第11話 ウルト建設
翌朝、目を覚ますとリンの寝顔が目の前にあった。
とても愛おしい気持ちになってイタズラしようかとも思ったが、ふと以前のことを思い出した。
以前も同じようなことがあり、軽くキスをしたら反応できない速度で押し倒された。
その事を思い出したのでそっと抜け出そうとも考えたが、昨日のリンを思い出すとそんな事も無いように思えてくる。
どうしよう?
リンの寝顔を眺めながら思案にふけっていると、パチリとリンの目が開かれた。
「おはよう。あなた」
「おはよう」
また「あなた」の呼ばれてキュンとして思わずリンを抱きしめた。
「あっ」
「あっ……」
リンはなにかに気付いてそのナニかを掴む。
「朝からこんなに……昨日あれだけシたのにこんな……これはお仕置が必要ね?」
反論は許されなかった。
目覚めて1時間と少し、朝食をとるため食堂へと移動するとヒメカワ一家が揃っていた。
なんだか気まずい、目を合わせられない。
「おはようクリード侯爵……なんだかやつれてないか?」
「いえ、なんでもありません。大丈夫です」
「そ、そうか?」
ヒメカワ伯爵は俺とリンを見て何かを察したように伯爵夫人へと視線を向ける。
釣られて俺も夫人に目を向けると、夫人はニヤニヤとした顔でリンを見ていた。
リンを見ると、同じようにニヤニヤしながら夫人と目を合わせていた。
「な、なるほど……まぁいい、朝食にしようか」
ヒメカワ伯爵はなんというかこう……気遣わしげな目で一度俺を見てから宣言した。
あの目、もしかしてヒメカワ伯爵も?
「ご馳走様、じゃあ今日も行きましょうか」
全員の朝食を食べ終わったタイミングでリンが立ち上がる。
それに俺も続いておこう。
「ご馳走様でした。では、行ってきます」
「気を付けてな。橋が開通すれば家からも人を出すから、完成の目途が立ったら言って欲しい」
「多分……今日か明日には……」
「は?」
俺だって「は?」って感じだよ。
「レオとあたしの魔力、それにレオの神器まで使って建設してるの。だから早くて当然よ!」
リンさん、あなた昨日完全無表情でしたけどね。
ポカンとしているヒメカワ伯爵を置いてリンが部屋を出ていったので慌てて追いかける。
そのまま屋敷を抜け、街の門を抜けたところではたと思い出す。
ウルトは?
「どうしたの?」
「いや、ウルト戻ってきてないような……」
「そうなの?」
そうなの。完全に忘れてた。
どうしたんだろうね? もしかして渓谷に落ちた?
【無限積載】からイヤホンを取り出して耳に付ける。
スマホ……そういえばサーシャに預けてるな、これじゃ連絡出来ない。
ならばウルトに【思念共有】で声を掛けようかと思った瞬間、イヤホンからウルトの声が聞こえてきた。
『お呼びでしょうかマスター』
「びっくりした! ウルト、お前どこに居るの?」
なんの前触れも無く聞こえてきた声に心底驚いた。
『マスターの領地です。マスターならある程度海に近く、地盤も安定している場所に領都を据えるだろうと考え条件に合う場所を発見、整地しておきました。それから橋の建設場所から領都予定地までの街道も作っておきました』
「なんて?」
ちょっと意味わかんない。
『領都予定地の選定、整地は完了。領都予定地までの街道の敷設も完了しております。後は村や街の場所の選定、整地が必要です』
「……」
言葉が出ない。
こいつなにやってんの?
『時間を忘れ作業に没頭してしまいました。申し訳ございません。マスターの【トラック召喚】を使って頂いてもよろしいでしょうか?』
「……はい」
事態が呑み込めずに言われるがままに【トラック召喚】を発動、すぐに目の前にウルトが現れた。
『マスター、リン様、申し訳ございませんでした』
「いいよもう」
まぁ、俺のために動いたんだろうし……責められないよな。
「どうしたの? 何かあったの?」
リンは怪訝そうな顔をしている。
そりゃそうか、イヤホン越しの会話だったからリンにはウルトの声は聞こえてないもんな。
「なんかね? 領都の建設予定地の選定とそこの整地。その予定地まで続く街道の敷設まで完了したらしいよ? 意味わかんないのよね?」
「は?」
ですよね。そうなりますよね。
「まぁ。とりあえず橋を完成させようか……」
「そうね……」
ウルトに乗り込み、移動する。
『こちらをご覧下さい』
2人なので俺が運転席、リンが助手席に座りシートベルトを締めたタイミングで、フロントガラスに地図が表示された。
『ここが橋の建設現場です。ここから北西に進み……こちらが領都予定地となっております』
光の点が現れてそれぞれの位置を示す。
あのさ、橋から領都予定地まで森とか山とかあるんだけど……
『拡大します』
みるみるうちに地図が拡大されていく。
見やすくなったので先程気になった森や山を見てみると、森の真ん中に石の道が出来ており山はトンネルが掘られているようだ。
『いかがでしょうか?』
「なんぞこれ……」
「えぇ……」
俺もリンも言葉が出ない。
こんなのいくら魔法を使うとしても人の手でやれば最低でも数年は掛かると思うんだけど……一晩でこれ?
『お気に召しませんでしたか? それでしたらすぐに作り直しますが』
「いやっ……そんなことは……ないよ?」
もうこれ以上何も言えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます