第14話 剣術大会

「ふぅん。遠路遙々良く来たな」


 王都に到着する頃には夜になっていた。


 ゼルディア家別邸に到着すると、兄デニスが出迎えてくれた。


 別邸はゼルディア家のものが王都で活動するときに拠点にするためのもので、屋敷とくらべると規模はかなり小さい。


 普段は数人の執事とメイドたちで運営しているのだが、今は学園に通うために兄が滞在していることもあり、使用人は多めだ。


「兄さんもお変わりなく。学業で優秀な成績を収めているとのこと、誇りに思います」

「ふっふっふっふふぅうううん! そう褒めるな我が弟よ生まれてきてくれてありがとう。さて今日は十年祭の前祝いだ。豪華な食事を作らせた。共に食べようではないか」


「はい」


「それと、君たちも同席したまえ」


 兄は俺の後ろに控えていたモルガとメロンにも告げる。


「え……」

「私たちも?」


 二人は「いいのかな?」といった様子で顔を見合わせる。


「ふぅん当然だ。今日は使用人たち全員分のご馳走を用意しているのでね。君たちにも楽しんで貰わねば困ると言ったところだ」


「だってさ。兄さんの厚意に甘えよう」


「「はいっ」」

「ふぅん! 今日は存分に楽しめ!」


 その日はモルガたちと共にご馳走を楽しんだ。


 風呂に入っていたときに「たまには兄弟水入らずも良いだろう?」と兄さんが入ってきたのが普通に気持ち悪かった。


 二日目はモルガ、メロンと共に王都を観光した。


 リュクス的には何度か来たことある場所らしいが、俺としては初めての王都だったので楽しかった。


 ゲームで出てきた場所を見つける度に感動した。


 まぁ普通に聖地巡礼のような二日目を終えた。


 そして王都での三日目。


 三日間に渡って開催される十年祭の初日。


 俺たちの世界で言うところの七五三のような成り立ちの行事で、子供が10歳まで成長したことを国を挙げて祝うというお祭りである。

 そして貴族階級の10歳たちは王城に招かれ、盛大なパーティーに参加する。


 殆どの貴族たちはここが社交界デビューとなり、後に続く派閥やコネ、そして人によっては将来の結婚相手すら決まるという。

 各キャラクター同士の繋がりを作っておきたいというゲーム的都合が前面に押し出た素敵なイベントである。


 主人公もいよいよ絡んでくるイベントだが、その前に俺は今日の剣術大会に出場する必要がある。


 剣術大会はその名の通り腕に自信のある貴族の坊ちゃんたちが出場する大会だ。


 魔法は禁止で、剣術の腕のみを競う。


 闘技場で一般の観客を招いて盛大に行われるので、半端な腕では恥を掻くだけに終わる。


 つまり、10歳と言えど腕利きの少年達が集まっている。

 ジョリスさんに鍛えて貰ったとはいえ、魔法禁止だから油断はできない。


 事前に渡された組み合わせ表を見て、決勝まではなんとしても残らねばと決心する。


「では坊ちゃん。私たちは観客席から応援しておりますので」


「頑張って下さいね」

「カッコいいところ見せてください!」


「ふぅん。心配はしていないが……正々堂々戦うのだぞ」


「はい。頑張ってきます」


 応援に来てくれていた兄デニスやモルガたちと別れ、控え室へと向かう途中。


 意外な人物に出くわした。


「あれ……エリザ?」

「ふん、久しぶりじゃない」


 壁に寄りかかり腕を組んでいるヒロインの一人、エリザ・コーラルと遭遇した。

 なんで居るんだろう。素直に疑問だった。


「えっと……どうしてここに?」

「何? 私が居ちゃ悪いの?」

「そんなことないけど……気になってさ」


 この頃のエリザの行動原理は殿下LOVE以外にないはずだ。


 なので剣術大会にも用はないはずなのだが。


 え、マジでなんで居るだろう?


「誰かの応援とか?」

「違う」

「誰かと待ち合わせとか?」

「違う」

「あ、もしかして参加するとか?」

「違う」

「いやマジでどうしてここに居るの!?」

「何? 私が居ちゃ悪いの?」


 ヤベー会話が振り出しに戻った。これ正解の選択肢選ばないと一生先に進めないやつー。

 ゲームで良くあるやつー。


「まさかとは思うけど、俺の応援とか?」

「はっ……はああああああ!? ちちちち違うんですけどぉ!?」


 あ、なんか正解ぽい。


 なるほど。ゲームだと険悪だった二人だけど、エリザなりにこの前のグランローゼリオでの件でリュクスに心を開いてくれたってわけか。

 ちょっとだけ仲良くなれたのは嬉しい。ゲームだとリュクスが姉エリシアをやり玉にしてエリザをけなしていたからな。


 仲は最悪だった。


 推しキャラとそんな関係になるのはゴメンだから、こういうちょっとした友達みたいになれるのは素直に嬉しい。


「いやマジで嬉しいよ。ありがとう」

「だ、だからアンタの応援に来たなんて一言も言ってないですけど!?」

「うんうん」

「だからその『全部わかってるよ』みたいなニッコニコ顔で頷くのやめなさいよ!」


 照れていて可愛いな。

 よしよしと頭を撫でて上げたくなる衝動をぐっと抑える。


「き、今日から十年祭とは言っても初日は暇だし? 知り合いのアンタが出てるから、どのくらい強いのか見せて貰おうと思ったのよ」

「そうなんだ。嬉しいよ」

「私が見ていてあげるんだから、精々頑張りなさいよ。初戦負けなんて絶対許さないんだから!」

「うん。絶対勝つから見てて」

「なっ!?」


 俺の言葉に、エリザは顔を真っ赤にする。


「え、なんか変なこと言った?」


「こ、この勝利を私に捧げるって……まるで恋人同士のようじゃない!? か、軽々しくそんなこと口にするんじゃないわよ! そういうのはもっと段階を踏んでから……」モニョモニョ


 どうした急に。


「そこまで言ってないけど」

「え?」

「勝つから見てろって言ったんだよ勝利を捧げるまでは言ってない」

「ふ、ふん。まぁ勘違いって誰にでもあるわよね?」


 コイツ凄いな持ち直したぞ。

 そういえば騎士と姫の恋愛ストーリーとか大好きな設定だったなエリザ。


 恋愛もの読みまくってたらそういう聞き間違いもするか。


「とにかく、私が応援してあげるんだから敗北は許さないわ」

「あ、結局応援してくれるのね」

「ち……違っ!」

「オッケー。気合い入れて頑張るわ」


 少し緊張していたけど、良い感じにそれがほぐれた。

 エリザに感謝しつつ、俺は控え室へと向かう。


「……頑張りなさいよ」


 最後にエリザが何か言った気がしたが、残念なことに聞き取ることが出来なかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る