第三章:ゴミ拾い
ゴミ拾い①
《狩人》にとって、敵とは何か。
神獣…獲物は《狩人》にとって食い、食われる関係ではあるが、同時に恵みをもたらす糧でもある。決して敵ではない。
狩場を荒らし、獲物の残りを付け狙う
つまり《狩人》の敵たり得るのは……同じ《狩人》だけだ。
その《狩人》が今、敵意を持って俺たちの目の前に立っている。
そしてその手に持っているのは……。
「あの
じいさんが確認するかのようにつぶやく。いつの間にか槍を構え、戦闘態勢をとっている。
「でしょうね」
神獣の身体には、死後もなお
神気を流し込むことで、その神獣に宿っていた
「フオン」と音が鳴る。
この音は、どうやら能面の《狩人》が、ふところから取り出したガラス瓶に狩猟武器らしき
すると、そのガラス瓶に入った液体が、いつのまにか消えている。
「!」
それを見て、俺は頭上に目をやった。予想通り、俺の頭上には先ほどバドゥ車を襲ったあの“雲”が浮かんでいる。
事前に狩猟武器による攻撃を受けていなかったら、気づけなかっただろう。
あの狩猟武器に宿っているのは、液体を雲にする
その場から大きく横に飛び、雲から降り注ぐ雨を回避する。すると、周囲の
「フンッ」
しかしボウガンから放たれた無数の矢は、ゴンゾウじいさんの槍の一回転によって阻まれた。
「どうも」
「おい」
ゴンゾウじいさんが槍を構え、前を見据えながら話す。
「お前の方が動ける。ワシが突っ込む。お前が射て」
ずいぶん簡潔な指示だ。言葉は少ないが、意図は十分に理解した。
返事をするより先に、ゴンゾウじいさんは能面の《狩人》に向かって走り出した。
しかし、能面の《狩人》はそれに対し…一歩引いた。そして足元にある水たまりに向かって、周囲の
つまりあの水たまりは油で、あれは炎の結界だ。接近を警戒して、事前に足元に油をまいていたのだろう。隠れながら、俺たちの頭上に毒の雨を降らせるつもりだ。
「ヌォオオオオオオ!!」
しかし、それにひるむゴンゾウじいさんではなかった。轟くような咆哮を上げて、炎の結界も構わずにただ前方へと突っ込む。それでも、能面の《狩人》にひるんだ様子はない。
その様子に違和感を覚えた俺は、能面の《狩人》の頭上を見る。そこには、注意しなくては気づかないていどの大きさの、小さな雲が浮かんでいた。
二段構えのトラップだ。無警戒で突っ込めば、あの雲から毒が降り注ぐだろう。
「まずい…じいさん!」
その瞬間、じいさんと《狩人》の間に、一人の
それを見た能面の《狩人》は、一瞬ではあるがうろたえた様子を見せた。そのとき、頭上にあった小さな雲も消え失せていた。
「クソ!」
《狩人》を庇った
それを見た能面の《狩人》は、じいさんを迎え撃とうと腰の宝刀に手をかける。しかしその行動は、俺が放った一矢によって妨害された。
「ぐぁ!」
肩に矢が突き刺さった能面の《狩人》に、じいさんが槍を突き付ける。
「ここまでだ」
そう言って《狩人》の喉元に槍を突き刺そうとするじいさん。
「カツン!」
「!」
しかし、その行動もまた、俺が放った一矢によって阻まれた。槍の柄に突き刺さった矢を見て、じいさんがこちらをにらみつける。
「おい小僧…どういうつもりだ」
「そのまま、そのまま」
じいさんの槍は、《狩人》の喉元寸前で止まっている。そのせいで、周囲の
俺は彼らに構わず《狩人》に近づき、その能面に手をやった。
「違和感は二つ。まず一つ目が、荷台の中身に興味を示さなかったこと。つまり物資が目的ではない」
なにせ、襲撃時に真っ先に荷台に火をかけている。物資の略奪を目的とする
「二つ目は、アゲハ…姫サマが目当てということ。高い身分の人間がバドゥ車に乗っていることを知っていた」
身なりを見れば金持ちなのは分かるだろうが、彼らはまず「その娘を置いていけ」と言った。バドゥ車から降りる前に、中にいる人間を知っていたのだろう。
あとはまあ、さっき
姫サマたちの目的や正体を知っていてもおかしくない《狩人》といえば、一人しかいない。
「ここにいたわけね。ジョルジュ」
能面を外したその顔は、確かに見覚えがあった。俺が救出任務で探していた行方不明の《狩人》、ジョルジュだ。
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