第二章:夢追う少女
夢追う少女①
ジョルジュが消息不明になった狩猟拠点はギルドからかなり遠い地域にあり、歩いて三日ほどの距離だったが、設置されたキャンプは簡単に見つけることができた。
鬱蒼と茂った森林の中、獣の目から隠れられるようにカモフラージュしながら、キャンプが設置されている。
しかし、どうも様子がおかしい。
「ひどいねコリャ」
キャンプはひどく荒らされており、周囲には調理道具や狩猟武器などが散らばっている。近くには血痕まであるが、それが人のものか獣のものなのかは分からない。
なんにせよ、詳しく調べてみる必要がありそうだ。
「斬り裂かれたテント…これは獣の爪によるものだな」
ここを荒らした直接の犯人は、どうやら獣だ。ただ、動きがどうも変だな。統制がとれすぎている気がする。人に飼われているか、あるいは誰かが群れをけしかけたか…。
「となると回帰派の《狩人》か、それとも
テントにはコップや皿など、いくつかの生活用品が散乱している。どうやら、数人分のものらしい。
どうも違和感がある。そもそもジョルジュが行方不明になった依頼の内容は、簡単な神獣の生態調査だ。危険が少ないぶん、時間がかかる割に報酬は少ない。
C級《狩人》が好んで請け負う任務ではないし、複数人を雇ってしまったら、経費を引いていくらも残らないだろう。
「これは…足跡か」
もうひとつ、手がかりらしきものを見つけた。ほかと比べると真新しい人間の足跡だ。これはどうやら、ここが荒らされたあとに来た人間のものらしい。
隠してはあるが、慎重に探せば痕跡を見つけることができた。キャンプの外へと、足跡は続いている。
「面倒なことになったな…」
面倒事の匂いがするが、追わないわけにはいかない。調査を中止するにしても、もう少し理由がいる。もし回帰派か
痕跡は大分先まで続いていた。辿っていった先にあったのは…豪奢な装飾のなされたバドゥ車だ。
バドゥ車は、低空を飛行できる
そのバドゥ車を調べようと近づくと、ふと…刺すような視線を感じた。
「!」
視線を警戒し、その場から大きく退く。すると上空から、凄まじいスピードで何かが地面へと突き刺さった。
それが槍だと気づいたときには、槍の元に一人の老人が近づいてきていた。
長いひげを蓄えた、細身の老人だ。
「小僧…何者だ」
そう問いかけながら、老人は槍を構える。
“外”に出てきているということは、おそらく《狩人》だろう。相当熟練した使い手だ。構えを見ればわかる。
「何者だも何も、ただの《狩人》ですよ。怪しいものでは…」
言葉の途中で、老人の槍が俺の顔を真っすぐ突き刺してきた。それをかわすと、老人の顔がより険しく変わる。
「ちょいちょい! だから敵対するつもりはないんですって!」
「たわけ」
こちらをにらみつけながら、老人は言葉を続ける。
「二度もワシの攻撃を避けられる人間が、ただの《狩人》であるものか。何者だ貴様。ウィグリッドに雇われた追手か?」
「いやいや、言っている意味が……」
構えを変えた老人が、今度は槍の連撃を浴びせてくる。俺はそれをかわしながら、老人の動きを観察する。
やはり熟練の槍の使い手だ。何より動きに迷いがない。ああでも、どうやらこのじいさん、現役の《狩人》ではないな。《狩人》にしては……。
「っが!」
遅いし、弱すぎる。
俺は宝刀を鞘から抜かないままに逆手に構えて、そのまま老人の顎めがけて振り切った。当然、顎をひどく揺らされた老人は脳をゆすられ、意識が朦朧となる。
「…おのれ小僧!」
膝から崩れ、意識が朦朧としながらも、まだこちらを強い意志でにらみつける老人。降参するつもりはないらしい。
次の瞬間、老人がさらに槍の構えを変えたとき、ふと全身に怖気が走った。その原因は明らかだ。
「蜃気楼の……」
老人が槍の切っ先をこちらに向けると、槍の周囲が蒼く輝き始めた。神気が集中している証拠だ。
やはりあの槍は――まずい!!
「そこまで」
老人の追撃に備えようとしたとき、周囲に凛とした声が響く。さきほどまで強い敵意を見せていた老人は、その声を聞くととたんに槍を収め、膝をついてしゃがみこむ。
声の出どころは、バドゥ車の中からだ。
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