第31話 宝物庫の攻防

 コピー元の聖剣グランセイバーは装備したキャラクターの攻撃力を大幅に上昇させる。

 さらに闇属性の敵に触れることでその対象のMP……すなわち魔力を吸収する効果を持っている。

 俺が手にする複製された聖剣グランセイバー……仮名を【グランセイバーⅡ】としよう。

 グランセイバーⅡのステータス上昇効果は本物ほどではない。感覚からして50%程度だろう。

 だがそれでもヤツと俺のスペック差は確実に埋まっている。


 後は俺の持てる全能力を以て、ヤツを足止めする。


「本物の聖剣ならいざしらず……そんな玩具でおじさんが倒せると思っているのかい?」


 俺の振るった剣の一撃をヤツは爪で受け止めた。


「――デモンネイル! 残念だったねぇ……私はこのように自らの爪を上級悪魔の爪のように変化させることができるのだよ」


 グランセイバーⅡの一撃を受け止めたのは人間の皮膚を切り裂き心臓をえぐり取るための悪魔の爪。

 だが、防がれたものの、剣が相手の体に触れた。


 聖剣由来のMPドレインが発動し、ヤツの不快な魔力が俺に流れ込んでくる。


 今だ!


 魔眼の力を使い、ヤツの懐にそのままダークライトニングを打ち込む。


「ぐうううう!? そうか……魔眼にはそういう使い方もあったか!?」

「食らえっ!」

「おっと」


 腹部を狙ったグランセイバーⅡの切っ先はヤツのマントの先を掠めるだけに終わる。


「クソ……痺れているはずなのに」

「あれだけ食らえば慣れるよ……とはいえ食らえば痛いからねぇ。もう受けたくはないかな」


 俺から距離を取ったマスマテラ・マルケニスは再びダークリッパーを発動。

 黒き複数の刃が俺に襲い来る。


「――スロウ!」


 ダークリッパーの刃に魔眼でスロウをかける。スローモーションになった黒い刃を余裕を持って回避する。


「むぅ……」


 ここで初めてマスマテラが黙る。


 戦い方を考えているのだ。


 マスマテラ・マルケニスは多彩な闇の魔法を操る。それを駆使すれば、俺を倒すなんて訳ないだろう。


 だが俺に魔法を見せれば見せるほど、俺はそれを学習し解析し自分のものとする。


 だからこそヤツは慎重になっている。


 さらにヤツには今後復活する魔王のため、俺の魔眼を無事な状態で回収したいという縛りがある。

 ヤツ自身の欲で勝手に課した縛り。


 その縛りを最大限利用して勝たせてもらう。


「――デスラピッドファイア」


 手を掲げ敵が選択したのは闇の魔弾を連射する攻撃魔法。

 これならコピーされても問題ないとの判断だろう。


 だが甘い。


 俺は刀身でガード。魔弾はグランセイバーⅡに触れるだけで魔力へと変換され吸収される。


「おじさんの魔力を吸収している!? なるほどそれがかつて魔王様を倒した聖剣の力という訳か」

「今度はこっちの番だぜ!」


 敵の攻撃が止んだ。

 俺は体勢を低くし、足に魔力を込めて接近する。


 剣術大会で覚醒したクレアから学んだ足運び。


 そして敵の回避パターンからの追撃の展開。


 アイツから学んだ動きのお陰で、想像以上にマスマテラを翻弄できている。


「――くっ……リュクス・ゼルディアにこれほどの剣の腕が!?」


 確信した。


 近接戦闘なら俺の方が勝る。


 マスマテラ・マルケニスに反撃の隙を与えぬよう、息継ぎする間もなく攻撃をし続ける。

 グランセイバーⅡの切っ先が敵を掠める度、マスマテラの魔力が失われていく。


「ちぃ……このままでは」


 マスマテラの表情から段々余裕が消えていく。

 焦っている。

 いや、イラついているのかもしれない。


 だがその時、ヤツは何かを思いついた。


 この土壇場で、この状況を打破する起死回生の一手を思いついたのだ。


 口角が上がる。


 こんなに邪悪な顔は見たことがないというような、そんな表情でヤツは構えた。


「させるか! このまま切り伏せる」

「武装解除の呪文――アームズパージ」


 グランセイバーⅡの刃がヤツを切り裂くまでもう少しだった。


 本当にあと少しだったというのに……。


 だがヤツの手から放たれた衝撃波が俺に到達した瞬間、グランセイバーⅡは俺の手を離れ、遙か後方へと吹き飛ばされてしまった。


 武装解除呪文。

 装備を強制的に外してくる面倒な魔法。ゲームではメニューからすぐに装備しなおせばいい。

 だが現実は違う。


 拾いに行けば済む? 敵がそれを許してくれるはずがない。


 つまり食らった時点で致命的。


「きひひひひひひゃぁ! 君の攻撃と防御は全て聖剣を起点に成立している。ならば聖剣さえ手放させれば私に対抗する手段はない! 終わりだねぇ!」

「それはどうかな?」

「何!?」

「――デモンネイル!」


 先ほどヤツが使用した魔法をイミテーションで発動。グランセイバーⅡを手放しフリーになった両手の爪が伸び赤く変色する。

 そしてそのまま、ヤツの纏うマント……【闇の羽衣】を爪で引き裂いた。


「ば、馬鹿な!? 初めから聖剣は……囮!?」


 グランセイバーⅡで切れればそれはそれで良かったのだが……流石に剣での攻撃はヤツが許してくれない。

 だからこの状況を作るためにヤツの思考を誘導した。


 ゲーム時代に何発も食らってイライラさせられた、あの武装解除呪文の発動を誘発したのだ。


 そして俺はその隙をついて、本命の【闇の羽衣】を切り裂き、無力化することに成功した。


 今までの戦いの全ては【闇の羽衣】破壊のための布石。


「――ダークライトニング!!」

「ぐおおおおおおおおおお」


 反撃はさせない。すかさずダークライトニングを打ち込んだ。


「びが……びび」

「慣れてきたって言っても闇の羽衣なしじゃ、流石にノーダメージとはいかないようだな」

「ふっ……ふふふ。見事だよリュクスくん。確かに君のダークライトニングのスタンは厄介だ。だが闇魔法をベースとした君の魔法は私たち魔族には致命傷たり得ない。決定打のない君では結局私には勝てないよ……?」


 痺れて動けないだろうに、それでも饒舌なおっさんだ。


「確かにな。でも他の属性ならどうだ?」

「他の属性?」

「そう。例えば炎、水、風、土とか。闇の羽衣なしじゃ耐えられないんだろ? 知ってるんだぜ?」

「君は一体何を言って……」


 困惑するマスマテラを他所に、俺はヤツの背後に隠れている少女に声を掛ける。


「さぁ、出番だぞリィラ! トドメの一撃は君にプレゼントだ」

「気付いていましたか……」


 瓦礫の影から、宝物庫で拾ったのだろう強そうな杖を構えたリィラが現れる。

 その杖には魔力が満ちていて、いつでも発射オーケーな状態に見える。


「ば、馬鹿な……王女は逃げたのでは!?」


 意外に素直なんだなおっさん。


「一つ教えておいてやるよ。リィラ・スカーレットは王族としての矜持があり、真面目で努力家で。そして筋金入りの頑固者だ。賊を前に『逃げろ』って言われて素直に逃げる訳ないだろ?」


 自分のために誰かが犠牲になるなんて、絶対に許せない。


 そんな子なのだ。


 かといって、無謀に立ち向かうほどバカでもない。


 だからこそ、マスマテラ・マルケニスを倒すための最善の策を瞬時に理解した。

 俺が【闇の羽衣】を破壊し、影に潜んで魔力を溜めたリィラが最強魔法を打ち込む。

 俺が助けに来た時点でその答えに彼女もたどり着いていた。


「頑固者~?」ぷくー

「あ、あはは。さぁリィラ! 魔王復活を掲げる大悪党を成敗する時だ!」

「そうですね。頑固者発言、そして聖剣複製については後でゆっくりとお話しましょう。まずはこの不届き者に成敗を……四重属性」


 リィラの魔力が周囲に満ちていく。溢れた魔力が可視かされ、黄金の輝きを放つ。


「ま……待て……待ってくれ……故郷で私の帰りを待つ妻がいるんだ……どうか」

「究極合体魔法――フュージョンディザスター!!」


 マスマテラ必死の命乞いは、黄金の輝きによってかき消された。


 後のリィラ曰わく、この日の四重属性合体魔法は今まで打った中でも最高の威力だったという。

 なんでだろうと思っていたけど、そういえばさっき俺のあげたチョコ食ってたわ。

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