第38話 戦場からの帰還

 戦が始まって数日、毎日似たような流れの戦が繰り返された。

 警戒していた変態の動きも今のところ確認出来ていない。

 何も仕掛けてこないのだろうか?


 警戒のためにウルトやよめーずにも待機してもらっていたが、もう領地に戻してもいい頃合いかもしれない。

 というのも、先日帝国軍の先行部隊が到着したのだ。

 本隊ももう間もなく到着するらしい。


 押されていてかつ的に援軍が来る、動くとしたら今だと思うんだけどな。

 戦術や戦略なんてさっぱり分からない俺が言うのもアレだけどね。


 まぁ、こちらとしては援軍も来るし、勇者娘も引き込めた。

 掛けられていた暗示もサーシャたちが聖属性魔法で解除したし戦力的には問題は無いと思う。


 というか、暗示を解いただけのはずなのに、何だか勇者娘3人の元々持っていた闇の部分もかなり浄化されている気がする。

 執着心とか、独占欲とか、コンプレックスとかそんな感じのやつ。


 だからもう勇者娘に対しての恐怖はほとんど無い。

 たとえ囲まれても命の危険は感じない。


 囲まれるといえば、誰が何を思いついたのかは知らないけどよめーず全員で俺を取り囲んで踊りながらぐるぐる回る遊びはやめて欲しい。

 なにかの儀式の生贄になった気分になってしまう。


 それにその遊びをしている時、瞳が周りから見えないように結界を張るものだから変な勘違いをされて諸侯軍兵士たちから生暖かい目で見られたり、嫉妬に濡れた瞳で睨みつけられるのだ。


 そんなこともあって、ウルトとよめーずを領地に戻す決断をする。


 ゲルトやジェイドに相談してみると、2人共賛成してくれたので決定だ。


『マスター、報告があります』


 戻るようにウルトに伝えようと近付いたところで反対にウルトから報告があると言われてしまった。


「どうした?」

『マスターの領地に侵入者が現れました』


 領地に侵入者……ということはよめーず誘拐を目論む部隊かな?


「数は?」

「1台です」

「1台? 馬車か?」


 秘密裏に行動しないといけないだろうに馬車は無いか?


「馬車ではありません。トラックです」

「は? トラック?」


 この世界にウルト以外にトラックなんてあるわけが無い。

 ということは……


「変態が動いたのか」

『その可能性か最も高いかと』


 変態がこの場に居ないことはほぼ確定した。

 勇者娘もくだしているし、俺たちがここに残る必要はあまり無いかもしれないな。ここ数日何もしてないし。


「分かった。それで、そのトラックはお前と同じような存在か?」


 これが一番大切だ。

 もし、ウルトと同じ存在なのであれば相当厳しい戦いになると思われる。


『違います。あちらのトラックは魔力て動くだけの普通のトラックです。車種も三葉トラック開発ストライカーです』


 ストライカー……4トンか。


「ウルトが負ける確率は?」

『京に1つもございません』


 京に1つ? 万が一とか億が一よりもっと低いってこと?

 初めて聞いたわ。


「分かった。殿下に報告してくるから嫁たちを集めておいて」

『かしこまりました』


 ウルトと別れ、ゲルトとジェイド、フィリップを伴って砦に向かい王太子に面会を求める。


「クリード侯爵、どうしたんだい?」

「お願いがあって参りました」

「お願い?」


 俺は先程ウルトから聞いた話を報告した。


「なるほど……」

「諸侯軍と、指揮官のゲルト、フィリップを残します。それと……ライノス公爵、タブレットはお持ちですか?」

「持っているよ」


 アンドレイさんは懐からタブレットを取りだして見せる。


「殿下、アレがあれば私とライノス公爵はすぐに連絡が取れます。何かありましたらすぐに転移で駆けつけますので、許可願えないでしょうか?」

「それなら今の状態とほとんど変わらないな。分かった、許可しよう」

「ありがとうございます」


 王太子とアンドレイさんに深く頭を下げて挨拶してウルトの下へ戻る。


「じゃあゲルト、フィリップ、ここは任せる」

「はっ!」

「お気を付けて!」


 幸いフィリップが【アイテムボックス】のスキルを所持しているのでとりあえず2週間分の食料を預けてあとのことを任せる。


 よめーずとジェイドもウルトに乗り込んだようなので領都へと転移、すぐに【トラック召喚】で中のよめーずごとウルトを召喚する。


 さらに【思念共有】でマークに帰還の連絡をして城門を開けさせて城の中に入った。


 マークとダニエルに勇者娘3人を紹介、今後この3人も俺の嫁になると伝えると、勇者娘3人は揃って頬を抑えクネクネし始めた。

 余程俺の嫁という言葉が嬉しかったらしい。


 それを見たマークとダニエルはなんと言ったらいいのか分からないといった顔をしている。


「まぁそんなわけだからよろしく頼む」

「かしこまりました。なんにせよ奥様が増えることは喜ばしいことです。御館様には子供が何人居ても足りませんので」


 勇者娘3人は今度は子供という単語に反応してトリップし始めた。

 おそらく自分が俺の子を産んだ姿を想像しているのだろうが、瞳は現状子供を産む以前に俺と子供を作ること自体が出来ないことを自覚して欲しい。


「じゃあ俺は侵入者の迎撃に向かう。城とサーシャたちの守りは任せる」

「かしこまりました」


 さて、誰と一緒に行こうかな?


 まず俺とウルトが出るから、城の守りの要としてジェイドは残しておきたい。


 勇者娘は……連れていったらまた暗示掛けられたりしないかな?

 それに城に残す魔法使いがほとんど居ないから瞳は残すか。

 兎斗と佳奈は連れて行ったらいいか。


 一応、暗示を掛けられた時対策にイリアーナを連れていけば問題無いだろう。


「よし、ジェイドとアンナ、瞳は城の守りを任せる。イリアーナ、兎斗、佳奈は俺と一緒に来てくれ」


 全員に簡単に指示を出してから、俺たち迎撃組はウルトに乗り込んだ。

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