第5話 盗賊再び

 半日ほど未開地を探索、大量のゴブリンを轢き殺しながら地図を作成する。


 不思議なことにこの未開地ではゴブリンしか魔物は存在しない。ゴブリンパラダイスなのだろうか?


 まぁゴブリンに関しては特に障害になるわけでもないので見つけたら撥ねるくらいでいい。

 問題は地理の方であった。


「平地……少ない……」

「森が多いわね」


 そう、未開地の大半が森なのである。

 開墾しやすそうな平地があまり無いのだ。


「こんなとこ貰ってどうしたらいいの」

「ある程度はあたしの魔法で何とか出来ると思うけど……これは……」


 俺も手伝いたいところではあるが、まだ魔力はB。

 いくつかレベルは上がったがステータスに変化は無い。

 これでは焼け石に水もいいところ、もっとレベル上げないと……


 いや待て、そもそもこの土地が俺の領地になると決まった訳では……


「レオ様、残念ながら……」

「なんでよ」


 嫌がらせか?

 国王に剣を突きつけて王太子をビビらせた俺に対する意趣返しか?

 ……むしろこれで済んで僥倖なのかもしれない。


「侯爵位に相応しい土地の広さというのもありますけど、一番はゴルベフ辺境伯に対する牽制ですね」

「ゴルベフ辺境伯? 牽制?」


 なんでよ?


「実は、お兄様がゴルベフ辺境伯家と例の盗賊団、ノーフェイスとの繋がりの決定的証拠を発見しました。ですが、ゴルベフ辺境伯家程の家を簡単に改易させることは出来ません。転封するにしても、代わりの貴族が居ません。レオ様が辺境伯領を代わりに治めると言うのなら話は変わりますが……」

「絶対に嫌だ。それならここで畑耕して暮らす」

「そうですよね。お父様もお兄様もレオ様の性格上間違いなく拒否するだろうと言っていました」


 アンドレイさんとアレクセイには俺が小市民だということはバレているようだ。


「ですが……レオ様が畑を耕して生活することは有り得ないかと」

「ですよね。知ってる」


 自由気ままな冒険者がいいです。貴族位って返還出来ないかな?

 無理か、よめーずの元の立場考えたら冒険者の嫁とか有り得ないもんな。


 冒険者に戻ります! ならよめーず解散です! とかなったら1人で教国相手に戦争起こすわ。


 そんな話をサーシャとリンと3人でしていると、ソフィアは神妙そうに、アンナはニヤニヤしながら聞いているようだった。


 アンナはあれだ、俺が困ってるのが楽しいんだろうな……


 そんなこんなで領地予定地の地図作りと探索は一旦終了、帝国へと向かうことにする。

 今日一番の成果は未開地には水源が豊富なことが分かったことだ。


 ゴルベフ辺境伯領都を迂回して国境砦へ、教国側を問題なく通過して帝国側で降りてきたミュラー伯爵に皇帝直筆の通行許可証を見せびらかして通過、帝都へと向かう。


 途中日が暮れてきたのでウルトで一泊。

 どこか近くの街で宿をとることも考えたのだが、このメンバーでどこの宿に泊まればいいのか分からなかったし、よめーずとしても宿よりウルトの方が安心出来るということだった。


 夕食はみんなでワイワイとバーベキュー、いい感じにお腹も膨れたところでリンが魔法で作成したお風呂に入る。


 最初によめーずが全員で入り、俺は警備。

 よめーずが全員上がったのでのんびり1人で入っていると、アンナが飛び込んできた。


「どした?」

「緊急事態ッス! ウルトさんが自分たちに近付いてくる気配を察知したッス!」

「マジか」


 結構街道からは離れてるんだけどなぁ……

 いや、離れてるからこそか?


 報告を聞いて立ち上がった俺の動きに合わせてアンナの視線が下へと降りていく。


 タオル……届かない! 手で隠すのも間抜けだしどうすれば?

 もう見慣れてるだろうし隠さないのも一つの手か!?


「だから緊急招集ッス。第一種警戒態勢ッス!」


 第一種? 第二種とかもあるの?

 それより……


「あの、アンナさん? そういうのは顔みて言って貰えませんかね?」


 アンナの視線は俺の下半身に釘付けだ。


「おっきくならないんスか?」

「ならないよ……」


 今はね。


 湯船から出て火属性魔法と風属性魔法を発動、手早く体を乾かして【無限積載】内に積んである服と明けの明星を装備する。


「残念ッス」

「なにが?」


 準備を終えたのでよめーずと合流。すぐにリンが風呂場を土に還す。


「レオ様」

「旦那様」


 俺が姿を見せると3聖女……今は1聖女と2治癒士か。

 3人が駆け寄ってくる。


 リンはウルトの上で、ソフィアとアンナは3人を守るように警戒している。


「サーシャ、ベラ、イリアーナの3人はウルトの中で待ってて。戦闘になるようなら4人で相手をする」

「お気を付けて」


 3人がウルトに乗り込むのを見届けてから俺も【気配察知】を発動。すぐにこちらに近付いてくる20人ほどの集団を補足した。


「北東、距離200、数20」

「了解」


 手短に方向、距離、人数をリンたちに告げる。

 4人でそちらを警戒していると、すぐに集団が視界に入ってきた。


 明かりも消さずに接近とは……


「こんなところで何してるのかなぁ? いけないなぁ、こんな場所じゃこわーい盗賊のお兄さんに襲われちゃうぜぇ?」

「ここに来たのが俺たちみたいな優しいお兄さんで良かったねぇ? 馬車の積荷と女置いていけば命だけは助けてやるぜ?」


 ギャハハと品の無い笑い声を響かせながら近寄ってくる汚い男たち。


 気配を探るが、強者の気配なし。ただの雑魚だ。


「おやおやどうしたの? 立派な鎧着てるのにビビって声も出ないの?」

「ほら、さっさとその鎧も脱げよ、痛い目見たくないだろ?」


 ボロボロの剣を見せつけながらさらに接近してくる。

 そろそろ臭いそうだ。


『マスター、報告が』

「なに?」


 そろそろ警告でもしようかと思っていると、ウルトからなにやら報告があるらしい。


『あの先頭の男ですが、【絶倫(極)】を所持しています』


【絶倫(極)】? そうか、俺今【絶倫(強)】しか持ってないんだったな。


「レオ! 他の連中はあたしの魔法で吹き飛ばすからすぐに斬って!」

「後ろには絶対通さないッスからはやく行ってくださいッス!」

「ここはお任せを。レオ殿は速やかにあの者の首を刎ねてください!」


 ええ……


 ウルトの報告を聞いた途端、3人のやる気メーターが振り切ったようだ。


 いや、まぁ……うん。リンとアンナは分かるんだけどソフィアまで?


「早く!」

「あ、はい」


 急かされたので警告も無しに【天翔閃】をぶっぱなして一撃で戦闘を終わらせた。

 食い詰めた農民とかなら考慮するけど、ただの盗賊みたいだしこれでいいだろ。


 《【絶倫(極)】を獲得》


 何だか久しぶりの脳内アナウンス、無事習得出来たようだ。


「レオ、スキルは?」

「奪えたよ」

「「「よし!」」」


 3人の声が重なる。

 なんだろう、取り返しのつかないことをしてしまったような気がしてならない。


「じゃあコイツら燃やしちゃうから、それが終わったら少し移動しましょう」


 ウルトから降りたリンは土魔法で穴を掘り、盗賊たちの死体を放り込んで灰にした。


 それからウルトに乗り込んで数キロほど移動。

 その間ずっと獲物を見つめる肉食獣のような目で見つめられて大変に居心地が悪かった。

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