第24話 功績カードバトル


 王都中央にある王城へ到着し、ようやく地獄のような馬車から解放された。

 父に連れられ王城の中へ入る。


 ゲーム内では殆ど出番のない場所だが、それでも目に映る全ての物の質が高く、見ていて飽きない。


「あまりはしゃぐな。迷子になっても助けてはやらんぞ」


 冷たく言い放つ父の後に続く。

 そして、空港のゲートのようなものを潜ると、一瞬でパーティー会場にワープした。

 どうやら時短のため、城の中限定のワープポイントがいくつもあるらしい。


「お……おお! これは」


 パーティー会場の入り口でとんでもないものを見つけた。


「聖剣グランセイバー!」

「ほう、知っているのか」


 感激する俺に父グレムが反応した。またバッサリとこちらのテンションを下げるようなことを言うのかと思ったが……。


「触れてみるか?」

「え、いいのですか?」

「いいも悪いもない。元より多くの者に触れさせるためにここにあるのだ」


 聖剣グランセイバー。


 重厚感あるシルバーにメタリックレッドの差し色が美しいブレファン最強の剣のひとつ。

 メインヒロインであるリィラルートでのみ入手できる武器だ。


 かつて魔王を倒した勇者が使用した武器という設定があり、とある条件を満たした者のみが扱うことができる。

 そしてそのとある条件を、ゲーム内の人物たちは誰も知らないのだ。


 あるのは「もし装備できたら王族の者と結婚できる」という言い伝えだけ。

 プロローグでは主人公が内緒で装備しようとして失敗した。

 後にこの聖剣に選ばれる主人公だが、プロローグ時点ではとある条件を満たしていなかったからだ。


 気になるとある条件とは「王女からの愛」。


 リィラルートでしか手に入らないのも納得の条件だ。


「おお、これが……」


 俺は興奮しつつ聖剣に触れる。そして……引き抜こうとして。


「だ、ダメでした」


 何か見えない力に拒絶されるように手をはじかれた。


「……」


 一応報告したが、父は何も言わず。

 そして何を思ったか、自分も聖剣に手を触れる。


「……」


 そして聖剣を握りながら無言でこちらを向く父。いやどういうこと!?


 まるで「俺もダメだから気にするな」と言っているように見えなくもないが、リュクスを恨んでいるであろう父に限ってそれはないだろう。

 俺は混乱したまま父の後に続き、パーティー会場に入る。


「おお!」


 パーティー会場に入るなり圧倒される。


 豪華な会場には大勢の人たちが集まっていた。


 ここにヒロイン5人と主人公が集まってるんだよな……やべぇ、わくわくしてきた!

 もちろん俺が絡むことはないが、それでもブレファンのストーリーがここから始まるのかと思うと興奮してくる。


「さてそろそろ」

「待て。どこへいく」

「くっ……」

「迷子になるぞ?」


 父親を撒こうと思ったが失敗した。

 どうせ俺なんかに興味ないしすぐに撒けると思ったのだが……。


「ふむ、ここでは落ち着かないな。ついてこいリュクス。あちらに我々御三家専用の席がある。王もそこに居るだろう」

「は……はい」


 まずいまずい。


 このままではリィラと会うことになってしまう。いや、普通に会う分には問題ない。

 何よりリィラは真面目でいい子でそのうえ可愛い。


 だが俺……というよりリュクスは本来ここに居なかった人間で、つまりゲームではリィラとリュクスはこのタイミングでは会っていないのだ。


 何か妙なことが起こってしまう可能性がある。


 しかしこの場から逃げる言い訳も思いつかぬまま、御三家たちの集うテーブルに来てしまった。


「エリザは……よかった。まだ来てないみたいだ」


 リィラだけではなく、もちろんエリザたちとも出会うわけにはいかない。

 今日の俺は推しを見守るモブにならなくてはならないので、ラッキーといったところか。


「来たかグレム」

「なんだ、お前も居たのかギーラ」


 席には派手な衣装を着た小太りの男が座っている。この人はゲームで見たことがある。

 このローグランド王国の国王でリィラの父、ギーラ・スカーレットだ。


 国王は立ち上がると、奥に座っていた自分の娘、リィラを呼び寄せた。


「可愛いリィラ。ほら、こっちへおいで」

「はい、お父様」


 リィラは気品ある仕草でこちらにやってくる。


 輝く赤い髪と宝石のような青い瞳。

 髪と同じ赤いドレスはシンプルなデザインながら、彼女の魅力を引き立てている。

 そんなリィラは父グレムの前に立つと優雅にお辞儀した。


「リィラ・スカーレットです。グレム・ゼルディアさま、いつも父がお世話になっております。本日はお越し頂き、まことにありがとうございます」


 おお、完璧な挨拶! さすが王女可愛い!


 だが父グレムはそんな王女の挨拶に対し、声もなく小さく口を動かした。


 父の口の動きが「クソガキがぁ」と呟いたように見えたがおそらく気のせいだろう。

 きっと「クソかわいい」と呟いたに違いない。


「もうあれから8年になるのか。月日が経つのは早いな」


 そして、そんなことを言った。

 8年という言葉に俺も王もリィラも首を傾げる。


「ええと、グレムさま。私は生まれてから今年で10年なのですが」

「はっ……老いたなグレムよ。ついに年も数えられなくなったか」


「いや、リィラ様が私の息子を見てギャン泣きしてからもう8年も経ったのかと思ってな」


「なっ!?」


 いや何言ってんだこの親父!?


「も、もう! 酷いですわグレムさま!」

「それだけリィラ様が変わられたということですよ。うむ、随分と大人になられた」

「そうだろうそうだろう。もう立派なレディと言って差し支えないだろう?」

「もう、お父様ったら」


 おっ、なんか和やかなムードになったぞ?


 なるほどさっきの父の発言は親戚のおじさんムーブだったのか。


 御三家である父は王都へやってくる機会も多い。リィラと顔を合わせる機会もそれなりに多かったのだろう。

 親しさからくる気安い発言だったようだ。


「王妃に似てとても美しく成長された」

「もう。グレムさまはお上手ですね」

「おいおい謙遜するな娘よ。あっちを見てみろ。お前と話したくてたまらない貴族の坊やたちがこちらの様子を窺っているのだぞ」

「は、恥ずかしいです」

「お前に似なくて本当に良かったなギーラよ」

「ぐっ……まぁ見た目は確かに妻に似たが……私に似たところもあるんだぞ?」


 なんかいいな。

 俺抜きで盛り上がっているが、なんだか久々に会った仲の良い親戚のような会話だ。


 頼むからこのまま平穏に終わってくれよ……。


 そう思っていた俺の儚い希望は、父の次の言葉で砕け散った。


「確かに……未だ王家の聖なる炎を扱えない。魔法の不出来さは父親譲りといったところか」


「……!?」

「……っ」


 一瞬で場が氷点下になる。


 言いやがった言いやがったこの親父!?

 地雷をぶち抜きやがったー!?


 ここで軽く説明しておく。


 ブレファン世界には王家の血筋を持つ者だけが使える【聖なる炎】という魔法がある。

 通常の炎属性とは違い、魔物に対して属性や耐性を無視した大ダメージを与える魔法だ。


 ゲームではリィラルートに突入したリィラのみ使用可能。ルート限定魔法ということからわかるように、王家の人間が真の愛に目覚めることで覚醒する必殺技だ。


 王家が王家たる所以とも言えるこの聖なる炎の魔法だが、現在の王家でこれを扱える者は隠居した前国王のみ。


 ギーラ国王もルキルス殿下も使えない。


 なのでこの聖なる炎の魔法に関する話題は貴族たちの間ではタブー扱いされている。

 父グレムはそれを知って敢えてぶち抜いた訳だが……。


 王は怒りでプルプル震えているが、娘の前だからだろう。笑顔は崩さず言う。


「だ……だがなグレムよ。リィラはすでに炎・水・土・風の魔法を完璧に習得している。4属性だぞ4属性? 素晴らしい才能だ!」


 そう! そうだよ王! 

 リィラは魔法の天才!

 最初から4属性の魔法を使えるから、パーティーに入れると大活躍なんだ。

 何せ主人公、序盤は剣しか使えないから。


 俺は心の中で王を応援する。

 だが父グレムも一筋縄ではいかない。


「4属性~? それ1属性使えるヤツを4人集めればそっちの方が強いだろう?」

「浅はかだなグレム! 属性を融合させた魔法を使うことが多重属性持ちの真骨頂だろうが! すでにリィラは4属性融合魔法を発動可能だ! そうだなリィラ?」

「は……はい」


「あ~凄い凄い(棒読み)。で、それ私の息子の雷属性(希少属性)に勝てるのか?」

「ぐううううううん」


 悔しさで変な声を出す王。

 負けるな王! 頑張れ! あんただけが頼りだ!


「そういえば次期国王のルキルス様は我が息子デニスと同学年だったな。で、我が息子は希少な雷属性を極め天才と呼ばれ始めたが貴様の息子は?」


「次期生徒会長候補として活動を開始している。有力な貴族の子供たちとコネクションを築いている。力だけでは王は務まらないからな!」


「コネクションも結構。ですが実績を作らなければ、国民の信頼を得られぬ裸の王まっしぐら。我が領地がエテザル繁殖により窮地に陥っていたとき、ルキルス殿下は一体何をしていたかご存じで?」


「な、何をしていたのだ?」


「ほう知らないとは。まだ9歳だった我が息子がエテザル討伐を指揮している最中、観光地で女と遊んでいたんだよお前の息子はぁ!」


「ぐっ……だ、だが……」


「どうした? もう反撃の手札は尽きたのか王よ? すまない。私の息子たちが優秀すぎてすまない」


 クソみてーなマウント合戦だ。

 さてはこの人たち、会うたびにこのやり取りやってるな?


 一体いつになったら終わるのかとうんざりしていてら、服の袖をきゅっと引っ張られた。


「リィラ様……?」

「あの……お久しぶりですリュクスくん」


 俺が首を傾げると、俯いたままリィラは言った。


「もう覚えていないかもしれませんが……リュクスくん。私は貴方に謝らなければならないことがあります」

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