第37話 観戦

 王太子やアンドレイさん、辺境伯2人に朝の挨拶を済ませて自分の役割を確認する。


 王太子直轄の親衛隊扱い、まぁ最後の砦みたいなものだね。

 上層部の判断として、極力クリード家にこれ以上の功績を積ませたくないという感じがヒシヒシと伝わってくる。


 勇者を捕らえたのだ、俺としてもこれ以上の功績はいらない。

 というか俺たち以上の功績ってあとはもう敵の親玉を討ち取るか捕縛するしかないのではなかろうか?


 軍議室を辞してクリード家諸侯軍を纏め、砦の周りに布陣、俺とゲルト、護衛としてフィリップとアンナは砦の屋上へと上がる。


「始まりましたな」

「みたいだな」


 隣に立つゲルトと会話しながら前線を眺める。

 両軍の魔法使いがお互いに攻撃魔法を放ち、放たれた攻撃魔法に対して効果的な魔法をぶつけてレジスト、派手な戦いだ。


「そろそろ前線同士がぶつかりますな」


 俺には当然戦争の経験なんて無い。知識もゲームやマンガの知識くらいだ。

 しかも特にそういうジャンルが好きだった訳でもない。

 ゲームはRPG、マンガやアニメも基本ファンタジー系ばかり見てたからなぁ……

 なので勉強にとゲルトが横で解説してくれているのだ。

 覚えたところで使い道は無いと思う。


 数百人規模の諸侯軍同士のぶつかり合いが始まった。


 掲げている旗を見るが、どこの家の家紋かなんて俺には分からない。

 ゲルトに聞いてみるが、ゲルトも全ての貴族家の家紋を覚えているわけでは無いので確証は無いが諸侯軍の規模的に準男爵家か男爵家だろうとのことだ。


 ゲルトが言うには、家によって当然違いはあるが準男爵家で300人前後、男爵家で600人前後を率いている家が多いらしい。


 これが子爵家になると1000から2000人ほど、伯爵家なら5000人ほどとなるそうだ。


 ちなみに両辺境伯は1万人以上の軍を編成しているらしい。

 本来侯爵である俺は伯爵家以上辺境伯家未満、6000から8000くらいの軍を率いるのが普通らしい。

 まだそんなに領民いねーよ。


 というかうちから出してるの100人……準男爵家以下かよ。


「数は少ないですが、侯爵家諸侯軍として恥ずかしくない戦力だと思います」

「それなら装備品を支給した甲斐があったよ」


 魔法の付与された装備品とはやはり希少らしく、諸侯軍の武官はもちろん貴族本人ですら持っていない人も多い。


 そんな中で諸侯軍兵士全員が魔法の付与された装備品を装備しているうちの諸侯軍ってすごいよな。そりゃ強力だわ。



 そんな話をしながら見ていて思ったのだが、どこかで聞いたことのある鶴翼の陣とか、魚鱗の陣みたいに全軍が纏まって行動する訳では無いようだ。


「ふむ、押していますな」


 色々と解説を聞きながら前線を眺めること数時間、徐々に教国軍が王国軍を押し始めたらしい。


「このままいけば……いえ、出てきたようですな」

「出てきた?」

「はい。王国軍左翼をご覧下さい。王国の旗が掲げられている集団です」


 言われた通り王国軍の左翼に目をやると、かなりの数の集団が抜け出して教国軍に向かって突撃を開始していた。


「あれは王国軍きっての猛将、クーネル将軍の部隊ですな。王国軍の切り札のひとつです」

「切り札……切るの早くない?」

「そんなことはありません。王国軍最大の切り札は既に御館様が捕らえたではありませんか」


 そっか。あの勇者娘3人が切り札か……そりゃそうだ。


「あの三人娘が御館様を捕縛、ないしは殺害に成功していた場合、教国の負けはほぼ確定だったでしょうな」

「そうなるか」

「はい。あの3人と戦えるのは御館様とジェイド殿だけです。私やアンナ様、フィリップ殿では一時的な足止めが精々ですね」

「アンナは瞳に勝てそうだったけど」


 俺の後ろに控えるアンナに顔を向けると、アンナは首を横に振っていた。


「無理ッスね。自分が耐えられたのもレオさんが作ってくれた盾のお陰ッス。この盾が無かったら耐えられないッスよ。それに、自分の攻撃じゃ瞳さんは倒せないと思うッス」

「私は……やられてしまいましたので。申し訳ございません」


 装備のお陰か……力を失う前に【複製】しておいて良かったな。


「フィリップは謝らなくてもいい。フィリップと瞳じゃ相性最悪だろうし」


 フィリップは魔法剣士、接近出来れば勝ち目はあるだろうがそもそも接近出来ないだろう。

 あの時、兎斗をフィリップとアンナに任せて俺が瞳と戦うべきだったと今なら思う。

 そうすればあんなに苦戦することは無かったと思うのだが、今更だな。


「おっと、話しているうちにもうぶつかりそうですね」


 視線を戦場に戻してクーネル将軍の部隊の動きを注視する。


「迎撃部隊も出ましたね。あれは……グスタフ辺境伯軍の長柄槍部隊ですね。さすがはグスタフ辺境伯、クーネル将軍対策はしっかりとしているようです」


 1000人ほどの部隊が飛び出して辺境伯軍全体を守るように展開、やけに長い槍を前方へ向けて構えた。


「槍衾です。騎馬隊の突撃を受け止めるにはアレが最適ですね」


 さらに数百人の部隊が槍を構えた部隊の背後に移動、一斉にクーネル将軍の部隊に向けて矢を放った。


 これならかなりの痛手を負わせられると思ってみていたが、突如クーネル将軍の部隊の周りに突風が巻き起こり大半の矢を逸らしてしまった。


「クーネル将軍は凄腕の魔道士です。おそらく、私では勝てませんな」

「ゲルトでも勝てないのか?」


 ゲルトだって凄腕だ。昨日の瞳との魔法戦でもそれは証明されている。


「簡単に負けるつもりはありませんが、おそらくは……」


 ゲルトは悔しそうに歯噛みしている。

 今度レベリングに付き合おうかな?


 視線を戦場に戻すと、クーネル将軍の部隊はグスタフ辺境伯軍の槍衾に突っ込むことはせずにいくつかの突出していた教国貴族の諸侯軍を咳嗽させて王国軍左翼へと戻って行った。


「撤退の補助でしたな。今日の戦も終わりでしょう」


 どうやらクーネル将軍は教国に攻撃を仕掛けるためではなく王国軍の撤退の補助のために出てきたらしい。


 両軍共に示し合わせたかのように軍を引く。今日の戦は終了のようだ。


 本当に今日は出番無かったな。

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