第11話 兄の帰還
旧都グランローゼリオから屋敷に戻ると、俺の部屋は汚部屋と化していた。
どうやら留守中、モルガを含むメイド見習いたち5人の溜まり場になっていたようだ。
「どういうことか説明してくれるか?」
「ああ、それはですね~」
大して悪びれることもなく、モルガが理由を語った。
どうでもいいけどコイツら、メイドって割には俺に対する忠誠心とかないよな。
いや俺も元は庶民だし、メイドに対して威張りたいとかないけどさ。
「魔法の練習なんてここでしかできないじゃないですか?」
「なるほどね」
俺がイミテーションで複製したサンドイッチを食べてから、モルガは何故か魔法が使えるようになった。
いやそもそもなんで食ったし。
モルガはそのことを秘密に……する訳でもなく、同僚でもあり友人でもある他のメイド見習いに話したのだ。「リュクスの作ったご飯を食べると魔法が使えるようになるよ」と。
「ずるい!」「私もください」「メシ!」と何故か他のメイド見習いにもコピー料理を振る舞うこととなった。
それがグランローゼリオ遠征前の出来事。
そして無事に魔法を使えるようになったらしい。
どういうことなんだ一体?
俺の作った食事を食べると魔力神経が作られる? それとも元々この子たちが持っていた魔力神経が俺の魔力を摂取したことで起動した?
「なんか食べると力が漲ってくる感じがするんですよね~」
「そうなの? 俺は食べても何も起きないんだけど……」
ひょっとすると、ゲーム時代で言うところの【レベルアップ】のようなことが起きているのかもしれない。
ブレファンではレベルが上がると新しい魔法を習得できたりスキルを覚えることができた。
現状レベルとかそういったものは確認できていないが、確認できないだけで似たようなことは起きているのかもしれない。
ということは、俺のコピー飯はレベルアップアイテムということになる。
まぁ自分じゃ使えないから意味ないけどね!
他人を強化してもしょうがないし。
「ほら見て下さいリュクス様。ファイヤーボール」
「だから部屋の中で打つなモルガ! あとお前の属性炎なの!? ズルくない!?」
羨ましい……俺もできれば炎属性が良かった……あとでコピーするためにちゃんと魔法見せて貰おう。
と、それよりも前に、コイツ等に聞きたいことがあるのだ。
「なぁ、兄さんは帰ってこなかったのか? 見かけなかったんだが」
リュクスにはデニスという兄が存在する。
同級生であるエレシアたちが既にバカンスを楽しんでいるのを見るに、とっくに夏休みに突入しているはずなんだが……。
「それでしたら、先日このようなお手紙が届きました」
すると、メイド見習いたちの中でも一番まじめな少女デポンがすっと手紙を取り出した。
黒髪でメガネのクールな子だ。
促すと、手紙を読んでくれた。
非常に長ったらしい文章で、読み終わる頃にはデポンも疲れていた。
「まぁ要約すると『魔法の成績がヤバくて補習受けてた』ってことか」
頭が痛い。
デニス・ゼルディア。リュクスの兄でゼルディア家の跡取りであるが、ゲームには登場しないキャラクターである。
それどころか設定があったのかも怪しい。
なので使用人たちから聞いた印象しかないが、少なくとも優秀な人物ではないのだろうなということが窺えた。
あまり考えたくはなかったが、魔法の授業で補習を受けているという話でそれは現実となってしまった。
ブレファンでも補習に関するイベントがあるが、あれを受けていたのはまともに魔法を使えないようなレベルのキャラたちだった。
つまり兄の魔法のレベルはその程度ということ。
「別にデニス様の魔法の腕前とかリュクス様には関係なくないですか?」
「いや、あるんだよそれが」
使用人から得た情報その2。
兄デニスは希少な雷属性の使い手ということ。
ブレファン世界において、氷属性使いと雷属性使いは非常にレアだ。
主人公やヒロインたちは使えず、終盤の敵がたまに使ってくる程度。それくらい希少な属性だ。
「だから是非魔眼でコピーしておきたいんだ。それも強力な魔法をね」
「でも補習受けるレベルなんですよね?」
「それな。補習受けるって……基礎魔法すらまともに使えてるのか怪しいレベルだぞ」
これでは黒い雷魔法を使うという俺の夢が……。
その時だった。
来訪者を告げるベルが鳴った。使用人たちが玄関に集まると、そこに立っていたのは……。
「お帰りなさいませデニス様」
「ふぅん。出迎えご苦労」
巨大なトランクを持った兄、デニスが帰宅した。
「兄上~」
「む……なんだ貴様は……リュクスか?」
「はい。ご無沙汰しております。兄上の魔法を見られるのを楽しみにしておりました」
「何……私の魔法を?」
「はい。学園で磨かれた兄上の魔法を久々に見せて頂きたいのです!」
最初は訝しがっていたデニスだったが、何度もせがむと満更でもなさそうな態度になった。
庭で見せてくれるとのことで、メイドたち数人と移動した。
「では見せてやろう。学園でも私しか持ち得ない希少属性、雷属性の魔法をな」
「わー」パチパチ
さてデニスの実力はいかほどか……。
魔眼を起動しつつ、見守る。
ゴテゴテした杖を構えつつ、詠唱を開始するデニス。
「――サンダーボルト!」
そして、杖からバチバチとした稲妻の玉が発射され……ふわふわと宙を漂った後、にょっと消えた。
「ふぅん……まぁこんなものかな」
「おおおおおおぉ!」
ギャラリーと化していたメイドたちは拍手を送るが、俺はそのショボさに反応できずにいた。
なんならさっき見たモルガのファイヤーボールの方が精度が高かったからだ。
「ふぅん、どうだリュクス。……リュクス?」
「えっと、はい。お兄様の素晴らしい魔法が見られて、俺は幸せです!」
あまりのしょぼい魔法に、引き攣った笑みを浮かべることしかできなかった。
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