せないという状況になっています。
では何がきっかけでゲーム時代と差異が生まれたのか?
リュクスの父グレムが「やってみるか?」とリュクスに剣を握らせました。リュクス自身も展示品だと思ってたので「え? 触っていいの?」という反応をしていたのですが、それは周囲の人たちも同じでした。「ワンチャン王族と結婚!」と男も女もチャレンジしまくっていてスタッフたちも「あの~もう片付けるよ?」できない状況になっているのが今です。
なので、本物のグランセイバーの出番は今回はなく、もっと後ということになります。
わかりずらい展開で申し訳ありません。
バトルが盛り上がっている今作ですが、まだ序盤の少年編です。今後の聖剣さんの出番にご期待ください。
***
***本編***
***
マスマテラ・マルケニスをぶちのめし、ようやく静かになった宝物庫に、ドンドンと何かを叩く音が響く。
どうやら扉の外に城の人たちが集まっているようだ。
「何戸惑ってるんだよ……」
「あの者が魔法で扉を閉じたのです。おそらく、何かしらの魔法で鍵を掛けたのでしょう」
「だとすると、開けるのは時間がかかりそうだな」
どうしよう。一端秘密の通路から外に出た方がいいだろうか。
コピーしたチョコで回復したとはいえ、初めての戦闘を経験したリィラはとても疲れているはずだ。
かくいう俺も結構無茶な動きをしたから、体の節々が痛い。それに、精神的にも疲れた。やはり本当の殺し合いというのは訓練とは全く違うし、ましてやゲームとはまったくの別物だった。
アドレナリンが引いて冷静になると、軽く肝が冷える。
とにかく、リィラを早く落ち着いたところで休ませてあげたい。
「というか……」
俺はマスマテラ・マルケニスだったもの……黒焦げの肉塊を見やる。
アレと同じ空間にあまり居たくないというのが本音だ。
「後は城の人たちに任せて、ここから出ようか? ん、どうしたリィラ?」
少し青ざめた表情のリィラ。一体どうしたのだろうか。
魔族相手とはいえ、相手を殺めてしまったことを気にしているのだろうか。
「いえ……変だと思いませんか? 術者が死んだのに、扉を閉じている魔法が解けないというのは」
変なのか? そこらへん、俺はあんまり詳しくないのだが、リィラの違和感が正しいとするなら……考えたくない展開がこれから起きる気がする。
「くっ……グランセイバーⅡを……」
取りに行こうとした瞬間……全身に寒気が走った。
生物的本能なのだろうか……得体の知れない感覚に体が一瞬硬直した。
「リュクスくん……あれを……」
震えるリィラが指差す方……マスマテラ・マルケニスだった肉塊を見る。
肉塊は闇色のオーラを纏いながらビクン。ビクンと脈動し膨れ上がる。
「くそどうなってる――ダークライトうわっ!?」
「きゃっ!?」
俺たちの体を吹き飛ばしたのは肉塊から放たれた黒い衝撃派。
くそなんて威力だ……ダメージが全身に入ったせいで思うように動けない。
それをいいことに、肉塊はブクブクと膨れ上がり、やがて人の形を成していく。
身長も体の太さも倍近くなり、筋肉質に膨れ上がったにも関わらず、顔だけがさっきまでのマスマテラ・マルケニスと同じで、不気味な見た目だった。
その表情から余裕は一切消えており、目はギラギラに血走っている。
「ギギ……ギガ……くふぅ。せっかく達磨さんにして生かしておいてやろうと思ったのに。そんなに死にたいか! いいだろう望み通りにしてやる!」
「くそなんだよあれ!?」
あんなのゲームでも見たことないぞ。
ったく、少しはゲーム知識で無双させてくれよ。
「死ねえええい!」
叫びながら、ヤツが飛びかかってきた。野生の獣のような動き。
鋭く伸びた爪が俺たちを襲う。
「くそ、リィラだけでも」
「きゃ!?」
反応できていなかったリィラを抱き抱え、横に飛んで攻撃を回避――したつもりだったのだが……。
「ぐっ……あああ」
「リュクスくん!? そんな……私を庇って」
どうやら失敗したようだ。背中にヤツの爪を受けてしまった。
じんわりと背中が熱くなる。服が血を吸っているのがわかった。
せっかくメロンが作ってくれた服が……くそ。
目が掠れる。そんな中、リィラが俺を治療しようと頑張ってくれているのが伝わる。
「ダメだ。君だけでも逃げろ」と言いたいのに口が上手く動かない。
考えろ……せめてリィラだけでも生かす方法を。
ああダメだ。
思いつかない。
誰か……。
「きひっ……きひゃああああ! ザマァだなクソガキ! もっと苦しめてやりたいが……もう魔眼などどうでもいい! 俺がスッキリするのが先だ! 貴様から死ねぇ!」
マスマテラ・マルケニスはヒステリックにそう叫ぶと、巨大な右手を振り上げた。
だが、その手が俺たちに触れることはなかった。
「あ……ああ? お、俺の手が……ない!?」
瞬きの間に、マスマテラ・マルケニスの両腕はなくなっていた。
「ふぅ……間一髪。間に合ったようだね」
「その声は……」
薄暗い宝物庫に凜とした声が響く。
俺たちを守るように剣を構えるのはブレイズファンタジー最強のヒロインと名高いクレア・ウィンゲートだった。
「クレア!? どうしてここに!?」
「あはは。パーティー会場でアズリアって子と友達になってね! 騎士団も部屋の外に集まってる。もう安心だよ!」
「アンタのおおよその状況はアズリアから聞かせて貰ったわよ。まったく一人でこんなところに姫様を助けにくるなんて……バカなんだから」
その声は……エリザ? エリザ・コーラル!?
「きひぃ……何人増えようが今さ……きひゃ!?」
「今いいところなんだから少し黙っててくれるかい?」
切り落とされた腕を再生したマスマテラ・マルケニスだったが、即座にクレアの剣術スキルによる斬戟で両足を切断された。
「ありがとうクレア。お陰で助か……く、クレア、貴方が装備しているこれ……それも……この宝物庫のものではありませんか!? なんで勝手に装備しているのですか!?」
クレアに礼を言おうとしたリィラだったが、彼女が身に付けている装備を見て頬を膨らませる。
「それは王国が所有する大変貴重な……」
「王国の物ってことは私のものでもあるわけだよね? 緊急事態だし私が有効活用しよう」
ジャイアニズムを発動するクレアにイラついた表情を見せるリィラだったが、俺もクレアの意見に賛成だ。
あと、聖剣を複製するときに色々材料として使っちゃったけど、怒られないよな? 全部マスマテラ・マルケニスのせいにしちゃっていいよな? そうだ、全部あのマスマテラ・マルケニスってやつのせいなんだ。
「姫様、不本意ながら私もクレアの意見に賛成です。今はあの魔族を打ち倒すのが最優先課題かと」
冷静に、リィラを諭すように進言したのはエリザだった。
「ですね。私としたことが冷静さを失っておりました。はい……あの魔族は、絶対ここで倒しておかなくてはなりません」
お……おおお! まさかまさか……まさかのブレファンヒロイン3人の夢の共演か!
戦闘力最強のクレア・ウィンゲート。
四重属性使いのリィラ・スカーレット。
万能サポーターのエリザ・コーラル。
この三人がチームを組むところが見られるなんて……。
はぁああ。最期にいいもんが見られた……これで心置きなく逝ける。満足したぜ。
「目を閉じたら死ぬわよ!」
「んんんんんんんっ」
昇天しようとしていたところをエリザに引き摺り起こされ、背中に液体を掛けられた。
どうやらポーションのようで、滅茶苦茶染みたのだが、焼けるようだった背中の痛みが治まった。
「アンタも戦うのよ……全員で生きて帰るんだから」
「だな……」
「帰ったらいろいろと聞きたいこともあるから。死ぬんじゃないわよ?」
あれいいシーンだと思ったのにエリザがなんか怖い。
「あ、そうだクレア! どうせならあれを使えよ」
クレアの剣は騎士団が使う実戦用の剣。
だがどうせなら、ここは最強装備になったクレアが見たい。
俺は隅っこに転がるグランセイバーⅡを指差す。
「あれ……聖剣!? どうしてこんなところに!?」
「俺の魔法で複製したんだ……クレアに使って欲しい」
「そういうこと、それなら――コールオブソード」
騎士団の剣を投げ捨て、クレアは剣を呼び寄せるスキルを発動。偽の聖剣を手元に呼び寄せた。
「おおっ! もう本物と変わらないじゃん! 昨日のお祭りでおもちゃ買わなくてよかったね!」
「だな」
テンション爆アガりのクレア。
「複製品とはいえ、我が王家の聖剣を他の女に渡してしまうんですね」ジトー
「か、勝つためだから! これが一番勝率が高い方法だから!」
「いいなークレア。ねぇリュクス。私には何か作ってくれないの?」
「ゴメン……思いつかない」
リィラとエリザから視線冷たい視線。
ごめんなさい、いつか必ず作りますので。
なんてやっている間に、完全回復したマスマテラ・マルケニスが起き上がる。
「話は終わったかガキ共……手こずらせやがって……全員皆殺しにしてやる!」
悪役とヒロイン3人という世にも奇妙な最強チームの最後の戦いが今はじまる。
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