第10話 リンとの1日

「さて……」


 リンとデートしようと思ったはいいのだが、土地勘が無さすぎて何をしたらいいのか分からない。


 とりあえず時間的にも……昼食かな。


「リン、何か食べに行こうか」

「そうね、じゃあ出店通りに行ってみましょうか」

「出店通り?」

「ヒメカワの街の名物よ。100件近い屋台がズラっと並んでてそこで食べ歩きするのよ」


 へぇ、面白そうだ。


「いいね、行ってみよう」

「あたしのおすすめはイカ焼きよ」

「すぐに行こう」


 俺の返答に気を良くしたのか、無表情だったリンもだんだん楽しそうな表情になってくれた。


「こっちよ」


 自然な動作で俺の左腕に自分の腕を絡ませて歩き出す。そういえばリンとこうして歩くのも初めてかもしれないな。


 歩きながら街の歴史や文化なども教えてくれて楽しい。完全に観光だな。



「うま……」

「ほら、口の端にタレ付いてるわよ」


 イカ焼きに齧り付いて感動していると、リンは俺の口の端に付いたタレを指で拭いその指をペロリと舐める。

 なんだろ、なんだかゾクゾクする……


 それからたこ焼き、焼きそば、唐揚げ串、魚のフライなどを買い漁り食べ歩く。

 どれも食べ慣れた味に近くて食べる手が止まらない。

 ここは日本かな?


 もう帝国まで行かなくてもいいんじゃないかな、ここで永住したい。


「ふぅ……」


 色々な出店で買い食いしてお腹もいっぱいになってきた。

 食べたいものはまだたくさんあるが今日はこれくらいにしておいてやろう。


「レオ、買い物に付き合ってくれない?」

「いいよ。何買うの?」

「色々とね。レオの服も買わないとだし」


 服? いっぱいあるよ?


「なんでって顔してるわね。レオ、あなたは侯爵家当主なのよ? もっとそれに相応しい服装をね」

「仰せのままに」


 俺に服飾のセンスなど皆無である。


 日本に居た頃だって作業服もしくはジャージが基本だったのだ。

 一応、長距離始めるまで付き合っていた彼女に選んでもらった服はあるけど着る機会はほぼ無かった。


「これとこれと……あとこれと」


 何件かの服飾店を回りたくさんの服を選ぶリン。

 あーでもないこーでもないと悩む時間が少ないのは救いである。


「……まだ買うの?」

「次で最後よ」


 これだけ大量に購入してまだ行くのか……

 ちなみに本日の成果の半およそ6割が俺の服である。

 2割がリンの、残りの2割はほかのよめーずに対してのお土産らしい。


 なんでもしばらく俺を独占するからそのお詫びも兼ねてとの事だ。


「ここよ」

  「あのー……リンさん?」


 ここランジェリーショップ……


「早くしないと閉まっちゃうから入るわよ」

「いや……俺その辺で待ってるから……」


 無理っす。女性服を扱う店なら行けるけど、下着屋は無理っす。ハードル高いっす。


「いいから行くわよ。レオの好みも知りたいからついてきなさい」

「ああああ……」


 抵抗虚しく引きずり込まれる。

 おいそこのカップル、こっち見るな。

 特に男の方、悟りを開いたような優しい目で俺を見るな!



「ありがとうございましたー」


 入店して数十分、俺は悟りを開いていた。

 下着なんてただの布、変態にはそれが分からんのですよ。


 それと……サーシャF、アンナE、リンD、ベラD、ソフィアC、イリアーナAだってさ。

 なんのことかはわからないけど、選んでる最中リンがずっと呟いてた。

 なんのことかさっぱりわからないけど。


 購入した全ての品を【無限積載】に積み込んで領主屋敷へと戻りヒメカワ伯爵家の家族と夕食を共にする。


 そこで義理の甥、次の次のヒメカワ伯爵に勇者や魔王との戦いの話をして欲しいとせがまれたのでグロい部分を省きながら話す。

 気持ちよく話を終えると、ヒメカワ一家はなんとも言えない表情を浮かべていた。


「いや、すまない。もっとこう……死闘なのかと」


 しまったな。もっと話を盛れば良かったか……


「それに最後の言葉を遮って斬るのは……」


 そこは反省しています。


 夕食を終えて風呂で身を清めてリンは自室へ、俺は宿泊する客間へと案内された。

 今日は1人寝か、まぁリンの実家だし仕方ないか。


 特にやることもないのでベッドに寝転がってしばらく、ちょっと眠たくなってきた頃に扉が叩かれた。


「はーい」


 こんな時間に誰だろう?

 もしかしてヒメカワ伯爵かお義兄さんがなにか話があるとか?


 立ち上がり扉を開くと、そこにはネグリジェ姿でモジモジした様子のリンが立っていた。


「来ちゃった」


 なんだろう、ネグリジェ姿のリンなんてもう何回も見て見慣れてるはずなのになんだかドキドキする。


「入っても……いい?」

「あ、ああ……」


 体をずらしてリンを部屋に迎え入れる。

 部屋に入ったリンはゆっくりと進みベッドの端にちょこんと座った。


 ははーん、あれだな? 誰かが魔法でリンに化けて俺にドッキリでも仕掛けに来たんだな?

 これで俺が我慢できずに押し倒したら効果音と共に【ドッキリ大成功】っ書いた札を持ったリンが部屋に入ってきてネタばらしするんだな?


 そんなことはさせないとそっと【魔力視】を発動してリンを観察。魔法で化けているならこれで見破れるはず。


 ……あれ?

 魔力の流れに違和感は無い。ということはリン本人か?


 いや、でも……何らかの魔法で錯乱しているのかとも思ったが【魔力視】を使っている今、そんな魔法に掛かっているのなら見破れるはず……


 あれ? じゃあなんで? リン……だよね?


「あなた?」


 潤んだ瞳で俺を見つめてくる。


「おぅ」


 再びドキッとさせられた。

 普段名前呼び捨てじゃん。なんで急に「あなた」呼びになってるの!?


 立ち尽くしていても仕方ない。

 リンの隣に腰を下ろすと、そっとその身を寄せてきた。


 ヤバい、ドキドキが止まらない……

 それになんだかいつもより甘い香りが……


 リンは俺の肩に頭を乗せたまま上目遣いで俺を見ている。

 心臓の音が聞こえてしまわないか少し不安になる。


「あなた……」


 リンはそっと目を閉じる。


 俺の理性は崩壊した。

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