第2話 身バレ

 一通りの話を聞いて、お金を払うと、

「どうぞ、こちらが待合室になっております」

 ということで、マサトは待合室に入った。

 すると、そこには先輩がいて、他にお客さんが2人ほどいるだけだった。

 2人であれば、待合室は広く感じる。一応禁煙ではないようで、電子タバコに限って、吸ってもいいことになっているが、マサトも先輩も吸わないので、気にならなかった。

 他の二人も禁煙派なのだろう、ありがたいことであった。

 それからすぐに、

「お客様、お待たせしました」

 ということで、5分くらいの間に、最初に待っていたと思われる2人の客が案内されて入っていった。

 待合室には先輩と2人だけになり、次第に緊張が増してくるのだった。

 この時間が、実は風俗に通うようになってから、一番好きな時間だった。同じ思いを感じている人も少なくはないと思うのだった。

 そのうちに今度は先輩の番になった。

「お待たせいたしました。どうぞこちらに」

 ということで、先輩が連れていかれる。

 一人残った待合室で、

「次はいよいよ自分の番だ」

 ということになった時点で、スタッフが、困惑したような表情で、

「すみません、お客様のご指名された女の子が急に体調不良になりまして、申し訳ありませんが、別の女の子でもよろしいでしょうか? その分、値引きはさせていただきますが」

 と言われた。

 せっかく、気分を高めたものが、冷めていくのを感じたが、理由を聞けばしょうがないことなのかも知れない。しかも、その値引きというのが、次回以降に使えるサービス券で、

「本来なら、期限もあって、割引に条件もつくんですが、今回はこちらの問題ですので、この券はそれらの条件をすべて外した形でご利用いただけます」

 ということであった。

「それなら」

 ということで、もう一度女の子を選びなおすことになった。

 実は、最初に選んだ子と同じくらい気になっていた子がいたので、その子を指名して、再度待合室で待つことになった。

 指名してから、5分もしないうちに、

「お客様、お待たせいたしました」

 ということで、自分の番がやってきたのだ。

「先ほどは失礼いたしました。今度は間違いございませんので」

 ということで、いよいよご対面の時間となった。

 待合室を出て、すぐ横に、ワインカラーのシックな色のカーテンがあった。その前に立って、

「これが当店における注意事項になりますので、ご確認ください」

 ということで、確認を受けたあと、

「こちらのカーテンの向こうで女の子がお待ちです」

 と言われ、自分でカーテンを開けて中に入った。

 想像以上に薄暗く、女の子が、

「初めまして、えりなです。よろしくね」

 と言って、いきなり身体を密着させてきた。

「あっ、こちらこそ」

 と言って、彼女に連れられて、お部屋に入るのだが、その手前で、

「こちらで、入浴剤が選べるんですが、どうされますか?」

 ということだったので、

「じゃあ、新緑で」

 と、5種類ほどある中で、新緑を選んだ。

 まるで、森の中にいるかのような気分になれそうな気がしてそれを選んだのだ。しかも、パネルで見た彼女のイメージが、

「森の妖精」

 という感覚があったので、新緑にした。

 パネルの宣材写真の頭に、まるで、オリンピックで金メダルと取った選手がつけるような草でできた冠のようなものをかぶっているのを思い出したからだった。

 部屋の中に入ると、えりなちゃんは、笑顔で迎えてくれて、いきなりハグしてくれた。パネル紹介で身長が高いのは分かっていたので、気にならなかったが、確かに、スラっとした感じの清楚さが前面に出た感じだった。

 最初に選んだ女の子、たしか、あいりと言ったか。彼女ほど、幼さはないが、その分、大人っぽさが垣間見え。癒しを得られると感じたのだ。

 今まで自分が好きになった女の子は、幼い系で、少しぽっちゃり系が多かった。最近気になる女の子もそうで、実は、好きだということを告白までしていた。返事はまだだったが、好印象という感覚はあった。

 だからこそ、余計に早めに童貞を卒業したいという思いもあったのだった。

 えりなちゃんは、すぐにいろいろ用意をしていた。

「お茶でも飲みますか?」

 と聞かれたので、

「うん、そうだね」

 というので、彼女は冷蔵庫から、ペットボトルのお茶を、紙の容器に入れてくれて、一息つかせてくれた。

「お兄さんは、こういうお店初めてなんでしょう?」

 と言われて、

「うん」

 と答えたが、どうやら、情報はスタッフからいっているようだった。別にそれが嫌だと思うことはない。むしろ、知ってくれていた方が、恥ずかしいことを口にしないで済むからだ。

「嬉しいわ。私、結構初めてのお兄さんに当たること多いのよ」

 と言って笑っていた。

 そういうことなら、男としても安心だ。きっと、手取り足取り優しくしてくれるだろう。それに先輩からも、

「別に気を張る必要なんかないんだ。相手のいう通りにしていれば、悪いようにはしないさ」

 ということを言われていた。

 実際に、彼女は次第に積極的になっていく。キスをしたり、その間、こちらの手を遊ばせないように自分の手で、自分の身体に導いてくれたりした。

 自分の手が動くたびに、気持ちよさそうな声を挙げる彼女を見ていると、さらに興奮がこみあげてくるのだった。

 初めてなくせに、なぜか初めてではないような気がしてきた。どちらかというと、

「何回も、この店に来ている」

 というような気がしてきて、さらに、他の店も同じような作りなのではないかと勝手に思い込んでいた。

「じゃあ、お風呂に行きましょう」

 と言って、お風呂に浸かると、

「気持ちいいでしょう? さっきの新緑の香りがしてきて、私も、結構この匂い、好きかも知れない」

 と言ってくれた。

 初めて見るはずの女性の裸なのに、まったく違和感はなかった。AVなどでは見ていたので、そのせいかも知れないが、ここまで冷静でいられるのは、先ほどの、

「何度も来ている」

 というような気がしたからであろう。

 店のイメージは、受付や待合室では、完全に初めてだと思っていたのに、プレイルームに入ると懐かしさのようなものを感じたのはなぜであろうか?

 女の子と一緒にお風呂に入る感覚もまったく初めてではない気がした。浮いている方に彼女が優しく手でお湯を掬って掛けてくれるのが、嬉しかったのだ。

「気持ちいいでしょう?」

 と言われて、

「うん、なんだか、懐かしい気がするんだよな」

 というと、

「癒されるでしょう?」

「うん」

 というと、

「これは私の感覚なんだけどね。お風呂に女の子と一緒に入っている時ね。まるでお母さんのお腹の中にいた時の感覚になるんじゃないかって思っているの。実際に、そんなことを口にしたお兄さんもいたからね。遠い記憶の中のお母さんの身体の中と、そして、子供の頃に一緒にお母さんとお風呂に入った記憶が残っているから、お風呂の中の感覚は、懐かしいものになるんじゃないかって思うのよ」

 というではないか。

「ああ、なるほど、だから、女性の身体に必要以上の興奮や違和感がなかったのかも知れないな」

 と感じた。

「お母さんというのは、何だかんだ言っても、右も左も分からない赤ん坊を導いてくれる人だから、とにかく偉いものだって私は思うの。だから、女の人は母親になりたいと思うんだろうし、あれだけ痛い思いをして子供が生まれて、生まれてからも育児で身も心もすり減らしていながらでも、またすぐに子供ができたりするでしょう? ここはきっと男の人には分からない母性本能のようなものがあるのかも知れないって思うのよね」

 とえりなは言った。

「そうだね。そう思っていると、僕もなんだかそうなんだって、思えてくるから不思議だね。えりなさんのいうように、確かに女の人の身体に触ったこともない僕でも、触っていて、ドキドキは確かにするけど、なんだか、どこを触れば気持ちよくなってくれるのかを分かっているような錯覚になるから不思議なんだよ」

 というと、

「錯覚なんかじゃないと思うわよ。他のお兄さんも、似たようなこと言っていたもの。それを聞くたびに私は思うの。男の人ってかわいいってね」

 と言ってニコニコ笑っていた。

「かわいい」

 と言われて、少しテレもあったが、嫌な気はしなかった。

 えりなは、話をしながら、絶えず微笑んでいる。宣材写真も微笑んでいる顔が印象的だったが、実際に会ってみると、写真に感じたイメージとは少し違っていた。

 もう少しキリっとした雰囲気かと思っていたが、そうでもないようだ。

 だからと言って、子供っぽいというわけでもなく、癒しはしっかりともらえる気がしたのだ。

 最初の女の子がダメだと聞かされて、最初に迷った時に、

「次に来るならこの子」

 と思ったのが、えりなだったのだが、その時に感じた感覚と、まったく違っていることに気が付いた。

 どこが違うのかということは、最初に部屋に入って顔を見た時に、一瞬にして忘れてしまった気がした。

 カーテンを開けてから、入浴剤を選び、部屋に入るまでは、まるでシルエットに魅せられたかのように見える影は、完全にパネルの宣材写真のイメージしかなかった。

 そこで初めて見た感覚が、

「あれ?」

 というものであったが、次の瞬間、

「かわいいじゃないか?」

 と思ったのだが、それを思った瞬間に、最初に感じていたイメージを忘れてしまったようだった。

 あの時の宣材写真は頭の中にあったはずなのに、顔を見て納得した時点で、そのイメージは完全に消えてしまっていたのだ。

「もし、またあの写真をどこかで見たりすると、中で感じた彼女のイメージを、忘れてしまうのではないかと思うだろうな」

 と感じた。

 えりなという女の子をいかに自分に取り込むかということが、この時間を最大限に楽しみ秘訣だと思った。もう部屋に入ってしまえば、

「童貞卒業」

 などということは、どうでもいいことのように思えるくらいだったのだ。

「お兄さんは、大学生なの?」

 と聞かれたので、

「うん、そうだよ。1年生だね」

 というと、

「そっか、まだまだ初々しいわね。私の方がちょっぴりお姉さんね」

 と言って微笑んでくれたその顔が、今までの顔と違うが、なぜか急に懐かしさを感じた。

「ああ、あの宣材写真の顔だ」

 と感じた。

 懐かしいというほど前のことでもないのに、懐かしいと感じるのは面白かった。

「ということは、この部屋を懐かしいと思ったのは、昔のことではないのかも知れない」

 と思うと、デジャブという言葉が思い出された。

 初めて見たり行ったりしたはずのところなのに、昔知っていたかのように思うような現象のことをデジャブというらしいが、なぜそう感じるのかということは、いろいろな説があり、完璧に解明されているわけではないと聞いたことがあった。

 マサトは、デジャブというものに対して、

「何かの辻褄が合う時の感覚が、錯覚のように押し寄せるのではないか?」

 という、言葉にすると、よく分からない結論になる考えを持っていた。

 つまり、実際に見たことはないが、絵や写真で、強烈な印象を得たことがあれば、それをまるで見たことのように感じるのだということだ。

 ということは、強烈な印象を得る時というのは、自分の中で忘れることが多いのだろう。

 考えてみると、そんなに何度も絵を見て感動を覚えたという思いを感じたことはなかった。

 むしろ、

「一度もなかったかも知れない」

 と感じるくらいなのだが、意識としては、

「一度もないということはないように思える」

 と思うことであった。

 ここで、えりなと一緒にいると、お風呂の心地よさと、彼女の肌のぬくもりとが、最終目的である、

「癒し」

 というものを、早くも手に入れた気がした。

「大体、最終網的って何だっけ?」

 と思うくらいに、癒しは自分の意識をマヒさせるに十分だった。

 店に入る前は、もっといかがわしい雰囲気があり、店だって、もっと隠微でいやらしい雰囲気を醸し出しているに違いないと思っていたはずなのだ。

 それなのに、店の雰囲気に隠微さはまったく感じられる、待合室も普通の部屋と変わりはない。

 しいて言えば、プレイルームに入る前のカーテンから、薄暗い通路を巡って部屋に入るまでが、まるで

「タイムトンネルではないか?」

 と思わせるくらいであった。

 タイムトンネルというのは大げさかと思ったが、懐かしさを感じるのであれば、そこにタイムトンネルがあったとしてもおかしくはない。

 そう、それこそ、

「ワームホール」

 と言ってもいいかも知れない。

 彼女にそれを話すと、

「面白い考えね。私はそこまで感じたことはなかったわ。でも、確かに、待合室から部屋までの間薄暗いのは、ここで、お客さんが、今までの世界から、新感覚な世界に入り込むための、トンネルだということで、わざとここを暗くしてあると聞いたことがあるわ。ただね。もう一つ理由があるんだけどね」

 というのだった。

「それはどういうこと?」

「あの通路は、実は暗いのは暗いんだけど、一定の場所から見れば、昼間のように明るく見える特殊なガラスがひいてあるところがあるの。もちろん、通路からは壁にしか見えないんだけどね。それに、待合室でも、カーテンがしいてあるところがあって、そこから、以前は隠し部屋があって、待合室が見えるようにしていたの。今は防犯カメラがあるので、その両方を使うことがあるんだけどね」

 と、彼女は言った。

「それはどういうことなんだい?」

 と、マサトが聞くと、

「実はね。私たちって、現役の学生だったり、昼職を持っていたり、コンセプトの違うお店であれば、主婦だったりするのよ。そうなると、もし、自分の知っている人が偶然、必然どちらにしても、お客さんとしてくればまずいでしょう?」

 と、えりなは言った。

「うん、そうだね」

「それで、私たちはそれを身バレと言って、気を付けているのよ。お店としても、相手が親だったり先生だったり、旦那だったりすれば、文句を言われれば、逆らうことはできないでしょう? これってとってもまずいことになって、女の子が辞めるだけでは済まない場合のあるので、女の子も店側も、そのあたりは神経を過敏にしているのよ」

 というではないか。

「なるほど、それで、待合室などで見張っていて、知り合いだと思うと、お客の面目が立つようにしているんだね?」

 と聞くと、

「ええ、そう」

 と言ったその時、えりなは、急に思い立ったように、口をつぐんだ。

 しばらく無言だったが、すぐに話を変えたことで、

「何か、してはいけない話をしたのだろうか?」

 と思うと、

「まさかさっきの俺に対しての店側のあの態度、そういうことだったんだろうか? だから、最初は会話の一環だと思って話をしていたえりなが、急に口をつぐむようなことになったのだろうか?」

 と感じたのだ。

 もし、そうだとすれば、しょうがない気もするが、自分の知り合いで、かち合ってしまったからと言って、気まずくなるような人はいないと思ったが、それは自分が思っているだけで、女の子の側からすれば、

「それだけはまずい」

 とでも思ったのかも知れない。

 バレて困るのは彼女の方で、

 こっちは別に、困ることはない。普通に大学生がソープに来るくらい、普通のことだと思っているマサトだった。

 しかし、女の子の方は、身バレが怖いというのもあるし、下手をすれば、相手の男が悪いやつであれば、脅迫の材料になりかねない。

「黙っていてほしければ、ただでやらせろ」

 などという輩がいないとも限らないからだ。

 マサトとしては、そこまでして、女の子を蹂躙しようとは思っていない。

 あくまでも、お金を払ってでも来るのは、

「癒し」

 を求めているからであって、脅迫などをして女を手に入れても、得られるものは目的とは明らかに違うのだ。

 相手に嫌々されても、心地よいわけもない。

 ただ、一つ言えることは、男は一種類ではないということだ。

 おかしな性癖を持っている男もいるだろう。

「相手が拒んだりするのを見て。余計に興奮する」

 というサディスティックな男だっている。

 そんな男は癒しを求めるのではなく、相手を自分のものにするという、征服欲なるものを満たすためであれば、相手を脅迫してでも、自分のものにすることに、大いなる快感を得ることになるのだろう。

 マサトはそんな男もいるということは。AVなどで知っていた。

 むしろ、自分にはない性癖なので、AVなどは、自分にはない性癖を見ることで別の快感が得られることは分かっていた。だから、AVを借りる時は、結構SM系のものが多かったのだ。

 だが、それはあくまでも、バーチャルな世界でのことであって、

「自分は癒しを求めているのであって、好きなタイプは、ちょいポチャくらいの、幼児体系で、幼さの残る、一種のロリコンなのだろう」

 と思っていた。

 だが、今回の相手のえりなは、まったく逆のタイプなのに、気に入ったのは、どういう心境であろうか? えりなを見ていると、

「自分のことを見透かされているのかも知れない」

 という羞恥があり、それが快感だったのかも知れない。

 だが、今の、えりなの言葉は気になるところがあった。

「やっぱり、さっきのはあまりに、タイミングが良すぎる感じがするけど、だけど、俺の知っている女性の中で、身バレして困るような人っていたっけな?」

 と感じていた。

「ところでね。えりなさんは、身バレして困る人って、結構いるんですか?」

 と聞いてみた。

「身バレ? ああ、そうねえ、やっぱり親だったり、先生だったり、上司だった李はヤバイでしょう。あと、付き合っている人がいれば彼氏よね? まあ、中には彼氏が知っている子もいたりするので、一概には言えないけどね」

 というのを聞いて。

「ん? こういう仕事をしていると知っている彼氏がいるというの?」

「うん、絶対にいないとは言えないわよ、少なくとも私のまわりにはいないけど、元々、今の彼氏が、お客さんだったりね」

 と言われた。

「まあ、ありえないことではないと思うけど、男としては、どうなんだろう?」

 と、マサトがいうと、

「私もそこまでお客さんで好きになったことのある人はいないから何とも言えないんだけど、彼氏を持つなら、やっぱり、こういう私を知らない人をって思うかな?」

 とえりながいうと、

「じゃあ、バレちゃった時は別れることになるかもよ?」

 と聞くと、

「うーん、それは仕方がないかも? 私に限らずこのお仕事をしている人には、その人の事情があるから、彼氏と天秤に架けると、この仕事を選ぶ人も結構いると思うし、そこは何とも言えないかも知れないな。あなたは、彼女がこういう仕事をしていると後から知った時、どう思うんでしょうね?」

 と聞くので、

「今はハッキリ答えられないかも? だって、僕は今までに彼女がいたことなんてなかったからね」

 というと、

「ごめんね、余計なことを聞いて」

 と彼女は誤ってくれた。

「あっ、いいんだよ。最初に言い出したのは僕だったんだからね。嫌な思いをさせたのだったら、謝るよ」

 というと、

「いえいえ、それは大丈夫。でも、あなたは、どうしてそういうことが気になったのかしら?」

 と、えりながいうので、

「さっきのお話で、女の子が確認しているという話があったでしょう?」

「ええ」

「実は、君には悪いと思ったので、言わないでおこうと思ったんだけど、本当は別の子を指名したんだよ。それで待合室で待っていると、スタッフがやってきて、僕が指名した女の子が急に体調を悪くしたから、別の子にしてほしいって言われたんだよね?」

「まあ、それは失礼よね。なるほど分かったわ。だから、スタッフが、急がせて悪いけど、指名が入ったので、大至急、準備してほしいって言ってきたのね? それで私の中では辻褄が合った気がしたわ」

 というのだ。

「うん、でも、サービス券とかもくれたので、店側の対応は悪くないし、しょうがないことだって思ったんだけど、さっきのえりなさんの話を聞いて、ひょっとして、自分は、キャストの女の子が、防犯カメラを見て、僕のことを知り合いかも知れないと感じたのではないかと思ってね。でも、俺は、写真を見て選んだので、顔だって見ているから、知り合いだったら分かりそうなものだって思うんだけどね」

 というと、

「それね。いわゆるパネマジに引っかかったと言っていいかも知れないわね」

 とえりながいうので、

「パネマジ?」

「ええ、パネルマジックのことなんだけど、これも身バレしないように、少し写真を加工してあるの。そうしないと、本当に身バレの可能性があるでしょう? 受付でバレないように加工写真を見て、さらに、待合室で客を確認するということをしていれば、トラブル回避になるでしょう?」

 と、えりなは言った。

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