第32話 初戦を終えて

「イリアーナ、回復お願い」

「お任せ」


 クリード家諸侯軍本陣に戻りウルトの中で待機していたイリアーナに声を掛ける。


「せっかくですので私も手伝いますね」


 そうだった、サーシャも結局来てしまったのだから協力を求めればよかった。


 2人は協力して諸侯軍の兵士たちに回復と浄化の魔法をかけていく。


「犠牲が出なくてよかった」


 たまたま偶然、運が良かったのだろう、諸侯軍兵士に犠牲は1人も出ていない。


「左様ですな。御館様から貸し出されている装備のおかげでしょうな」

「それもあるか」


 運だと思っていたけど、ジェイドが言うには装備の恩恵も相当に大きいらしい。


「敵軍兵士と同じ品質の装備だった場合、少なくとも2割は死んでいたと思います。それだけ魔法の付与された装備は強い」

「そんなにか」


 諸侯軍の2割……20人か。


「はい。とはいえ10倍以上の数の敵に突っ込んだのです。それで死者が2割で済むと計算できるのは諸侯軍兵士の精強さの証でしょうな」


 うちの兵は毎日訓練や魔物狩りを行っている。徴兵された農民兵とは根本的に強さも経験も違うのだ。

 それでも2割は失う、やはり数とは侮れない力らしい。


「レオ様、終わった」

「私とイリアーナさんは教国軍の救護所に行ってきます」


 救護所には教国の現役聖女も詰めているが、まだレベルも高くないので2人はそのサポートに行くのだろう。


「分かった。俺は殿下のところに行くから……フィリップ、2人を頼む。ジェイドは残って勇者たちの監視を頼む」

「お任せ下され」

「かしこまりました」


 王国軍は引き始めている。今日の戦いももう終わるだろう。


 サーシャたちを見送り、アンナを伴って殿下の居る教国軍本陣へと向かう。


「おお、クリード侯爵。大戦果であったな」

「ゴルベフ辺境伯、先程は助かりました。感謝します」


 実は、ウルトが結界を破り、勇者娘たちを倒した直後に俺たちに襲い掛かろうとしてきた王国軍を止めてくれたのがゴルベフ辺境伯軍だったのだ。


「なに、勇者を倒した殊勲者たる侯爵を死なせる訳にはいかないからな。役に立てたのなら何よりだ」


 もちろん、あの場にはウルトが居たので襲いかかられても全く問題はなかった。

 しかしだからといってゴルベフ辺境伯にお礼を言わないのは違うだろう。


「殿下がお待ちだ。ほかの主だった貴族も集まり始めている。我々も行こう」


 ゴルベフ辺境伯と一緒に砦に入り軍議室へと向かう。

 中には多くの貴族。王太子やアンドレイさん、ヒメカワ伯爵も座っていた。


 俺とゴルベフ辺境伯が空いている席に座ると、アンドレイさんが立ち上がり話始めた。


「皆さん、本日の戦お疲れ様でした。王国との戦争の初戦は我々の勝利、最上の結果です」


 多くの貴族が安堵の息を吐く。王太子も頷いていた。


「王国の召喚した勇者ですが、捕縛と聞いています。クリード侯爵、間違いは?」

「ありません。完全に無力化しています」

「ここへは?」

「私の神器で身動きを封じていますのでここへは連れてきてはいません。呼びましょうか?」


【思念共有】を使えば簡単に呼び出せる。


「いえ、構いません。どうせ大した情報も持っていないでしょう。その辺はクリード侯爵にお任せします」

「分かりました。今夜にでも喋らせます」

「お願いします。それでは……」


 そこから始まったのは戦果報告。


 今更ながら教国軍は大きく3つに分けられている。

 帝国方面を預かるゴルベフ辺境伯が左軍を、王国方面の国境を守るグスタフ辺境伯を右軍を、中央軍を教国軍元帥が率いている。

 そして2人の辺境伯と元帥の上に総大将として王太子が君臨している。


 俺たちクリード侯爵家はどこにも所属していない遊軍みたいなものだ。

 勇者の捕縛に成功したので、今後は中央軍に組み込まれて王太子直轄の親衛隊のような動きをする予定だ。


「それでアンデル男爵家フリッツ準男爵家ですが……」


 聞き覚えのある貴族家の名前が出てきた。

 アンデル男爵家、フリッツ準男爵家、共に以前の会議で俺の引渡しに賛成していた家だね。


「功を焦ったようで敵軍に突撃を敢行。諸侯軍の大半は討ち取られ、当主も戦死しました」

「そうか、了解した。国から見舞金を送るように陛下に進言しておこう」


 ゴルベフ辺境伯は一度頭を下げてから俺に向けて意味ありげな視線を送ってきた。

 あ、これはやったな。わざとだな。


 王太子も特に気にした様子もない。これは俺への配慮なのだろうか?

 そんな配慮要らないんだけど……


 各貴族家からの報告、提案が終わり、戦果を挙げたものは王太子からお褒めの言葉を賜り会議は解散、自分の陣地へと戻ってきた。


 天幕は張ってあるが、ウルトとよめーずが来ているのだ、ならば天幕で寝る意味は俺には無い。

 そう思いウルトが停車している場所に向かうと、ジェイド監視の下でサーシャ、ベラ、イリアーナの元聖女組が勇者娘3人と話している姿が確認できた。


 一応、勇者娘はウルト牢の中に居るしされるジェイドが護衛しているので危険は無いだろうがこれはあまりよろしくない。

 主に俺の過去的な意味で。


 俺は急いでその会話に割り込もうと駆け出した。

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