第6話 モルガside

 私、モルガはゼルディア家に仕えるメイド見習いです。


「捨てていいよ。食えないだろそれ」


 そう言いながら書斎を飛び出していくリュクス様の背を私は黙って見送ります。

 まるで新しい玩具を見つけたような明るい顔を見ていると、自然と心がぽわぽわします。


 少し前までのリュクス様は「うっひょーい悪魔召喚だ! お前が生贄だ!」と言いながら、よく私たちメイド見習いに絡んできました。

 その度に私たちメイド見習いは怯えたフリをして、その遊びに付き合ってあげていました。


 生贄として縛られている間は仕事が休めるというのもありましたし、幼くして母親を亡くしたリュクス様を不憫に思っていたので。

 皆、弟のわがままに付き合うような気持ちでリュクス様の遊びに付き合っていました。


 先輩メイドさんにお話しを聞いたのですが、リュクス様の母親は、魔眼の子を産んでしまったことを気に病み、自ら命を絶ってしまったのだそうです。


 お父上である当主様はそれ以来、一度もリュクス様とお話しをしませんでした。


 魔物に殺されてしまったとはいえ、お父さんとお母さんに愛された記憶は私の宝物です。

 あの幸せだった日々を思い返すだけで、寂しい夜もへっちゃらになります。


 でも、リュクス様にはそんな大切な思い出が全くないみたいです。


 誰かに愛された記憶がない。それはどれほど孤独なのでしょう。


 私たちにはリュクス様の奇行が、お父さんの愛を求める不器用なアピールに見えていました。

 でも少し前から、リュクス様は様子が変わりました。


 ビックリするくらい変わりました。


 剣の修行を始め、さらに魔法の勉強まで!


 比べものにならない変化です。強く、前に進んでいくことを決めたようにも見えます。


 もう、過去を振り返るのはやめたのでしょうか?

 ものの数日で見惚れるほど大人ぽい顔つきになられました。


『ふん、見習いか』

『あんたら見習いはあの魔眼の子の面倒を見てな』

『可哀想に。呪われないように気をつけるんだね』


 初めは先輩メイドさんに押しつけられる形でリュクス様のお世話をさせて頂いていたけれど。

 それは次第にわがままな弟の面倒を見るような感覚に変わり。


 今は、リュクス様を自分の一生を捧げる主だと思い始めています。


 私は先ほど頂いた黒いサンドイッチを眺めます。


「捨てていいって。そんなこと出来るわけないじゃないですか。だってこれは……リュクス様が初めて私にくださったものなんですから」


 ちょっと嫌だったけど、私は黒いサンドイッチを食べてみることにしました。

 

 ぱくり。


 触感はあまりよろしくないけど、味はサンドイッチと全く同じで不味くないです。


「見た目は酷いけど、結構美味しいですね……あれ?」


 サンドイッチを飲み込んだ瞬間。

 まるで甘いお菓子を食べた後のような、不思議な力が身体に満ちているのを感じます。


「これは……どういうことなのでしょうか?」


 なんと、私の手の平から炎のようなオーラがゆらゆらと出てきました。


 なんだか不思議です。


 まるで魔法のよう……ってか魔法じゃないですかこれ!?


 魔力ってヤツが溢れ出てきているのではないですかこれ!?


「もしかして……あのサンドイッチを食べたせい?」


 リュクス様。


 愛する私のご主人様。


 あなたの魔法は、リュクス様自身が思っている以上に物凄いものかもしれませんよ!?

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