第5話 鬼退治

「鬼はどこだ!」

 風葉は魑魅魍魎を斬りつけながら叫んだ。

「ええい! 魑魅魍魎ばかりではないか! 封子の風葉を舐めるな!」

 風葉が通ったあとには魑魅魍魎の死骸が生まれる。

「鬼はどこだッ!」

 封鬼刀を床に叩きつけるように振り下ろすと、大風が置き、続いていた廊下は消え、目の前に大広間が現れた。

 広間の奥に大きな髑髏を描いた屏風の前に胡坐をかいて座る者がいた。

 真っ黒の着物に赤い肌をし、額からは一本のツノが生えていた。

「私の屋敷で暴れる人間はお前か?」

「貴様が鬼か!?」

「見ればわかるだろ? 新しい封子の者か? 懲りない一族だねぇ」

「封子の宿命をここで絶つ!」

「はぁー前に来た奴も同じこと言ってたよ。その前に来た奴もなぁ」

 鬼は立ち上がると風葉の元に歩いてきた。

「こんだけ静かに暮らしてもお前らは邪魔をしに来るんだな?」

 鬼は風葉の倍の身体の大きさだった。

「封子の宿命だ!」

「そうだったな」

 鬼は風葉に拳を振り上げ叩きつけた。

「ぐっ!」

 寸でのところでかわすも衝撃で風葉は飛ばされた。

「俺は鬼だが殺しはキライなんだよ。でもお前らが来るんだよなぁ!」

 鬼は叫んだ。

 風葉は刀を構えた。

「お前らは暇潰しには良いが、その度に俺の屋敷壊すんじゃねぇ!」 

 風葉は封鬼刀で鬼の拳を抑える。

「ああ、封鬼刀か、それ痛いんだよな! 斬られると傷痕残るんだよ!」

「すまない、鬼……。私もお前とは戦いたくないが、宿命なんだ!」

「宿命のために殺されてたまるかよ!」

 鬼の拳と風葉の封鬼刀がぶつかりかけたとき、二人の間に何者かが割り込んだ。

「両成敗じゃ!」

 鬼の拳と封鬼刀を狐の手で抑えたセツは二人を投げ飛ばした。

「風葉! 鬼退治は待つのじゃ!」

「せ、セツさん?」

「鬼! 顔を見せろ!」

「あ? なんだお前? 妖狐か?」

「んー? ん……ふーむ。なるほどのう。残念じゃ」

「あ!? なんだよ!」

「お主はワシの婿になれん!」

「何言ってんだ?」

「顔が好みではない!」

「さっきからなんなんだ!」

「セツさん、どいてください。私は鬼を退治します」

「おう! 退治せい!」

「お前らふざけるなよぉ!」

 鬼の身体は炎のように燃え上がった。

「炎の鬼である、炎鬼えんきを怒らせたこと後悔せよ!」

 炎鬼は手から火の玉を生み出し、風葉とセツに投げつけた。

 風葉は刀で、セツは爪で弾いた。

「風葉、大丈夫か?」

「ええ。この程度で怯むほどではありません」

「来るぞ」

 炎鬼は炎に包まれた犬のように四つ足で走り出した。

「がぁあああああああああああああ」

 攻撃の隙を与えないほどの速さで風葉とセツを追い回す。

「風葉! コイツはワシが押さえつける!」

「セツさん!」

「全く、こんなのの為に山へ入ったと思うと情けないわ!」

 セツの身体が膨れ上がり、巨大な狐へと変化し、炎鬼を押し倒した。

「ぐっ! 熱い! 熱い! 風葉! 早くしろ!」

「やぁあああああああああああああああああああ!」 

 風葉は封鬼刀で炎鬼のツノを叩き斬った。

「うわぁああああああああああああああ」

 炎鬼の身体の炎が消えていき、ツノを失った炎鬼はただの大男の姿となった。

「はぁはぁ……全く、熱いったらない……」

 セツも人間の姿へ戻った。

「セツさん……」

「ワシが怖いか、風葉? その刀で封鬼刀で斬るか?」

「せ、つさん……」

 風葉は倒れた。 

「風葉!?」

 本来、人間が魑魅魍魎と鬼の戦いに耐えられるはずがなかったのだ。 

風葉カザハ、死ぬな! ワシはお主とまだ離れとうない! お主が好きじゃ! 鬼退治の後はワシと一緒にいてくれ!」

「セツ……さん」

 風葉の意識は徐々に戻ってきた。

「風葉! 風葉!」

「おい、俺は何を見せられてるんだ?」

「な! 鬼! お主まだ生きておったのか! さっさと死ね!」

「もうじき死ぬから待てよ。鬼は他にもいるが? どうするんだ? 封子?」

「他にも?」

「確かに俺は封子のヤツと戦ってきた。この辺りじゃ唯一の鬼だからな。だが、他に鬼がいると知ったお前はどうする?」

「私は……」

「封子はお主を退治すれば終わりじゃ!」

「それなら、それで良いさ。俺の知った事じゃねぇ。封子の宿命はこれで終わりにでもすれば良いさ」

「他の鬼の場所を教えてくれ」

「風葉? 何を言って?」

「私は鬼を退治するために生まれた。鬼は全て退治する」

「なるほど……。なら、西へ……行け……」

「西……?」

「あとは霧が出れば鬼に会えるさ」

 炎鬼は灰になって消えていくと、霧が立ち込め、セツと風葉は洞窟の前へといた。

「狐のワシがいうのも変じゃがまるで化かされた気分じゃな」



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