第8話 秘伝書

 ジェイドたちを連れて教国に戻りおよそ1ヶ月、正式に未開領域がクリード家の領地として下賜された。


「そういうことで開発を頑張って欲しい。当然ウチからも人は出すから」

「そういうことでって……アレクセイ、簡単に言うけどどうすりゃいいのさ?」

「優秀な魔法使いが居れば開発ってすごい楽らしいよ? そういえばレオの奥さんに最高の魔法使い居るよね? いやぁ偶然だなぁ」

「お前……」

「それにレオだって魔法使えるでしょ? これは開発も早そうだ」


 ニコニコとそんなことを宣う。

 若干イラッとして睨みつけるが、アレクセイは何処吹く風だ。


「領地のことは全部レオが決めることなんだけど、こっちの希望としてはヒメカワ領との境の渓谷を渡る橋が欲しいかな? 人や物資を運ぶのにわざわざゴルベフ辺境伯領を経由するのもね……」


 橋って……

 確かにゴルベフ辺境伯領経由だとかなりの遠回りだけど、橋って……


 あの渓谷、見た感じ幅50メートルはあるぞ?

 深さもどれくらいあるのか……みんなが渓谷って言ってるから渓谷って呼んでるけどあれはもはや断裂だと思う。


 あそこに橋を架けるって……


「早速あたしの出番ね」


 一緒に話を聞いていたリンが声を上げる。


「出来るのか?」

「さすがに1人じゃ無理よ。お父様やお兄様、あともちろんレオにも手伝ってもらうわよ?」

「そりゃ手伝うけどさ……」


 俺に何ができるの? って話だけどさ。



 翌日、よめーずや使用人たちに数日から下手をすると数週間戻らないと告げて俺とリンの2人はヒメカワの街へとやって来ていた。


 街並みを眺めながら領主の屋敷へと歩いていく。


「どう? ここがあたしの実家の納める街よ」

「綺麗な街並みだね。それにいい匂いもする」

「アルマン教国一の食の街なのよ。天下の台所や食いだおれの街とも呼ばれているわ」


 大阪かよ。


 海が近いので新鮮な海産物がたくさんあり、海とは反対側にある山では牧畜も盛んなためいい肉も手に入りやすいらしい。

 食べたいものがたくさんある素晴らしい街だ。


 しばらくリンに案内されながら街を歩いていよいよ領主の屋敷に到着、警備兵もすぐにリンに気が付いたようですぐに中へと通された。


「クリード侯爵、本日はどのようなご用向きで?」

「お久しぶりですヒメカワ伯爵。今日は私が賜った領地との間に橋を架けるご相談に……」


 俺がヒメカワ領の北の未開地を領地としたことは当然ヒメカワ伯爵も知っていたらしく、話はスムーズに進む。


「それでお父様、ヒメカワ家の秘伝書を見せて欲しいの」


 秘伝書?


「ふむ、確かにあの渓谷に橋を架けるのなら秘伝書に書かれた技術が役に立つだろうな」

「でしょ? それにレオなら実物を見たことあると思うし」

「そうだな」

「あの……」


 俺を置いてきぼりで話が進んでいたのでつい口を挟んでしまう。


「どうしたの?」

「いや、秘伝書って?」

「初代ヒメカワ家当主が書き残した秘伝の技術書よ。異世界の建築物やそれを魔法で再現する方法が書かれているの」

「なるほど、そんなものがあるのか」


 だから俺なら実物を見たことがあるってことか。


「他にも数学や理科の教科書だったり料理本だったりもあるわよ?」

「凄いな……」


 でもそれってラファエル的に全力でアウト! な本だと思う。

 そういう知識はあまり広めて欲しくなさそうだったし……


 というか、リンがベラに教えた内容ももしかしたらヒメカワ家の秘伝書の内容なのかもしれない。

 けしからん。大変にけしからん。これは神と直接会った人間として検閲すべきではなかろうか?


「御館様、お持ちしました」

「ご苦労」


 リンと話している間に指示したのだろう、ヒメカワ伯爵は使用人から一冊の本を受け取っていた。


「あそこの渓谷は深すぎて柱は建てられない。よって吊り橋方式にすべきだと思うのだが……クリード侯爵はどう思われるか?」


 どう思われるかと言われましても……

 吊り橋で有名なのは明石海峡大橋かな? 当然見たこともあるし渡ったこともあるけど、作り方とか知らんぞ?


「いいと思いますが、基礎工事から始めた場合何年かかるか……」

「レオ、そこは魔法でどうにでも出来るわよ。そのためにあたしも来てるんだから」

「それはそうだけども」


 橋ってそんな簡単に架けられるものかね?


「リンの言う通りだな。しかしあの距離を渡すとなると相当に魔力が必要だが……」

「1日で終わるとは思ってないわ。何日かに分けて行うし、レオにも手伝って貰うから……だからお父様、その秘伝書貸して貰えないかしら?」

「ううむ……まぁリンとクリード侯爵になら……だが他の者には見せないように」

「もちろんよ。ありがとうパパ」


 ヒメカワ伯爵はなんとも言えない表情でリンに秘伝書を手渡す。

 娘にパパと呼ばれて嬉しかったのかな? それより18禁の秘伝書が見たいです。


「じゃああたしたちは早速行ってくるわね」

「ああ、泊まる部屋は用意させておこう」


 ヒメカワ伯爵との話を終えて街の外へ、そのままウルトに乗り込んで渓谷へと向かう。


「どの辺に橋架けるの?」

「そうね、街道がこう通ってるから……この辺かしらね?」


 ヒメカワ伯爵領の地図を取りだして指でなぞりながら答えてくれる。

 ここからなら……ウルトなら30分もあれば到着しそうだな。

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