第28話 この世界はゲームにあらず

前書き

27話にて「リィラはヒロインじゃないの?」というコメントをいくつか頂いております。リィラ視点がない理由は「後でやる」「あの時間帯にパーティー会場にいないから」であって、ヒロインじゃないというわけではありませんので、ご安心頂けたらと思います。

結論→誤解を生むサブタイが悪い……ごめええええん!



***本編***



 無事ダンスタイムを終えた俺とアズリアは適当な席に腰掛けて食事をしていた。


 パーティー終了までまだ時間がある。

 この機会に美味しい食事を堪能しようとのことだった。


「このパーティーのお料理はね! 王都中のレストランのシェフさんが集まって作ってるんだよ! こんなの一生に一度の機会なんだよ!」

「マジか」


 俺はどうしても兄の姿が頭に浮かんで食が進まないのでお菓子だけに済ませ、あとはパクパク食べては幸せそうにもぐもぐするアズリアを見て楽しむ。

 そしてアズリアと互いのことを話しつつ、俺は裏で進行しているはずのプロローグイベントに思いを馳せる。



 ブレイズファンタジープロローグ。


 竜殺しの英雄と呼ばれる偉大な父を持つ主人公レオンが、父に連れられ王城へとやってくるところから始まる。

 その日は年に一度の十年祭のパーティー。しかも王女様が10歳ということで、いつも以上に盛大に行われている。


 そこで主人公レオンは王女リィラと出会う。


 大人たちとの挨拶ばかりで退屈していたリィラは一瞬で主人公を気に入る。そして二人は大人たちの隙を突いて会場を脱出。


 王城の中を探検する。


 そして二人は発見する。


 子供しか通れない細い通路。ワクワクしながら進む二人。そして、その先には宝物庫。

 そして……そこには展示から戻された聖剣グランセイバーがあった。


 王女リィラはイタズラっぽく言う。「この剣を装備できた者は、王族と結婚できるのですよ?」と。

 どきどきしながら剣に触れる主人公。


 だが何も起きない。


 がっかりしている二人の元へ……宝物庫へ忍び込んだ最悪の男が忍び寄る。


 その男の名はマスマテラ・マルケニス。魔王復活教の教祖である。

 とあるアイテム強奪のため、一年で最も警備が厳重なこの日を敢えて狙ってきた狂人である。


 リィラを守るために必死に戦うレオン。


 だがマスマテラ相手に勝負にならない。


 絶体絶命のその時、聖剣グランセイバーが輝き、マスマテラ・マルケニスは弱体化。

 ようやく駆けつけた英雄レオを見て、撤退していく。

 英雄の息子と王女リィラの小さな大冒険は、こうして幕を閉じるのだった。



 いや、いいよね。

 大人の介入しない、子供だけの秘密の大冒険って感じが好きだ。


 そしてこの出会いが後の学園生活にも活かされていくからね。


「さてそろそろかな……」

「うん……そろそろデザートが運ばれてくるころだね!」

「いや、そうじゃなくて」


 すっかり打ち解けてタメ口で話してくれるようになったアズリアは、美味しいものを狙う狩人のようになっていた。


 だが俺の狙いはスイーツじゃない。


 そろそろパーティー会場の方で、王女が居ないって騒ぎになり始める時間だ。


 そして、それと時を同じくして、宝物庫にマスマテラ・マルケニスが現れる。


 主人公レオンの最初の試練なのだ。

 

「おーいレオン。そろそろデザートらしいぞ?」

「むにゃ……僕もう疲れたよ……眠ーい」

「ったくしょうがねぇな。ちと早いが、おいとまするか」


「は? ……はぁあ!?」


 俺の横を仲睦まじい親子が通り過ぎていった。

 一人は屈強な体をした男……英雄レオ。ゲーム通りの見た目と声だったからすぐにわかった。

 そしてその背におんぶされているのは……主人公レオンだ。


 茶色い髪の後ろ姿。間違いない。顔は見えなかったが、あれは間違いなくレオンだ。

 俺が呆気にとられている間に、主人公親子は会場から出て行ってしまった。


「ど、どうしたのリュクスくん……顔色が」

「え……ちょっと待ってくれ……なんで主人公がここに……リィラとは出会わなかったのか? じゃあリィラは……」


 俺は目立つ場所にある王族・御三家専用の席を見てみる。

 リィラの姿は見えない。それどころか、なんだか慌ただしいような……。


「リィラ様が居ない……」

「ダンスタイムの前くらいから行方不明らしい」

「誘拐か?」

「セキュリティは完璧だありえん」

「まったく困ったお方だ」

「衛兵たちにも伝えろ。お客様方には悟られぬようにな」


 王城のスタッフさんたちの緊迫した声が聞こえてしまった。


「王女様が行方不明だって……心配だね……リュクスくん?」


 リィラは居ない。でもレオンとは一緒じゃない……。

 つまりリィラは一人で会場を抜け出したのか?


 なんで?


 どうして?


 なんでゲーム通りにならない?


 ゲーム通りにならないなら宝物庫には行かない?


 でももし宝物庫に居たら?


 わからない……だけど、何か大変なことが起こっている胸騒ぎがする。


 もしリィラが一人でマスマテラと出会ったら……。


 確実に殺される……。


「王女様、まだお城の中にいるのかなぁ……探してみるね」


 頭が真っ白になった俺の耳にアズリアの声が届いた。


「探すって……どうやって?」

「これを使うんだよ」


 アズリアは首につけていたペンダントを取り外すと、チェーンを外し、紐を付ける。綺麗なアクセサリーかと思っていたが、それはどうやら振り子のようだ。


「ペンデュラム?」

「そう。それでね。こうすると……」


 アズリアが手で持ったペンデュラムを振る。するとペンデュラムから光の粒子があふれ出して、それらが形を成していく。

 半透明の3Dモデルのような王城ができあがっていく。


 そしてその中に、小さな赤い点があった。


「この赤い点が王女さまの位置だね。良かった~まだお城の中に居るみたい。回りに貴金属? が沢山あるから、宝物庫なのかな?」

「アズリア……これどういうスキル?」


 ペンデュラムを使って立体の地図を作り出すなんて、こんなスキルや魔法はブレファンには存在しなかった。


「探知魔法だよ。えへへ、私が唯一使える魔法なんだ」

「いや、凄いよアズリア! こんな魔法見たことない!」

「そ、そうかなー? そう言われると自信になるなぁ……あれ?」

「どうした?」

「う、うん……王女様の近くに……宝物庫の中に誰か居る……なんか……寒気がするくらい黒くて怖い」


 不味い……十中八九教祖マスマテラ・マルケニスだ。

 リィラとマスマテラが宝物庫に……クソっ、なんでそこは原作通りなんだよ!


 助けに行かなくては……でも道がわからない。

 プロローグはアドベンチャーパートの会話劇で進んでいくから、マップ探索がなかったのだ。


「アズリア……いま俺たちがいるここから、この宝物庫までのルートを出せるか? どこかに秘密の抜け穴があるはずなんだ」

「や、やったことないけど……頑張る!」


 アズリアの顔が真剣なものに変わる。

 すると、3Dマップに新しい点ができ、そこから線が伸びて宝物庫へと繋がった。


 これが宝物庫への隠しルート。


「凄いぞアズリア! これでリィラを助けられる」

「ってことは……やっぱり王女様は悪い人と一緒にいるんだね?」

「うん。このままじゃリィラがヤバい。だから俺は助けに行く」


 なんで主人公レオンが王女と共に居ないのか、その答えはわからない。


 いや……そもそもゲームではここにいなかったはずのリュクスがいるのだ。逆にどうしてゲーム通りにことが運ぶと思っていたのか、少し前までの自分を問いただしたい。

 ここはゲーム、ブレイズファンタジーの世界にそっくりだが……確かな現実で。

 そして、ここに生きる人たちはキャラクターではなく、人間なんだ。


 そんな簡単なことにどうしていままで気付かなかったのか。少し前の自分を問いただしてやりたい。

 だがそれは今じゃない。

 今はとにかく、リィラのことを助けなくては。手遅れになる前に。


「アズリア、君は王様やお城のスタッフさんたちにこの地図を見せてあげて。宝物庫に人を集めるんだ」

「わ、わかった……やってみる!」

「よろしく頼んだぜ! じゃあな!」

「待って……道が複雑だけど、わかるの!?」

「ああ! これで覚えた」


 道筋は全て魔眼で記憶した。


 間違えることなく、最短ルートでリィラの元へ向かう。


***


***


***


アズリアside


 勢いよく飛び出していくその背を、私は少し寂しい気持ちで見送りました。


 私を助けてくれた王子様は、私だけの王子様じゃなくて……本当のお姫様のところへ行ってしまいました。


 なんだか夢を見ていたよう。

 溶けてしまいそうに甘くて、幸せで……ちょっぴり苦い。

 そんな夢みたいな時間でした。

 ほんのちょっとの間だけど、それでも私は、あの男の子に恋をしてしまいました。


 だから最後はちょっと寂しい。


「でも、落ち込んではいられないよ」


 私の唯一の取り柄だった探索魔法が、あんな凄い人に褒められた。認められた。

 そして何より、私を頼ってくれました。


 だから私は頑張ります!


「あの! 王女様の居場s」

「今忙しいから邪魔しないでー」

「ああああの! おおおうじょ」

「子供はあっちで遊んでなさい!」

「はうっ」


 ど、どうしようリュクスくん……大人たちは殺気立っていて、全く話を聞いてくれません。

 そんなくじけそうな私のところに、二人の女の子がやってきました。


 一人はピンク色の髪の、とっても可愛らしい女の子です。


「ご、ごきげんよう。私はエリザ・コーラル。よろしくね……?」


 こ、公爵令嬢様あああああ!?


「やぁ! 私はクレア・ウィンゲート。よろしく」


 き、騎士団総帥の娘さんんんん!?


 と、とんでもなく凄い方々にいきなり話しかけられました。


 あれ……あれ?


 気付けば、お二人にがっつり肩をつかまれています。

 に、逃げられません。


「貴方、リュクスとよね?」

「リュクスのなら私の友達みたいなものだよね?」

「家名とお名前を聞かせてくれるかしら?」

「きっと私たち、すごく仲良しになれると思うんだよね」


 え、笑顔です。


 お二人はとても笑顔です。


 でも……物凄く怖いですぅ!!!

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