夢追う少女⑥
「じいさん」
「気づいておるわ」
現役を退いたとはいえ、流石に《狩人》だ。足音には気づいていたらしい。
「心配いらん。この距離ならバドゥ車のほうが速度は上だ。追いつかれることはないわ」
まあ、そうだな。追跡者の正体は分からないが、おそらく足音からして、騎乗している獣はスクリームだ。わずかな食事で長距離を移動できるため荷物運びに重宝している四足獣だが、低空を飛行できるバドゥと比べると速度は遅い。
ふと、ポツリ、ポツリという音が荷車の屋根に響いた。周囲を見ると、雨が降ってきている。だが明らかに奇妙だ。雨は、バドゥ車の周囲にしか降っていない。その雨を降らせている雲が、バドゥ車を追うように移動している。
そして、その雨からは…わずかながら異臭がする。
「これは……?」
荷車の中や操手席は雨に当たらない。だが、その荷車を引くバドゥは別だ。雨を浴びたバドゥは、「ぐぎゅう」とうめき声を上げながら、目がうつろになっていた。
原因はおそらく…この雨だろう。
「じいさん!」
バドゥが暴走し、近くの岩場へと頭から突っ込んだとほぼ同時に、俺はじいさんと姫サマを抱えて荷車から転がり落ちた。
岩場に衝突した荷車は大きな音を立てて壊れ、車輪が外れたが、まだ辛うじて大破はしていない。
雨は、すでに止んでいる。
「くっそ、なんなんだいったい」
まずは二人の様子を確認する。ゴンゾウじいさんはすでに周囲を見回していたが、姫サマは急な振動のせいで意識が朦朧としているようだ。
スクリームの蹄の音が迫っている。すぐにこの場を移動しないとまずい。無理やりにでも姫サマを抱えようとしたとき――。
またも、あの奇妙な雲だ。その雲は荷車の上に移動すると、今度はハッキリと刺激臭のする液体を荷車に降らせる。あれは…油か。つまり、ヤバい。
「ビュッ」という風切り音と同時に、火矢が荷車に向かって放たれる。荷車は炎上し、やがて崩れ去った。荷車とバドゥをつなぐ紐が燃えたせいで、バドゥはそのままどこかへ去っていく。
敵の狙いは、最初から移動手段を奪うことだったらしい。
目的を達したからだろう。木の陰からのそりと男が出てきた。奇妙な能面を被っている、長身の男だ。その手には、
そしてスクリームに乗った複数人の追手がその場に現れる。追手は、特徴的な東方風の仮面を被っている。
能面の男は、しゃがれた声でこう言った。
「その娘を置いていけ」
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