第5話 伏見稲荷と五円がなかった恋
大学院生の頃、狐とゆかりのある人を好きになった。
でも、その人には「他に気になる人がいる」と言われてしまった。
あと、「遊びで付き合うのはいいけど、家族を紹介したりはしない」とも。
それでも、どうしても振り向いて欲しくて、ふと思いついて、伏見稲荷へお参りに行った。
その頃、好きで読んでいた漫画で、「55円」をお供えすると恋が叶う話があった。
私は伏見稲荷の賽銭箱の前で、10円玉5枚と5円玉1枚を手に持ち、「狐さんとご縁がありますように」と真剣に心の中で祈って、小銭を投げた。
コンッと音がして、10円玉は全部、賽銭箱に入ったのに、5円玉だけ箱から弾かれて、地面に落ちた。
「……5円(ご縁)ないんだ」と思った。
それからまもなく、その人は「気になる」と言っていた人とお付き合いを始めたようだった。
私は諦めて、愚痴を聞いてくれて、自分も気になる人にフラれたばかりだと言った、今の夫になる人とお付き合いを始めた。
半年後、好きだった人は恋人と別れた。待っていればよかったと悔しかった。
でも、夫は「結婚を前提に付き合いたい」と言って、私の母や妹に挨拶を済ませていた。
遊びで付き合う人と付き合っていたら、全く違う人生を歩んでいただろう。生涯、結婚しなかったかもしれない。
なにが幸せかどうか分からなかったけれど、どうやら狐さんとご縁がなかったのは事実だったようだ。
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