第6話 タレは偉大な発明品

 盗賊を退けた翌日の昼前、俺たちは帝都に到着した。

 一応警備兵詰所へ赴いて昨夜の出来事を報告しておく。


「思ったより早く終わったな。それじゃジェイドの家に行ってみようか」

「やはり帝国でもレオ様の勇名は轟いているようですね」


 ニコニコとサーシャは嬉しそうだ。

 世界を救ってみたり、帝国の英雄をぶちのめしたりしているのだ、悪目立ちとも言う。

 下手をすれば教国より帝国の方が知名度があるのかもしれない。


 時折通りすがる人に指を刺されたり、ヒソヒソされたりしながら進みようやくジェイド宅へと到着した。


 いくら有名で美女美少女6人連れて歩いてるからって指差したりヒソヒソしたりは酷いと思うの。

 いやごめん、俺もそんなやつ見たらやっぱり指差すわ。


「おとうさーん!」


 ノッカーをガンガンしながらイリアーナが呼びかける。

 少しして中から足音、ドアが開くとイリアーナの母であるペトラが出迎えてくれた。


「あらおかえりなさい。どうしたの?」

「引越しの準備はどう?」


 なんか噛み合ってないよイリアーナ。


「もう出来てるよ。何時でも出発出来るわ」

「なら、行こう?」

「お父さんたちが帰ってきたらね」


 ジェイドは出掛けてるのか。


「どこに?」

「冒険者ギルドよ。出発前の挨拶だって」

「なる」


 ほど。


「とりあえず中に……と言っても何も無いんだけどね」


 ペトラに案内されて中に入るが、言葉通り家具などは全て片付けられていた。


「あ、俺が出しますね」


 ペトラさんは中に入れたはいいものの、どうしていいか分からない風だったのでここは娘婿としていい所を見せておこう。

【無限積載】からテーブルと椅子を人数分取り出して設置する。


「あらあら、旦那さんはいいスキルをお持ちのようね。【アイテムボックス】かしら?」

「まだ旦那さんじゃない。婚約者」

「固いわねぇ……」


 今更すぎてアレだけど、よく考えたら婚約者の家族を迎えに来るのにほかの嫁連れてきてる俺って大概だな……

 娘婿としていい所見せるとかの騒ぎじゃない。


「レオ様、ティーセットをお願いします」

「はいよー」


 まぁね、連れて来てるんだからどうしようも無いね。

 むしろイリアーナの家族を迎えに行くって話だったのに自然とみんなついてきたから問題ないものだと考えよう。


 ティーセットとお茶請けに良さげなお菓子を見繕って取り出して並べる。


 ジェイドが戻ってくるまでお茶をしていたが、どうやら俺がよめーずを連れてきたことはむしろ好印象らしい。

 イリアーナと仲の悪い妻なら連れてくるべきではないが、イリアーナと仲のいい妻なら連れてくるのが普通なんだって。

 世界が違えば家族観も違う、よく分からない。


「戻ったぞ」


 2時間ほどだろうか? ペトラとよめーずが仲良くなった頃ジェイドたちが帰ってきた。

 ジェイドのもう1人の妻ルイーゼと、ペトラの息子でイリアーナの実兄であるアーヴィング家の長男フィリップだ。


「レオ殿、来ていたのか」

「お邪魔しています」


 ジェイドは疲れた顔をしている。冒険者ギルドで何かあったのかな?


「ジェイド様、どうぞ」

「おお、ありがとう」


 人数も増えたので、新たに椅子とテーブルを取り出して設置、すぐにサーシャが3人にお茶を淹れる。


「何かあったんですか?」

「顔に出ていたか?」

「バッチリ」

「そうか」


 ジェイドはため息を吐いてから話し始めた。


「なんということは無い、オリハルコンランクの儂らが帝都を離れると言うとギルドにごねられてな」

「それは……まぁ」


 冒険者ギルドもしても、優秀な冒険者に離れられるのは困るだろうし、仕方ないよな。


「その場で冒険者証を突っ返して引退してやろうかとも思ったが……陛下は冒険者として穏便に国を出ろと仰ったからな」


 口を湿らせるためか紅茶を一口口に含む。


「美味いな……まぁ、冒険者ギルドにも筋は通した。これで何時でも出発出来るぞ」

「そうですか、それはちょうど良かった」


 もう数日は掛かると思っていた。

 むしろ冒険者ギルドがジェイドたちを離さないだろうから俺がレベル上げついでに派手に依頼を受けて目線を逸らそうかと思ってたんだけどね。

 その必要も無かったみたい。


 何日か宿をとって逗留、一度くらいは皇帝に顔を出そうかと思っていたが、すぐに出られるならその必要も無いだろう。


「じゃあ行きます? お義兄さんも大丈夫ですか?」

「大丈夫です。しかし侯爵様、私に対して敬語は不要です。どうぞフィリップと呼び捨てにしてください」

「分かったよ。ならフィリップも呼び捨てでいいぞ? 義理とはいえ家族になるんだから」


 歳も近いようだし、敬語不要ならありがたい。敬語は苦手だ。


「まぁ……おいおいと言うことで……」

「それでいいよ」


 嫁の兄貴から敬語使われるのもね。


「じゃあ出発しようか……っと、その前に昼食べてなかったな」


 時刻は昼を回ったところ、お腹も減ってきた。


「もうこんな時間か、レオ殿、飯なら食いたいものがあるのだが」

「なんです?」


 帝都の美味しいお店かな?


「この前の肉、ミノタウロスだったか ? あんな美味い肉は初めて食べた。あの肉が食べたいのだが、もう無いのか?」


 流石は超一流冒険者、齢50を過ぎても肉をご所望か。


「ありますよ。あの肉が食べたいとはお目が高い」


 塩コショウだけでもとても美味い。タレがあればもっと美味いんだろうな……

 ラノベ主人公はタレ自作したりしてるけど、あんなの作れねえよ。


「それは嬉しいな。実はあの肉に合いそうなタレがあるんだ。買いに行こう」


 あるの!? タレあるの!?

 いや、牛丼もあるんだ、タレがあっても不思議ではない。

 クソっ! 盲点だった!


 ジェイドの案内でタレを大量購入、店が門の近くであったためそのまま帝都を出て全員でウルトに乗り込んだ。


「これがレオ殿の神器か……なんと面妖な」

「外から見るより明らかに広いのですが……」


 ウルトに乗り込んで内装を見て驚愕するジェイドとフィリップ。

 ペトラとルイーゼも興味深そうにキョロキョロと見回している。


「さすがに帝都のすぐ側で肉を焼くのもアレなので30分ほど走りましょう」

「ああ……って早い速いな!?」


 走り始めたウルト。

 窓代わりに透過された壁から外を見てジェイド一家は唖然としている。

 まぁ馬で駆けるよりはるかに速いからね。


「レオ様、今のうちにお肉を切り分けておきますね」

「俺も手伝うよ」


 移動中にサーシャと下拵えを終わらせていい感じに周りに何も無い場所で停車する。


「これは……!?」

「レオ殿! ミノタウロスはどこに居るのだ!? もっと狩りに行こう!」


 タレをつけたミノタウロス焼肉は絶品では言い表せないほどの味だった。

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