第33話 元凶

「ですので……」

「だから……」

「違うよ。兎斗は……」


 近付くに連れて何となくだが聞き取れるようになってきた。しかし内容までは分からない。

 一体何を話しているのやら……


 駆け足で近寄ってくる俺に気付いたのか、ジェイドがサーシャたちに声を掛ける。

 すると、会話を一時中断してサーシャたちはこちらへと振り向いた。

 ジェイドはスっと自然な動作でサーシャたちと勇者娘の間に割り込んだ。さすがだと思う。


「レオ様、おかえりなさい」

「おかえりー」

「旦那様、お勤めご苦労様でした」

「ああ、ただいま」


 ベラ、それはいけない。

 それだと何だか俺が悪いことして捕まってたみたいになっちゃうから。

 背後に牢屋あるからね? リアリティがね?


「何を話してたんだ?」

「はい。何を目的に召喚されたのかと、王国から何を聞いているのか、それと……」


 それと?


「旦那様とのご関係を聞いておりましたわ」


 はいアウトー。俺おわたー。


 嫁にメンヘラ幼馴染とヤンデレ元カノと……ストーカー? の存在がバレましたー。


 しかしこのストーカーが思い出せないんだよな。

 腰まである長い髪、前髪も長くて目元どころか鼻まで隠れてるようなインパクトのある女、同じクラスだったなら忘れないと思うんだけどな……


「レオ様」

「はい!」


 サーシャに呼ばれて慌てて返事をする。ストーカーのことはとりあえず置いておこう。


「過去、しかも別世界のことです。レオ様に説明する義務はありませんし、私たちも気にしません」

「はい」


 セーフ!


「しかし、こちらに来てしまった今そういう訳にはいかなくなりました」


 やっぱりアウトー!


「最初にお聞きします。レオ様はこの御三方をどうされるおつもりでしょうか?」

「どうするって……」


 どうするんだろう?


「側室にするつもりはありませんか?」

「ふぁ!?」


 側室!? ナンデ!?


「3人ともレオ様に対する愛情は本物のようです。なにより、闇魔法を受けた形跡もあります」

「闇魔法? どういうこと? 洗脳?」


 それって……魔族の関与か?


「洗脳……というより欲望や執着心を増幅されていたようです。それを掛けた相手にも心当たりがあるそうです」

「こいつらが?」


 確かに兎斗はこんな奴じゃなかった。もっと天真爛漫というか……アホの子みたいな奴だった。まぁ優しい奴ではあったけど。


 でも佳奈は……別れる時こんな感じだったぞ?

「別れるくらいなら貴方を殺してうちも死ぬ!」って言われたもん。

 だから俺は県外の運送会社に逃げたわけだけども。


 ストーカーは知らん。存在すら思い出せない。


「レオ様、朝立勲あさだていさおという方に覚えはありませんか?」

「ありますね」


 俺に長距離の仕事を教えてくれたへんた……先輩だ。


「その方になにやら暗示のようなものを掛けられたそうです。王国の国王陛下、宰相閣下なども似たような暗示を掛けられている可能性があるそうです」


 あの変態が?

 あの変態がそんな力持ってたら、催眠術とかでハーレム作るくらいしか使い道思いつかないはずなんだけどな……


「ちなみに帰還条件……最初に召喚された時に言われたのは、レオ様の捕縛だそうです」

「そうなんだ」


 殺害じゃなくて捕縛なのか……

 ならこんな大掛かりな戦争なんて仕掛けなくても、勇者たちで俺の領地に侵入して俺を捕縛すれば……


 あぁ、そこで王国上層部に暗示を掛けた話に繋がるのか。

 多分大事にした方が面白いとでも思ったんだろう。

 この3人に暗示を掛けたのも「修羅場が見たい」とかそんな理由だろうな……

 簡単に想像がつく。あの変態はそんな奴だ。


 チラリとウルト牢の中の3人に視線をやると、3人は神妙な顔つきで並んで正座していた。


 兎斗の怪我も治ってるな、サーシャたちが治したのかな?


「私たちがレオ様の妻であることは説明しました。子供……アルスの存在も伝えてあります。3人はそれを理解した上で側室でもいいから傍に居たいそうです」


 サーシャたちに危害を与えるつもりは無いと?


「レオ様、この話をした上でもう一度お聞きします。この3人をどうされますか?」

「うーん……」


 この3人を? 側室に?


「俺がこの3人に捕まって王国に行く、それで帰還させるって手もあるのかな?」


 懐にウルトを入れていけば逃げるのは容易だし。


「それは嫌!」

「レオにぃと一緒に帰れないくらいならここで死にたい!」

「真面目な顔のレオきゅん……はぁはぁ……」


 帰還は嫌か、どうしたものか……

 ストーカーの発言は聞かなかったことにする。精神衛生上その方がいい。


「そうだ」


 今後どうするかも大切だが、気になることがある。聞いてみよう。


「なぁ、俺がこっちに召喚された後俺の扱いってどうなったんだ?」


 俺が召喚された以上、神隠しみたいな扱いなのかな?

 よくあるのは俺の存在自体無かったことになるパターンもあるか?


「ニュースになってたよ」

「パーキングにてトラックが消えていく怪奇! って」


 トラックが消える?


「最初はレオにぃがトラックと一緒に行方不明になったって報道だったんだけど、レオにぃの近くに停まってたトラックのドラレコ映像が提供されてね、レオにぃのトラックが段々薄くなって最後には消ていく様子が録画されてたの」

「うちも見た。ニュースとか特番とかでめっちゃやってたよ。それで消えたのがレオくんだって知って……居ても立ってもいられなかった」


 そんな扱いだったんだ……


「なら、俺が消えた同日に学生が5人消えたりとかは?」

「それは……兎斗は知らないかな」

「うちも知らない」

「僕も知らないよ」


 ふむ、学生5人の集団失踪だしニュースになりそうなものだけどな……

 俺との違いはなんなのだろうか? 映像の有無?


「まぁ……うん、分かった。じゃあ今後のことなんだけど……」


 どうしよう?

 暗示の話を聞いてしまった以上殺すのは忍びない。

 帰還は本人たちが拒否。

 かと言って知りません。サヨナラなんて言ったらずっとまとわりつかれそうだし……


 この3人、普通に強いから俺が1人の時を狙って既成事実を作りに来る可能性が非常に高い。


 それに……変態が何かやらかしそう。


 それならいっそ側室として迎え入れてコントロールした方がいい……のか?


 サーシャたちは嫁が増えることに文句は無いようだ。むしろ迎え入れるべき、みたいな目でこっちを見ている。


 大方、3人を迎え入れてその力と能力をクリード侯爵領の発展に活かすべきとでも考えているのだろう。


 前向きに検討してみよう。


 兎斗は……暗示が解けてアホの子モードに戻るのならまぁ……

 佳奈は……こいつ独占欲の塊みたいな女だったんだけど……複数の嫁が居ることに文句は無いのだろうか?

 ストーカーは知らん。マジで誰かわからない。まずはそこからか……


「えっと……影野だっけ? 悪いけどマジで覚えてないんだ。影野はなんで俺に惚れたんだ?」


 なんで俺に惚れたって自分で言うのめっちゃ恥ずかしい。


「レオきゅん……きっかけは、高校入試の日に絡まれていた僕をレオきゅんが助けてくれたことだよ」

「入試の日? 絡まれてた?」


 あったような無かったような……


「あの時僕は3人くらいに囲まれてて、それを見たレオきゅんが助けてくれたんだ。その時のアイツらとレオきゅんのやり取りがかっこよくて……」


 あったような……無かったような……あったような……


「やり取り?」

「うん。僕に絡んでる人たちに向かって『それ楽しいの?』って」


 あったような……


「それでアイツらが『楽しい』って答えたら、レオきゅんが……」

「リーダーっぽい奴の胸ぐら掴んで壁に叩きつけたやつ?」


 なんか思い出してきた。


「そうそう! それで『面白くないじゃん、くだらねぇ』って!」


 あったわ。完全に思い出したわ。

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