第36話 兎斗の職業
主に佳奈の作った朝食を食べながら和やかに会話していると、ふと気になった。
瞳は【賢者】、佳奈は【調理師】、なら兎斗が【勇者】なのだろうか?
「なぁ兎斗、お前が【勇者】なのか?」
兎斗は口いっぱいに詰め込んだ朝食をもぐもぐしながら俺の質問に対して頷いた。
「そうか。あとゆっくり食べなさい」
「ふぁい」
「口の中に入ってる時に喋ってはいけません」
まったく……やっぱり兎斗はアホの子だな。
「ぷはっ!兎斗は【勇者】だよ! レオにぃとお揃い!」
「残念。俺は【トラック運転手】だよ。【勇者】じゃない」
兎斗は俺の「【勇者】じゃない」という発言を聞いて頬を膨らませる。
兎斗……お前20歳超えてそれはちょっと……
「サーシャさんたちから聞いたもん!レオにぃは【勇者】だってちゃんと聞いたもん!」
ああ、サーシャたちから聞いたのか……
昨日は何を話してたんだろうね?
「それは正解であり間違ってもいる」
「ほえ? どういうこと?」
兎斗は首を傾げながら聞き返してくる。
佳奈と瞳も興味があるようで食べる手を止めてこちらの話に聞き耳を立てているのがわかる。
「確かに【勇者】の職業は持ってる。持ってはいるけど俺の本職は【トラック運転手】なんだよ。【勇者】は副業」
「副業? 副業ってことはアルバイトみたいな?」
「そんな感じそんな感じ」
なんだかイマイチ分かっていないようだが放置しよう。
兎斗にきちんと理解させようとすると1時間は掛かりそうだ。
「副業勇者……」
「アルバイトって……」
対して佳奈と瞳は理解したようだ。2人でコソコソ話しながら笑っている。
「え? え? なんで佳奈さんと瞳さんは笑ってるの?」
兎斗は混乱している。こいつアホ過ぎない? 大丈夫かな?
「それよりさ、兎斗の神器の能力って何? 【スキル封印】は体験したけど他にもあるんだろ? 多分【痛覚倍加】は付いてるよな?」
めちゃくちゃ痛かったからな。正直泣きそうだった。
マンモンに腕とか足斬り飛ばされた時ですら泣かなかったのに。
「うん! 【スキル封印】【痛覚倍加】【精神攻撃】【状態異常攻撃】【弱点看破】【素早さ上昇(大)】【貫通力上昇】だよ!」
多くね?
俺が殺した先代勇者の神器は6つだったぞ?
いや、でも数は兎斗の方が多いけど、能力自体は先代の方が強力だな……どっちが強いんだろ?
まぁでも、この3人と先代5人が戦ったのなら間違いなくこの3人が勝つだろうね。
「えぐいな。勇者の持つ武器とは思えない」
少なくとも魔王と戦う武器じゃない。
対俺用の武器ってことなんだろうな……俺に対して【スキル封印】は効果的過ぎる。ナメクジにかける塩みたいなものだ。
もしかしてイリアーナののとを見破ったのも【弱点看破】の力なのかな?
今まで物理的な弱点しか分からなかったけどメンタル的弱点も分かるのであればヤバすぎるスキルだな。持ってるけど。
「そういえば色々ありすぎて忘れてたけどさ、3人は変態のことどれくらい知ってるんだ?」
「変態?」
「朝立さん」
そういえば自己紹介の時あの人絶対「あさだちです」って言うんだよな。
俺もずっと「あさだち」だと思ってたけど本当は「あさだて」だとあとから知った。
「なんかね、ずっとニコニコしてたよ!」
「レオくんは変態って呼んでるけど、あんまり変態って印象は無かったかな? あんまりジロジロ見てこなかったし」
「でも、訓練とかは一番真面目にしてたかも」
うーむ……ニコニコ? ニヤニヤじゃなくて?
それにあの人可愛い女の子見つけたらガン見してたぞ?
真面目は……まぁ仕事は真面目か。
本当に同一人物なのだろうか?
同姓同名の他人と言われても納得出来そうだ。
「どんな見た目だった?」
「えっとねー……スラッとしてて背が高くて、爽やかな感じのイケおじって人!」
「髪が長い?首にでっかいホクロは?」
「今のレオにぃより少し長いくらいだったかな? ホクロは……あったっけ?」
「あったよ。僕人間観察が趣味なんだけど、首のホクロと右手小指の爪が真っ黒だったのが印象的だった」
ホクロと右手小指の爪が黒いのは俺の中の変態と一致する。
これは本人だな。あいつ何してくれてるの。
「そっか、ならやっぱり俺の知ってる変態だと思う。3人の話が本当で、あの変態がこの戦争を引き起こしたのなら何かしら責任を取らせないとな」
「レオきゅん……殺すの?」
「場合によっては。少なくとも半殺しは確定かな」
仲良くて面白い人だからね、殺したくはないよ。
けど、これだけ死者の出る戦争を仕掛けた上に勇者娘を使って俺の嫁殺そうとしたからなぁ……
今のところ正直迷ってる。
「それで、変態は戦場には来てるのか?」
「来てるよ。何処にいるかは分からないけど」
なら戦う機会もあるかもしれない。
覚悟だけはしておこう。
朝食を終えた俺は、フィリップを伴って教国本陣へと挨拶に向かうことにした。
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