第39話 邂逅
「ウルト、侵入者はどこら辺?」
『南の橋を渡り街道をこちらに向かって進んできています。推定時速は40キロ程です』
南の橋ということはヒメカワ伯爵領から来たってことか。
橋には通行税を徴収するための詰所もあるはずなんだけど、強行突破されたのか?
そう思って【傲慢なる者の瞳】で橋を確認するが、特にトラブルがあったようには見えない。
何故?
『マスター、おそらく私と侵入車、見た目の違いは大きさくらいのものですので詰所の兵も見間違えたものかと』
「なるほど……」
ウルトが自由に大きさを変えられることはそれなりに知られている。
詰所の兵もそれを知っていたのならウルトと勘違いしてノーチェックで通してしまってもおかしくはないか。
それにしても時速40キロか……やけに安全運転だな。
『ちなみに以前の私と同じく【愛植運送】のロゴが描かれています』
「マジか」
同僚確定じゃん。
既に変態は確定してたからそりゃ同僚なんだけども。
ウルトに描かれていた【愛植運送】のロゴは既に消されて代わりにクリード家の家紋が描かれている。
描かれているというよりウルトが自分で模様を変えたのだが……
『このまま進みますと、およそ15分で接敵します』
細かいことは置いておいて、俺たちもヒメカワ領との堺の渓谷へと向けて出発する。
転移で移動してもいいのだが、そこまで時間もかからないだろうし少しでも魔力を温存しておきたい。
変態がどれだけの兵を引連れているのか分からない。
分からない以上一応警戒は必要だ。
「レオにぃ、このトラック全然揺れないね!」
「何回も乗っただろ? いや、乗った状態で走るのは初めてか」
「うん! 運転しなくていいの?」
「全自動だから」
今回の布陣は、運転席に俺、助手席にイリアーナ。
乗用車のように俺たちの後ろのシートに兎斗と佳奈が座っている。
ジェイドは2人の後ろで立って警戒している。
そんなに警戒せずとも2人が危害を与えてくることは無いと確信しているのだけど……
まぁ前に座ってるのがイリアーナだからなのかな?
言い換えれば元敵がイリアーナの背後に居るわけだし。
ウルトに揺られること10分と少し、街道横に広い草原が広がる場所にウルトは停車した。
『あちらも少し速度を上げたようです。間もなく接敵します』
街道の先を見ていると、すぐにこちらに向けて走ってくる小さな物体が確認出来た。
【五感強化】で視力を強化して見てみると、見慣れたカラーリングのトラックが走ってくる。
ナンバーは831、俺が大型に乗る前に乗っていた4トン車のようだ。
『気付いたようですね。更に速度が上がりました』
ウルトの言うように、数分もしないうちに4トン車は俺たちの目の前に停車した。
フロントガラス越しに見慣れた変態の顔も見える。
さてどう出てくるか……
警戒しながら変態を見ていると、変態は慌てたようにシートベルトを外して転がるようにトラックから降りてきた。
変態が降りたことでキャビンの中は無人、1人か?
いや、箱の中に兵を乗せて運んでいるのかもしれない。
ウルトの中に居れば安全だとは思うが油断は禁物。
相手も俺と同じトラックの所有者であり勇者の1人なのだから。
どんな攻撃を仕掛けられても大丈夫なように、特に暗示には気をつけながら変態を見据えていると、変態は嬉しそうに両手を振りながら運転席に向けて走ってきた。
ドアロックは……大丈夫、掛かってる。
変態はウルトの運転席に駆け寄ってきてドアをノックしてくる。
意外だ、開けようとしてくると思ったんだけどな……
変態は何かを訴えるような顔でドアをノックしている。
俺は警戒しながら窓を開けた。
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