第31話 猛将ジェイド

 両手両膝を着いて動かなくなった瞳もとりあえずウルトの前に引き摺って生行き3人並べておく。


 周りの戦闘はどうなったかと見てみると、どうやら勇者娘3人が負けたことが徐々に王国軍内に広がり動揺しているようだ。


 反対に、教国軍側は俺たちが勝利したことで勢いに乗っている。

 何日、何週間、下手をすると何ヶ月もかかる戦争だが、初日の初戦は教国軍側の優勢で終えられそうだ。


「御館様、この後はどうされますかな?」


 ジェイドとフィリップはまだ戦いだそうだ。

 今の今まてま勇者娘と戦っていたのに元気な事だ。フィリップに至っては魔法の直撃を受けて大怪我をしていたのに……


 対してゲルトは申し訳無さそうな表情を浮かべている。


「申し訳ございません。もう魔力が残っておりません……」


 悔しそうに項垂れているが、彼はレベル50前半の魔道士。レベルも職業も分からないが召喚された魔法使い系の人間相手にあれだけの魔法戦を演じたのだ。誇っていいと思う。


「そうだな、ゲルトは休め。ジェイドは伝令、本陣に向かって指示を貰ってきてくれ」

「はっ!」

「かしこまりました」


 2人に指示を出して今度はサーシャたちに向き直る。


「とりあえず後方に下がろう。ここど真ん中だし」

「分かりました。この3人は?」

「とりあえず捕虜かな? ウルト」

『はい』


 ウルトは荷台部分が格子状になっている荷台を作成、後部に連結した。


 佳奈と瞳はそこに放り込めば解決なのだが、兎斗は放り投げたらさすがに死にそうな気がする。


 俺の中で「死んだら死んだで……」という考えと「幼馴染死なせるのはちょっと……」という考えがせめぎ合う。


 結果、殺さない方向に天秤は傾いた。

 こんなことを考えるようになったのは人を殺しすぎたからかもしれんね。


「サーシャ、こいつの治療も頼むよ。死なない程度でいいから」

「はい。それは構いませんが、後でしっかりお話聞かせてくださいね?」

「はい」


 心の準備が……

 まぁ日本でのことだし、ノーカンだよね?


 ウルトで勇者娘を牽引して教国軍の後方へと移送する。

 俺たちは戦場のど真ん中で戦っていたので、当然周囲は両軍に囲まれている。


 なので行きがけの駄賃感覚で王国軍を蹂躙して方位を抜けてから後方へと移動した。


 もちろん我らがクリード家諸侯軍の兵士たちも回収している。


 てか、こいつら働いてなくね?

 勇者娘との戦いで流れ弾を受けて負傷してイリアーナに回復されてただけじゃね?


 まぁ勇者娘との戦闘に参加してたら良くて重傷、最悪戦死してただろうからこれ以上言わないけどね。

 死ねとは命令出来ないし。


「御館様!」


 教国軍の後方、ジェイドとの待ち合わせ場所で兵を整列させていると馬に乗ったジェイドが戻ってきた。


「指示は?」

「はっ! 先程御館様が突破した敵軍左翼の立て直しを妨害して欲しいとの事です!」

「ふむ……」


 そういうのは騎兵隊がやるべきでは?

 うちの諸侯軍大半が歩兵だぞ?


「儂が先陣を切りましょう! 皆の者、クリード侯爵家諸侯軍の強さを今こそ見せつけるぞ!」


 ジェイドが馬上で槍を掲げると、クリード家諸侯軍兵士は各々の武器を掲げながら「おおー!」と鬨の声を上げる。

 やる気満々だね。


「よし、なら俺も行こうかね」

「御館様……馬には?」

「乗れません」


 乗馬経験とか無いよ。

 俺はまぁ……ほら、馬に乗るより走った方が早いから……


「ジェイドは騎馬隊を、俺は歩兵隊を率いるってことで!」

「はぁ……逆な気もしますが……かしこまりました」


 俺もそう思うけど、乗れないものは仕方ない。そのうち練習しようかな?


「では先行します。我らが崩しますのでその後に一撃お願いします」

「了解、頼んだよ」


 ジェイド率いる騎兵隊30騎が駆け出す。あまり遅れないようにしなければ。


「よし、俺たちも行くぞ! 総員駆け足!」


 ジェイドたちが駆け出した直後、俺たちも走り出す。

 遅れるのは仕方ないけど、あまり遅れないように頑張って走ろう。


 走り出すと同時、回復した魔力で飛んでくる魔法や弓矢を弾くために風魔法を発動、歩兵隊を包み込むように展開する。


 相手の遠距離攻撃を弾きながら進み、ジェイドたち騎馬隊が1000人は超えていそうな敵軍に接触、敵部隊に風穴を開けた。


「御館様、あそこに!」

「突撃ー!」


 俺の副官としてついているフィリップがジェイドたちの開けた風穴に突っ込むことを進言して来たので突撃命令を下す。


 70人程の軍だが、全員が魔法の武器で武装している。

 さらに教国、王国軍の大半が徴兵された農民や職人であるのに対して俺の率いるクリード家諸侯軍は結成1年程ではあるが、全て専業兵士で構成されている。

 ……警備隊って専業兵士扱いでいいよね?


 農民というのは、実は強い。

 戦闘技術は持っていないが、日々農作業で鍛えられているからね。

 下手をすると低レベルの戦士より強いのだ。


 しかしちゃんと鍛えて魔法の武器まで装備しているクリード家諸侯軍の相手にはならない。

 少し可哀想だとは思うが俺の敵に回ったことが運の尽きだと思って欲しい。恨むなら王国を恨め、俺を恨まないで!


 ジェイドたちの開けた風穴に突撃し、さらに食い破る。

 俺たち歩兵隊が駆け抜けた後にはかなりの数の死体が転がっていた。


 敵軍を突破したところでジェイドたちと合流、見た感じ騎馬隊にも歩兵隊にも負傷者は居ても死者は居なさそうだ。


「負傷者は集まれ! 応急処置程度だが回復魔法を掛ける!」


 十数人が集まり全員に回復魔法を掛けてやる。

 軽傷者には軽く、中にはそれなりの深手を負った兵も居たのでそいつらには強めに魔法を掛ける。


「よし、本陣に戻ったらイリアーナから治療を受けてくれ」

「御館様、ありがとうございます!」

「さて……」


 敵軍はかなり浮き足立っている様子。これならもう一撃食らわせれば少なくとも今日中には立て直せまい。


 ジェイドを見ると、目が合った。


「御館様、もう一度行きましょう」

「そうだな。でも今度は我武者羅に反撃してくるだろうし……」


 陣はめちゃくちゃ、そこに敵軍が突っ込んできたなら死にたくない兵士は必死の抵抗をしてくるだろう。

 その抵抗でこちらに損害が出るのは面白くない。


「さらに乱す。合わせろ」

「かしこまりました。フィリップ!」


 俺とジェイド、フィリップの3人で前に出てそれぞれ武器を構える。


 俺は強欲の剣を。ジェイドは柄はミスリル、穂先はオリハルコンで作られた【魔力増幅】の魔法が込められた愛槍を。フィリップは俺が渡した【状態保存】の魔法が込められた長剣を振りかぶる。


 俺が【飛翔閃】を放ち敵の前衛を薙ぎ払う。

 そこにジェイドが【龍牙突】という魔力の籠った突きを放ち、敵軍を貫通させる。

 さらにダメ押しにフィリップが【旋風剣】という俺の【風神剣】に似た風属性の魔法剣を放ち大勢の敵兵士の体勢を崩した。


「総員、突撃!」


 今ならそう被害も無く駆け抜けることが出来るはず。

 ジェイドとフィリップを先頭に突撃、再び敵軍を蹂躙し突破することに成功した。


「よし、役目は果たした。本陣に戻るぞ」


 俺たちは誰1人欠けることなく本陣へと帰還した。

 大戦果だね。

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