第7話 ストーキング
「先輩は、よく知っていますね?」
と、聞くと、
「ああ、結構詳しくなったものだよ。映画や雑誌、だけど、それだけじゃないんだ。もっとリアルな情報ソースと持っているからね」
と以前言っていたが、それは、きっと、風俗嬢から聞いた生の話だと思っていた。
しかし、この日、実はそうではなく、それ以外にも斬新な情報ソースを持っているのだと知った。
先輩が、ソープの話を始めたのだ。
「せ、先輩」
と目配せをしたが、先輩の話は止まらなかった。
先輩は話始めると止まらないところがあり、彼女さんもそのことはよく分かっていて、いつも苦笑いをしていたのだ。
「ソープっていうと、なかなか最近は、粒揃いでさ。この間、こいつを初めて連れていったんだけど、やっと立派に卒業できたんだよ」
と言って、先輩は笑った。
彼女さんも、
「そうなんだ。おめでとう」
と言って、ニコニコしている。
この彼女さんは、先輩のいうことなら、少々のことは許容範囲のようで、ソープに行くことをまったく避難することはなく、それよりも、以前話してくれたこととして、
「他の女性に本気になられるよりは、ソープで遊んでくれた方が気が楽なのよ。彼はソープ嬢に本気になることはないと思うの。だって、飽きやすい性格だし。何よりもその理由は、私が一番分かっているのよ。だから、安心なの」
と言っていた。
「何を分かっているというのだろうか? 安心できるほどに分かっているということは、それだけ先輩のことが分かっているということであり。これだけいつも遊び歩いている先輩に嫉妬などしないのだろうか?」
と思った。
ただ、彼女さんを見ていると、別に嫉妬をしている様子はない。本人の言っている通り、安心していると言ってもいいようだ。
「マサト君は、女というものを知らないから、よく分かっていないんでしょうね? 確かマサト君は童貞だったわよね? でも、彼がちゃんと教えてくれるから安心ね。だから、大丈夫よ」
と言っていた。
妖艶な雰囲気がありながら、
「頼れるお姉さん」
である。
だから、先輩もマサトと彼女さんが一緒にいても、何も言わない。それは、マサトを信じているというよりも、それだけ彼女さんを信じているからだろう。
二人の間で感じたことは、お互いに思いやる気持ちが強いことだった。思いやるというよりも、お互いに信頼し合っていることが、思いやることに通じるということ。それが、最先端の距離にあるということに繋がっているからだと、口を揃えていうのだった。
別にお互いが一緒にいる時にいうのではない。一緒にいれば、恥ずかしくて言える言葉ではないだろう。
ただ。二人の間に、
「恥ずかしい」
という言葉は超越したものではないだろうか?
もし、この二人であれば、遠距離恋愛をしていたとしても、絶対に別れるというようなことなどないに違いない。
と言い切れるのではないかと思えるほどだった。
どこから、お互いにそんな気持ちになり切れるのか?
そのことは、二人とも、
「言葉では言い表せない」
と言っていた。
「彼がソープに行くのは、私のことを再認識するために通ってくれていると思うのよ」
と彼女さんが言っていた。
普通なら、
「なんて、自惚れが強いものか?」
と普通なら思うのだろうが、この二人に限っては。自惚れがあるくらいが、自然であり、まわりに癒しを与えるくらいに感じられる。
マサトが彼女ができないのは、
「この二人を見ているからかも知れない」
と、感じたことがあった。
というおは、二人の中の睦まじさを見ていると、
「俺もこんなカップルになれればな」
と思ってしまう。
二人に何の障害があるというのか、ツーと言えばカーという仲を見せつけられていると、カップルというのは、
「これ以上でも、これ以下でもない」
と感じさせられるのだった。
「先輩の性格がいい、彼女さんの性格がいい」
というよりも、
「お互いがお互いを思いやり、それが、実に自然にできていることが、まわりに安心感を与えるのだ」
ということであり、
「自分にも、そんなカップルになれる相手がきっと現れる」
と思い込むことで、他の女性に行く気にはなれないのだろう。
人から見れば、
「お前程度の男が選り好みなんかしてたら、一生彼女なんかできやしないぞ」
と言われるかも知れない。
しかし、先輩はそんなことは言わない。
「お前には、お前にふさわしい相手がきっと現れる」
と言ってくれた。
先輩の言葉なので、信用できる。
「何も焦って、彼女を作る必要なんかないんだ。焦れば焦るほど、同じように焦っている相手しか見えてこないので、そんな相手とカップルになったって、ロクなことはないさ。彼氏、彼女ができると、気持ちに余裕ができて、もっといい人がいたのではないか? と思い始めると、ギクシャクしてきて、すぐに別れることになったとしても、それは無理のないことだからな」
と先輩はいうのだった。
それを聞いた時、
「ああ、もっともだ。さすが先輩。俺も先輩のようになりたいな」
と思ったことが、
「先輩についていけば、間違いない」
と感じた一番だった。
だから、今回のソープにての童貞喪失であったが、これでよかったと思っている。彼女ができた時、童貞でいる必要はなく、逆に経験があった方がいいのかも知れないと、感じるほどになっていた。
ただ、どうして、先輩が風俗遊びをやめられないのか、不思議ではあった。
「あんなに素敵な彼女がいるのに?」
という思いがあって、まさか、
「彼女公認」
として、風俗通いをしているとは思わなかった。
彼女さんがどこまでも寛大なのか、それとも、それだけ先輩の人徳なのかとも思ったが、もちろん、それもあるのだろうが、それだけではなく、二人の間に存在する絆と、阿吽の呼吸というものが、二人の間には存在し、それが、寛大に見えるほどの関係を示しているのだろう。
そんな風に思うと、他の連中が、
「選り好み」
などと言っている言葉の方が、まるでハイエナが吠えているかのように思えて、実に低俗な言葉にしか聞こえないのだった。
そう思うと、
「俺も彼女が早くほしい」
と思うのは、身体が反応するからであって、彼女と思える人が見つかるまで、身体が反応してしまった時は、
「風俗に行ってもいいだろう」
と考えた。
もちろん、金銭的に安いものではないので、その分、貯めておく必要がある。
しかし、そのためのお金を貯めるためにバイトをすると思うと、バイトも苦痛ではないような気がした。使い道が分かっているバイトは、目的があるだけに、苦痛と感じずに済むことだろう。
「そういえば、昨日の、えりなさん、よかったな」
と、えりなのことを思い出していた。
身体を重ねた時の、感動や興奮よりも、一緒に会話をした時の方が、時間が経てば、思い出すことのようだった。
「どんなことを話したんだっけ?」
とすぐには思い出せないほど、緊張していたということだろうか?
会話で緊張するということは、彼女のことを風俗嬢と感じていたというよりも、まるで彼女として意識してしまっていたことが、会話に緊張を生んだのであろうか?
そう思うと、嫌な思いはしないが、そんなにも、女性を前にしただけで、優しくされただけで、相手を彼女のように思うという、いわゆる、
「ガチ恋状態」
に陥ってしまったのかと思うと、少し怖い気もした。
だが、相手の女の子もそれくらいのつもりで相手しているのではないだろうか?
さすがに、相手がマジ恋をしてしまって、ストーカーのようになり、出待ちしたり、後をつけられたりして、身バレなどということになるのは困るだろうが、リピートしてもらえることで、その分、お金になれば、それこそ、仕事での営業成果と同じことになるのではないだろうか?
ホストクラブや、キャバクラなどは、そうやって営業祖力を重ねて、ナンバー1を目指していると聞く。
そのあたりの話も、先輩からの受け売りであった。
ホストやキャバクラの話もそうだが、ソープに関しての用語も、先輩から前もって聞いていた。
最初は。
「聞きたくもないのに、話をするから」
ということで、あまり嬉しくはなかったが、それでも、知識がついてくるというのは、嫌な気がしないもので、ただ、まるで耳年魔のようになっていくというのが、若干こそばゆいという感じだったのだ。
「ソープなどでは、指名にもいろいろあるんだよ」
と言われた。
「というと?」
と聞き返すと、
「お店に予約をする時、3種類あるんだ。まずは、ホームページなどがあるところね。ない場合も、無料案内所のようなところがサイトを設けていて、そこに加盟すれば、サイトが標準で、店を検索できたり、その店にどんな女の子がいて、その子の出勤状況だとか、あとは営業時間から、値段設定、さらに割引情報などが見れたりするんだ。だからネットのサイトだけで、ある程度の情報は分かるというもので、あとは写メ日記を書いている女の子がいれば、その子の性格的なものは、そこで得ることができる。来てくれてありがとうって書かれていれば、後で見て嬉しかったりするものだろう? また彼女に入りたいと思うきっかけになるかも知れない。それも彼女たちの営業努力なんだけど、癒しを求めに行っているんだから、お礼を言われると、癒し冥利に尽きるというものじゃないか? 俺は、営業努力であっても、またその子に入りたいと思うくらいだよ。ネット予約以外には、店頭でパネルを見て選ぶ予約や、電話での予約も普通にあるんだけどね」
と、先輩が言った。
「でも、営業努力をして、また来てもらったとして、彼女たちに、得になるんですか?」
と聞くと、
「それは、そうさ。キャバクラではないが、月間ランキングに乗ったりすると、人気嬢だと思ってもらえて、指名が増えるだろう? そして、リピートしてくれる客のことを、ああいうお店では、本指名っていうんだ。本指名になると、客には、実は割引が空く中たりするんだ。それは、割引がない分、そのお金は女の子に、本指名代ということで入るんだよ。女の子はお客さんが割引もきかないのに、自分のところに来てくれたと思って感動するのさ。それだけ、感激して、サービスにも力が入るというものだよ。何しろ店からのフィードバックもあり、自分についてくれる常連客をゲットしたということでの、女の子にとっては、いいことばかりだからね」
と先輩は言った。
「なるほど、そういうことなんですね? 普通のお店だったら、二回目からの方が安かったりするのに、風俗って、特殊なんですね?」
というと、
「それはそうさ。だけど、それは普通に知っておく必要がある。そうしないと、自分が損をしたりするからね」
と、先輩はいうのだった。
「ということは、本指名をして、サービスをしてくれないような女の子だったら、そういう女の子だと解釈してもいいのかな?」
とマサトがいうと、
「一概には言えないけどね。女の子も人間なので、精神的にも肉体的にもきつい時はあるだろうから、会話にしても、気を遣ってあげた方がいいかも知れないね。向こうも気を遣ってくれているところに、こっちがまったく自分中心になってしまうと、女の子もせっかくのテンションが下がってしまうからね。特にテンションが普段から高い子は、性格的に落ち込んでしまうと、結構きついことが多いかも知れないからね」
ということだった。
「二重人格のようなところがあるということかな?」
と聞くと、
「そうだな。何しろ身体を使って、気持ちを入れての仕事だから、精神的に不安定になってもしょうがないだろうね。特に男性側が、お金を払っているので、その分、サービスをしてもらわないとなんて気分になって、こっちが強引な要求をしたりなんかすると、台無しだと思うぞ。相手の女の子はなるべく、自分にできるだけのサービスをしようと思っているんだから、それ以上を求められると、何をしていいのか分からなくなる。会社員が、会社から、給料を払っているだから、少々のきついことでも、我慢しろと言われているのと同じだからな。バイトをしているお前だって分かるだろう? 相手に、給料を払ってるんだからなんて言われたら、やる気なくなったりしないか? 要するに、相手の女の子が何をされれば嬉しいか、何をされれば、やる気がなくなるかというのを考える必要があるということさ。何と言っても、その時間は、二人きりなんだから、本当であれば、お金を払っているんだから、払った分、奉仕してほしいという考えではなく、お金を払ったんだから、その時間をいかに楽しく過ごせるかということを考えた方がいいんじゃないかということさ。お金が絡むほど、相手に求めるのではなく、自分で何を求めているかをもう一度考えれば分かってくるさ。そうじゃないと、誰と当たってもそんな態度だったら、二度と楽しい時間を過ごすことはできない。下手をすれば、どこかで、最低な客という不名誉なレッテルを貼られて、店に出禁にされることになったりするだろうな。他の店に行ってもそうさ。下手をすれば、ソープ街の中で不名誉な有名人になって、二度と遊べなくなってしまうことになる。一番人間関係が重要視されるところで、ハブられるということは、よほど考えを改めないと、実社会で、誰からも相手にされなくなるだろうね」
ということであった。
「意外と怖いところなんですね?」
と聞くと、
「怖いというのは、言いすぎかも知れないが、要するに、普通にしていれば、何でもないということさ。だから、本人が、普通というのがどういうことなのかということを見失わなければそれでいいだけなんだ。それを高いお金を払っているという意識からか、高飛車になってしまうと、自分を見失ってしまうし、相手に対しても不快しか与えない。そんな性格になると、ろくなことはないということさ」
と先輩は言った。
「その点、先輩はソープ街では顔が利くんでしょう?」
と言われて、
「まあ、それほどでもないけど、女の子の中には、俺に相談してくる子もいるくらいでね。それくらいになると、自分でも感無量なきになってくるよ。女の子というのは、なるべく自分のことを隠そうと思って働いているだろう? だけど、本当は誰かに聞いてもらいたいと思うことがあるはずなんだよ。女の子の中には、お客さんにそこまで求めてはいけないと思うんだけど、なかなか普段話ができる人と知り合うことがないので、どうしても求めてしまうのよね。でも、なかなか話ができそうな人っていないのよ。本当だったら、あの時間、一緒にいるだけなので、話を聞いてもらえれば一番いいんだけど、お客さんはお金を払って、癒しを求めているのに、私が相談してしまうと、本末転倒になってしまうからねというのさ。そう思うと、彼女たちがどういう理由で働いているのか分からないけど、仕事は決して楽ではない。むしろ苦痛が大きいわけだから、彼女たちもできることなら、その時間を気持ちよく過ごしたいと思っているはずなのよ。だって、いくら素敵な客だと思っても、好きになってはいけないわけでしょう? お客さんなんだからね。それって結構きついことだって、思わないかい? 今まで彼女がいなかったお前だからこそ、分かるような気がするんだけどな」
と先輩はいうのだった。
そんな話を聞いていたので、風俗に関しては、
「自分は経験の割には、結構知っている」
という、いわゆる、
「耳年魔」
のような感じであった。
それなので、風俗の話になるとついていけないということはなかったのだ。
だから、4人の会話の中で、風俗の話が出てきても、そんなに臆することはなかったが、それにしても、女性陣も、よく先輩の話についていけていると思っていた。
「風俗って、男にとっては、癒しを求めに行っているんだよ。もちろん、お金の分のサービスを求めるというのは当然なんだけど、女の子に気持ちよくサービスをさせてあげたいという気持ちを男が持つのは大切なことだと思うんだ。女の子だって、癒しを与えたいと思っているんだから、最初は気持ちは一緒のはずだからね」
というと、つかさは、ゆっくり頷いていたが、彼女さんは、力強く何度も頷いていた。
二人のリアクションは正反対ではあるが、
「気持ちは一つ」
という感じに見えるのは、どういうことなのだろうか?
先輩がさらに続けた。
「今言ったように。最初は。お互いに気持ちは一緒だと思うんだ。だけど、話をしていくうちに、二人の間に溝ができることがある。そうなってくると、男の方は、どうしたんだろう? っって思うんだろうが、女の子はかなりの溝を感じると思うんだ。それだけ、自分がプロだと思うのか、それとも、お金をもらっているという意識があるからなのか。さらには、他の人との時間と比較してしまうからなのかね。そうなると、修復できないと思い込まないとも限らない。それって、ものすごくきついことなんじゃないかって思うんだよ」
というと、今度は逆に、つかさが、何度も頷き、彼女さんが、ゆっくりと頷いていた。「感じていることは同じなのか?」
と思ったが、微妙なリアクションの差が、二人の間にはあるんだと感じた。
その思いがどこから来るのか分からなかったが、マサトは二人を注意深く見ていた。
すると先輩は、
「将棋の手でね、一番隙のない布陣というのは、どういうものなのかってわかるかい?」
と聞かれると、
「私は知っているから、お二人さんで考えてみて」
と言って、彼女さんはニコニコしていた。
マサトは、意味が分からずに考え込んでいたが、つかさは、
「それって、最初に並べた布陣なんじゃないですか? 一手打つごとにそこに隙が生まれる。攻守のバランスが難しいということなんじゃないかって思いますけど」
というのだ。
すると、先輩は、
「さすがだね。その通りだよ。これは減算法という感覚になるんだけど、攻めるには、守りを崩す必要がある。だが、攻めなければ、膠着状態で、事態は進まない。そうなると、必ずどちらかに焦りが出てくる。こちらが攻めなければ、相手も攻めてはこないですからね。いきなり相手が守りに入っているところに攻め込むことは、飛んで火にいる夏の虫と同じだからね。攻撃というのは、相手も攻めてきているから成立するのであって、相手が守りに入ると、攻めることはできない。お城の攻城戦だって、そうなんだよ。攻める方が守る方よりも大変だっていうだろう? 守りに徹している相手を攻めるというのは、実に難しいことなんだ。だとすれば、膠着状態になるのは必至であり、そうなった時に。生まれてくる焦りをいかに抑えられるかが問題なんだ。まあ、これを、お客とソープ嬢の関係に絡めるというのは、いささか強引だとは思うけど、身体の快感よりも、お互いに癒しという精神的なものから入っている二人にとって、歩み寄るということは、攻撃と同じ考えだと思ってもいいかも知れないんだ。それを考えると、それを一日に何回もこなしているソープ嬢って、俺はいつもすごいなって思うんだ。相手をしてもらっていると、天使がいるんじゃないかって思うくらいなんだ」
という先輩の話を聞いて、つかさも、彼女さんも、同じように、
「うんうん」
と、何度も、そして深く頷いていた。
二人のリアクションが、一致した瞬間だったのだ。
そんな二人を見て、
「ホッとした気分になった」
と感じたマサトだったが、ひょっとすると、今の自分も、二人とまったく同じリアクションをしていたのではないかと感じたのだ。
そんな会話をしているうちに、話はお開きの時間を迎えた。肝心の先輩が、
「ちょっと、これから用事があるんだ」
ということだったからである。
3人とも納得してその場をお開きとなったのだが、先輩はその用事のために、そそくさとその場を離れていったが、女性2人は、
「私たちは、一緒に帰るね」
と言って、二人が群衆の中に消えていく後姿を見ていたが、気のせいか、つかさが彼女さんより少し後ろから歩いているような気がした。
「今日の会話の中だけの二人の力関係なのか、元々二人の間に力関係が存在していたのだろうか?」
ということを、マサトは考えさせられた。
マサトは一人になったことで、今度は冷静になってきて、先ほど感じた思いをまた考えていたのだ。
「つかささんが、この間相手をしてくれようとした、あいりさんだということになれば、どうして、俺を拒否したんだろうか?」
と考えたが、
「やはり、あの時拒否をしたのは、先輩が関係なるのではないだろうか? 待合室にあの時いたのは先輩だったので、えりなさんのいうことが本当だとすると(たぶん、間違いないはずだ)、彼女は自分の相手を先輩だと思ったのだろうか?」
と思った。
だが、先輩のあの口ぶりであれば、別につかささんが風俗嬢であっても、別に気にはしないと思うのだが、もし、それを彼女が気にしているのだとすれば、
「彼女は先輩のことが本当に好きなのかも知れない」
とも思った。
「自分のこんな姿を見せたくない」
という思いがあったのか。
だが、先輩のような人は気にしないだろう。気にするとすれば、やはりつかささんの方であるのではないだろうか?
ただ、そんなつかささんの、
「微妙な行動」
があったのに、今回のつかささんを紹介してくれるようなこんな会を催してくれたのには、何か意味がありそうな気がする。
これは、マサトの思い込みなのかも知れないが、
「これまでの先輩が何か意外なことをする時というのは、いつも、何か意味があったとしか思えない」
と感じているのだ。
だから、今回も何か意味がある。
それが、マサトに対してのことなのか、つかさのことに対してのことなのか、それとも、彼女さんのことなのかも知れない?
今回彼女さんは、表に出てきてはいないが、わざわざこの場面で登場させる理由があるとすれば、男女比を、対等にする必要があったという程度のことで、つかさとマサト、そして先輩の関係の中で、彼女さんを登場させることは、危険をはらんでいるように感じたのは、マサトの気にしすぎであろうか?
そんなことを考えていると、マサトはつかさのことを、
「もっと知りたい」
と感じるようになった。
それは先輩に知られることのない知り方であった。
あいりがつかさかどうかということも含めて、知りたいことだったからだ。
「こうなったら、いけないことなのだろうが、ストーキングするしかないのではないか?」
と思ってしまった。
とにかく、あいりの出勤時間が公開されているホームページを見て、その時間、つかさが自分の前にいれば、同一人物疑惑は解消するだろう。
だが、もし、同一人物だとすると、
「つかさは、二重人格なのだろうか?」
と感じてしまった。
ただ、皆で話をしている時、興味のある話に食いついてくるあの感覚は、本物であろう。そう思うと、
「二重人格という感覚とは、少し違っているかのように思える」
と感じた。
マサトは、モヤモヤした気分で、その日は帰途についたのだった。
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