第13話 王都へ!
俺は今、十年祭が行われる王都へ向かう馬車に揺られている。
向かうメンバーは俺、モルガ、ジョリスさん……そして。
「まさか王都までご一緒できるなんて感激ですわ」
メイド見習いの一人メロンを加えた4人だ。
一人で十分だろと思っていたのだが「なんてことを!? 最終日にはパーティーがあるのですよ!? 坊ちゃんは一人で準備できるのですか!?」とメイド長さんに言われ不安になったので、メロンも連れてきた。
メロンは化粧やファッションの知識に長けていて、パーティー前のスタイリスト的な仕事がとても上手い。
一度やってもらったが見違えるほどビジュアルが良くなる。
そもそもパーティー用の豪華な衣装をちゃんと着れるのかという不安もあったので、俺から指名して来て貰うことにした。
なんなら俺が着るスーツもデザインしてしまったようで、メイドにしておくのは勿体ないくらいそっち方面の才能を発揮している子だ。
「しかし暑い……なぁ、どっちか反対側に移ってくれないか?」
馬車は電車のボックスシートのように、二人がけの席が対面になっている。
メンバーは4人だから丁度いいはずなのだが。
実際は俺を挟んでモルガとメロンが座り。向かいにジョリスさんが一人腰掛けている状態になっている。
子供とはいえ二人がけの席に3人詰まると窮屈で、しかも体温が伝わってきて暑い。
「はん……たい?」
「……がわ?」
「いやそんな俺があり得ないこと言ったみたいなリアクションすんなって。普通に暑いからさ」
「でも……」
「おじさんの隣はちょっと……」
「嫌っていうか……無理っていうか」
二人はチラチラと正面のジョリスさんを見ながら呟く。
ちょっと女子ぃ!? ジョリスさんが泣きそうな顔してるんだけどぉ!!
意地悪言わないであげてぇ!
という冗談は置いておいて、二人はジョリスさんがおじさんだから気持ち悪くて無理とか、加齢臭がキツいとかそういう理由で隣に座るのを嫌がっているのではない。
単純に俺に厳しいトレーニングを課しているジョリスさんを、俺を虐めている鬼畜と認識しているのだ。
「ははは。いいんですよ坊ちゃん。両手に花、羨ましい限りです」
と目尻に涙を浮かべながら言うジョリスさん。
「いや花とか以前に暑いんで……もう俺がそっち側行きま――馬鹿な!? 体がホールドされて動けねぇ!?」
「逃がさないですわよリュクス様?」
「そうですそうです。せっかくの王都への旅行なんですから楽しみましょう」
「まず王都に到着したら注文していたスーツを取りに行きましょう」
「いいですね~。王都の別邸で試し着させてみますか?」
「そうですわね。サイズがズレていたら調整したいですし。髪型もどうするか考えたいですし」
逃げられず、夜にはお人形さんにされるのが確定しうんざりしていると、それが表情に出たのか、モルガがぷんすかし始める。
「リュクス様、やる気が感じられませんよ!」
「そうですわよ。十年祭の最終日のパーティーは正式な社交デビューの場なのです」
「ここで仲良くなった令嬢とそのまま婚約ということも多いと聞きます! 万全の状態で挑まないといけません」
「【魔眼の子】って嫌われてる俺には関係ないと思うけど」
魔眼持ちというだけで好感度マイナススタートな俺に婚約者なんてありえない。
リュクスに婚約者が居たという設定はなかったし、おそらく実際にそのようになるだろう。
いくら御三家で公爵家で身分が高いと言っても、それと恋愛は別! というのはブレファン世界の独特な価値観だ。
「というか、婚約者ならまず兄さんが先に決めないと」
兄デニスも婚約者が未だに決まっていない。こうしてみると兄弟揃ってモテてないみたいで悲しくなってくるな。
「ですがデニス様は二学期に入ってから急にモテ出したとか」
「夏休み前はけちょんけちょんに言われていたのに、今じゃ学園一の天才と呼ばれていますからね」
「ああ、なんかそんな手紙が届いたね。弟として誇らしいよ」
夏休みの間に雷魔法を極めた兄は、現在学園で無双しているらしい。
あの「ふぅん」という独特な笑いが聞こえてくるようだ。裏で手助けしたとはいえ努力自体はデニスのものなので、今はその無双状態を楽しんで欲しい。
まぁ弟としては女遊びはほどほどにして欲しいところだが。
「兄さん悪い女に引っかからなきゃいいけど」
「それはこっちの台詞です」
「そうですわよリュクス様。リュクス様がご結婚される相手すなわち、私たちの上司になる方なのですから」
「そうですね~綺麗で聡明な方がいいです」
「え? お前らって俺が結婚してもついてくるの?」
「「当たり前ですけど?」」
「そうなんだ……」
「「一生ついて行くって決まってますけど?」」
「決まってるんだ……」
それは知らなかった。
普通に15歳くらいになったら屋敷を出て自分の人生を歩んでいくものとばかり……。
そういうメイドさんも結構多いし、そういった場合ゼルディア家は仕事先を斡旋したりしているから。
逆に使用人同士で結婚して夫婦で屋敷に仕えてくれているという人たちも結構居る。
一緒に働いている内に互いを意識し始めるとか、結構素敵なことだと思う。
「そういや二人は好きな子とか居るの? 若い兵士さんとか、結構カッコいい人多いよね?」
「「は? 居ませんけど?」」
「そうすか……」
怖い怖い怖い。
何今の? 有無を言わさぬ迫力があった。一言もそんなこと言ってないけど「この話はここで終わり」という圧を感じた。
あと怖いからハモるの辞めて欲しい。
「それにしても結婚か」
主人公とヒロインたちの学園恋愛を見るのが楽しみ過ぎて、自分の恋愛なんて考えたこともなかったなぁ。
「リュクス様の好みの女性像ってどんな感じなんですかね?」
「そういえば聞いたことありませんでしたわね」
「まぁ身近な女の子に話すことじゃないしね」
「教えて下さいよ~」
「そうですわ。我々メイドには知っておく権利と責任があります」
「いやねーよ」
強いて言うならブレファンのヒロイン5人になるのか? まぁ方向性が全部違うし、キャラクターとして好きなのと恋愛的に好きなのは別ものだろうが。
とはいえ「好きな芸能人」とか言っても伝わらないしな……。
「では私たち5人の中だと誰が一番好みの外見ですか?」
「それだけでも教えて下さい」
「なぁこの話やめないか?」
冗談ぽく言っている二人だが目がマジだ。これ、誰か一人を選んだら絶対禍根が残るヤツだ俺にはわかる。
「5人のことは可愛いと思っているし大切にも思っているからさ。誰が一番とか悲しいこと言わないでくれよ」
「「リュクス様……」」
目をうるうるさせる二人。ふぅ、どうやらごまかせたようだな。
「リュクス様、今うまくごまかせたと思ってますわね?」
お、思ってないっす。
「素直に私たちの中に好みのタイプは居ないって言えば良いのでは?」
「ですがそうなると……はっ!? もしやリュクス様の好みは……おっぱい!?」
「確かにそれは私たちがまだ持ち合わせていない武器!?」
「おっぱい目当てとは。十年祭のパーティーでは厳しい戦いを強いられそうですわ」
「同年代ばかりだからね」
「悔しいですわ。ご主人様がモテないで帰ってくるのは悔しいですわ」
何故か俺がおっぱい星人という定で進んでいく話に最早つっこむ気力もなく、俺は両腕を二人にホールドされたまま数時間、馬車に揺られ続けた。
「王都にワープ魔法の使い手とかいねぇかな……」
居たらコピーさせてもらって帰りはそれ使おう。
そんな現実逃避をしながら俺を挟んで行われる数時間の女子トークを耐え続けた。
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