第6話 偶然にしては不思議な再会

兵庫県の大学に行っていた時、サークルの先輩を好きになった。ちなみにその先輩は実家が大阪で、実家通いなので、通学に二時間かかると、しきりにぼやいていたのを覚えている。

入部したての一年生の私は夏休み、サークルの合宿に参加した。初日、部員全員がバラバラに自由行動することになって、たまたまその先輩と二人きりで行動することになって、私は困惑した。異性と二人きりで行動するなんて小学生以来だった。

「私みたいなのと一緒に行動になってしまってすみません」と恐縮してしきりに謝罪していたら、「ごめんなさいじゃなくて、ありがとうって言って欲しいな」と、私の人生でそんな気障で優しいセリフを初めて言ってくれた人だった。

そのサークルではリーダーシップを取ってくれる女性の先輩がいて、とても頼りになった。その女性の先輩に思いきって、その先輩を好きになったことを相談した。


合宿から戻って一ヶ月くらい経っただろうか。部室から一緒に帰りながら、女性の先輩から謝罪された。

「ごめん。実はあなたの好きになった彼、私の元彼なの。私たち、やり直すことにした」

どうやら、私が恋愛感情を抱いたために、元彼と元カノ二人で話し合った結果、焼けぼっくいに火が点いたらしい。

え? 私、キューピッド役になっちゃった!? と驚いたが、「一応、告白だけしてきます!」と「ムダだよ!」と引き止めようとする女性の先輩を振り切って、その先輩が一人残っていた部室へ駆け戻った。


中学生の時、『鎧伝サムライトルーパー』というアニメの登場人物の一人、水滸のシンくんに恋した時から決めていた。三次元の人を好きになったら、絶対に「好きな気持ち」を伝えようと。だって、どれだけ愛していても、二次元キャラには決して伝えることができないから。言葉で伝えられる人には必ず好きだと伝えたい。その気持ちは今も大切に持っている。


私が「好きです」と伝えたら、先輩は困った顔で女性の先輩を愛していることを伝えてくれた。「(二人がまた別れるのを)待ってたらダメですか?」と食い下がったら、「待たないで。もう別れるつもりないから」とキッパリ言われた。

振られたのは確かにすごくショックだったけれど、好きな人にただ好きと告白できたことは嬉しかった。

その後、先輩たちは卒業して行き、特に連絡先も交換していなかったから、音信不通になった。


それから八年くらい後。

私は当時、交際していた夫と結婚を決めた。夫の実家は東北。私の実家は関西。間を取って、東京のホテルで、双方の家族の顔会わせと正式な婚約を交わすことになった。

婚約式の後、双方の家族は早々に帰り、私は婚約者となった夫とホテルのブライダルコーナーをなにげなく見学した後、二人で最寄りの駅まで歩いていた。

「風ちゃん!? 風ちゃんじゃないの!?」

突然、交差点で声をかけられた。

忘れもしない。私を振った先輩とその恋人だった女性の先輩の二人だった。

兵庫県の大学だったお二人が、なぜ、よりにもよってこのタイミングで、東京に、しかも二人そろって一緒にいるのかとビックリした。

私は慌てて、隣にいた夫を婚約者で、今日、婚約したところだと紹介した。

そして、女性の先輩は、自分たちも結婚して、今は東京で二人で暮らしていることを話してくれた。

私はヒールが苦手で、駅まで歩くため、ホテルでヒールの靴からスニーカーに履き替えた後で、正装なのにスニーカーという格好だった。私のスニーカーを女性の先輩はまじまじ見ていたから、多分、授かり婚と誤解されてる気がする…とは思ったが、「授かり婚ではないです」と言うのは、訊かれてもいないのに唐突すぎて、さすがに言い出しづらかった。

期せずして私がキューピッドになった二人が、結婚して幸せになっていて良かったと思った。お二人もおそらくだけど、私が伴侶を得たことを知って、安堵しただろう。

連絡先を交換したけれど、連絡することはなくて、そのまま連絡先をなくしてしまった。多分、もう二度と会うことはないだろう。

不思議な運命の糸が二人と引き合わせてくれたとしか思えない再会だった。

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