第4話 封子の掟、鬼屋敷出現
「風葉は鬼を退治したらどうするのじゃ?」
セツと風葉は鬼探しと山菜取りで山の中を歩いていた。
「お寺へ行って出家します」
「何じゃと?」
「鬼を倒すことしか考えていなかったので、その後のことを考えて来ませんでした。鬼を倒した人間はきっと恐れられるでしょう。鬼を倒したことは封子に伝わるロウソクが伝えてくれます」
「ロウソク?」
「鬼の命を灯しているロウソクがあります。ロウソクは溶けず、燃え続けています」
「封子は人間にしては妖怪のようなものを使っておるのう」
「はは。そうですね。鬼のロウソクと一緒に私のロウソクもあります」
「お主の?」
「私のロウソクが消えたら私が死んだことがすぐに伝わるのです。鬼のロウソクが残り、私のロウソクが消えれば私が負けたのがわかります。逆もまた然り」
「封子に帰らないのか?」
「封子の掟として鬼退治へと行った者は村へ二度と入れないというのがあります」
「なぜじゃ?」
「鬼を倒した人間は別の恐怖の対象となります。鬼より恐ろしい者を村の人間にすることは出来ないのです」
「ふざけた掟じゃ! 掟のために死んでいった者たちはどうなるのじゃ!」
「村の人たちは鬼退治へ行った人のことは忘れません。ただ、お墓が作れないだけです」
「くだらぬ! 人間は心が醜いのう!」
「セツさん……貴女はとても、美しいですね」
「あん? 急になんじゃ?」
「人のためにそこまで怒れるんですね」
「今の話を聞いて怒らぬ者がおるのか?」
「はは。そうですね」
「ふーむ、そうじゃ! ワシと鬼の娘になれ!」
「え!?」
「どうせ戻らぬ村なら鬼を退治することもなかろう! 風葉の火が消えなければ封子も新たな者を寄こすこともなかろう!」
「それは……」
風葉の心は揺らいだ。
鬼を倒すために育てられ、生きてきた。
鬼を退治した後はどうする?
だが、鬼を退治しなかったときの自分に価値などあるのか?
『封子の宿命を私で必ず絶ちます』
自分で終わらせなければ、また新たに子孫が鬼退治へ駆り出される。
風葉は頭の中で鬼を退治することの意味、その後のことなどを考え続け歩いた。
「鬼を退治した後……私は……」
「風葉!」
「は!」
「全く、周りも見えぬほど何を考えておった?」
「周り? これは!」
辺り一面が霧に囲まれていた。
「前も後ろもわからないほどの霧?」
「霧が出ると鬼の屋敷も出るんじゃったな?」
「鬼……」
「なんじゃ、屋敷はどこじゃ? 風葉?」
「鬼、退治……封子の宿命を私で絶つ……」
風葉は取りつかれたかのように歩き出した。
「風葉? どうしたのじゃ?」
セツは風葉の様子が心配になった。
「わたしは鬼を退治します。封子のために」
「風葉?」
風葉は走り出した。
「風葉!? どうしたのじゃ!」
風葉の後を追いかけ、セツも走り出した。
霧で方角などわからないはずなのに、風葉の足は勝手に動き続ける。
セツの息は上がっていくが、足は止まらずに走り続けた。
「なぜじゃ、なぜ、人間の足にワシが追いつけぬ?」
――まだか、まだか
風葉はそのことだけを心の中で何度も呟き続けた。
「まだか! まだか! まだか! 鬼はまだか!」
無意識のうちに心の呟きは声になっていた。
風葉の言葉を叶えるかのように霧が晴れていき、大きな屋敷が目の前に現れた。
山奥にあるとは思えないほど、豪華絢爛な屋敷だが、人の気配は一切無く、気配だけで言えば、廃墟のそれだった。
「これが鬼の屋敷……?」
風神雷神の絵が書かれた大きな門が口を開けるかのように開いた。
「はぁ……はぁ……風葉、待て、落ち着くのじゃ。まずはワシが……風葉!」
セツの言葉も聞かず風葉は門の中へ走って行った。
「全く、人間の癖に体力はどうなってるんじゃ」
屋敷の中は何本あるのかわからないほどのロウソク、どこまで続いているのかわからない床が広がっていた。
「鬼がいるにふさわしい不気味さじゃな! ん?」
床には刀で斬られたと思われる小さな魑魅魍魎が散らばっていた。
「やはり鬼一人がいるわけではないのだな。しかし、お前ら、鬼を守るには弱すぎるぞ」
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