第12話 冒険者パーティ「ハルトウィル」と飯テロ

 「くああ!美味い!」

 「美味しいですわ」


 私の目の前で、金髪のメリハリボディ美人さんが豪快にお肉を食べていくし、茶髪のロングウェーブでこれまた美人さん(体型も女性として素晴らしい)が上品かつ高速でお肉を消化していってるんだ。


 うん、冒頭からいきなりなんだって思うよね。私達もびっくりしたもん。いやでも私達も悪いのかなぁ。だって綾ちゃんが面白い物見つけてくるんだもん。


 **********


 「ねえ、奈津!今日は焼肉にしてみない?」

 「ん?綾ちゃん肉食べたいの?」

 「じゃーん!見て見て!」

 

 朝ご飯終わって洗い物をしていると、綾ちゃんがもう晩御飯の事を言ってきたの。顔を上げると笑顔の綾ちゃんが持っていたのは丸いバーベキューコンロ。


 「え?なんでそんなのあるの?」

 「ふっふっふ。見つけたの!最近ドラッグストアでもアウトドアグッズ揃っているんだよ。炭も着火剤も買ったし、お肉はオークのお肉あるでしょう?どう?」

 「ん?なぁに?どうしたの?」


 最近のドラックストアってすごいけど、思わずなんであるのって言っちゃった。そうやって私と綾ちゃんが騒いでいたら、歯を磨いていたお姉ちゃんもリビングに顔出したんだ。あ、お姉ちゃん来たらこれ決定だなぁ。


 「なっちゃんなっちゃん!久しぶりに焼肉いいねえ!お肉沢山取れたし、食べてみよーよ!異世界肉!」


 おおう……流石肉食女子。綾ちゃんしてやったりって顔してるし。


 「えーでも解体誰がやるの?誰も出来ないじゃん」

 「それは大丈夫だよぉ!ナビちゃんがやってくれるって」

 「えへへ、佳織さんからそれ聞いたから出したんだもん。奈津〜、仕込みお願い!」


 私が解体問題を口にすると、お姉ちゃんがすかさずナビちゃんが出来る事を伝えてきたんだ。え?ナビちゃんのトランク収納の機能が上がって『魔物解体』機能がついたの?……綾ちゃんったらよっぽど食べたいんだねぇ。


 私が了承すると、二人は鼻歌を歌って運転席に向かっていったんだ。肉食女子は二人いたか……。あ、お肉出してもらわないと!


 「お姉ちゃん!ナビちゃんにオークのお肉出してってお願いしてー!」

 「まっかせてぇ〜!」


 車に向かって行くお姉ちゃんに叫ぶとお姉ちゃんのご機嫌な声が返ってきたよ。するとすぐにテーブルに現れたお肉お肉お肉……慌ててナビちゃんにタンと赤身とバラ肉とモモ肉に当たる部位をお願いしたの。ナビちゃんすぐに必要な物だけ残してくれたんだ。『足りなければすぐにお申し付け下さい』ってナビちゃん様様だね。


 「さーて!今日はやってみたかったことやっちゃおう!」


 腕捲りをして大きな塊肉と奮闘することしばらく……ふう、ステーキ肉用出来たぁ!よし、厚切りステーキに取りかかろ。調味料はにんにく、塩胡椒、ローズマリーは少々すり込んで味付け。うーん厚さ3センチがいいかな?これもいっぱい仕込んじゃえ!


 次!モモ肉!これも照り焼きステーキにしよっと。厚めに切って醤油、お酒味醂にニンニクのすりおろしで下味つけといて、後は夜まで放置。うん、これも結構出来たなぁ。


 お次は立派なタン!ちょっとグロいけどオークの舌も大きいんだねぇ。これは厚めにスライスして、タレを作ろう。私おろし醤油ダレも好きなんだ。大根おろして水気を切り、醤油に味醂に酢に胡麻油、そしておろし生姜を入れて作るの。大根おろしがいい感じでさっぱり目なの。


 あ、レモンダレも忘れずに作らないと!お姉ちゃん好きなんだよね。おろしニンニク、鶏ガラスープの素、塩、黒胡椒、胡麻油にレモン!レモンは加減が必要だね。これもいっぱい作っておいて。


 そうだ!野菜!焼くのは玉ねぎ、ジャガイモ、パプリカ、とうもろこしかな。んー、お肉コッテリだからさっぱりマリネも作っておこっか。


 あ、塊肉あるし、ローストビーフならぬローストオーク作ってみよ。あのバーベキューコンロにダッチオーブンついてたっけ?あ、アルミホイルでいいか。塩胡椒と……あ!燻製塩、綾ちゃんに出してもらわないと!綾ちゃーん!


 私が下準備に奔走してると、あっという間にお昼。今日はガッツリお肉を頂くから、サンドイッチで軽く食べるだけにしたんだ。お姉ちゃんたら「足りないけど、夜のために我慢だね!」って今から気合い入っているんだもん。あ、綾ちゃんも?二人共にお肉食べさせているはずなんだけどなぁ。うんうん、シルバにはいっぱいあげるからねぇ。


 妙に気合いの入る二人をまた運転席に送り出して、私も更にオニオンスープやサラダを作る。シルバはお気に入りの場所でお昼寝。ふふっ可愛い。あ、そうだ。大きいウィンナーも綾ちゃんに用意してもらおうっと。


 「なっちゃーん!今日のバーベキュー会場見つけたよー!人も来なそうだしここで準備しよー」

 

 ご飯を食べて2時間くらいしてから、お姉ちゃんが見つけてくれた場所は湖の辺り。この湖がすっごい綺麗なの!ターコイズブルーの透き通った水で、湖の中に大きな岩や木の根がある神秘的な雰囲気だったんだ。周りも森が開けていて平な草地もあるし、バーベキューにうってつけの場所だね!まぁ、魔物対策はナビちゃんの結界があるから万全だしね。


 早速、車から降りて準備をする私達。綾ちゃんはバーベキューコンロを組み立てて、炭に火を入れてくれている。私はインテリアからダイニングテーブルMP14,000と折り畳みの長テーブルMP7,500を二つ出したんだ。いずれにせよ使うからね。お姉ちゃんは、居住空間から仕込んだお肉やスープを持ってきてくれているんだ。あ、シルバ!つまみ食いしちゃ駄目だよ!


 シルバに何個かつまみ食いされたけど、3人で準備すると早い早い。あっという間にバーベキューの準備できちゃった。バーベキューコンロの上ではじゅうじゅういい音と匂いをさせているステーキ肉があって、大きなウィンナーもいい色合い。


 「きゃー!綾ちゃん、これにはビール!ビールが欲しい〜!」

 「はいはーい。冷蔵庫で冷えっ冷えの持ってきてますよー。奈津は烏龍茶でいい?」

 「うん、ありがとー。じゃ、ちょっと早いけど食べちゃう?」

 「「食べるー!」」


 待ちきれなかったんだねぇ、二人共。でも辺りに本当にいい匂いが漂っているんだもん。これはお腹空くよね。みんなで頂きますをして、食べ始める私達。


 「おーいーしー!」


 お姉ちゃんが噛み締めるたびにテンション上がってる。どれどれ……ってこれすごい柔らかくてジューシー!お肉の味に調味料がきいているし、おろし醤油ダレのおかげでいくらでもお肉が食べれそう。綾ちゃんは市販のコッテリステーキソースかけているけど、あっちもいいなぁ。シルバもガフガフ食べているし、どんどん焼かなきゃね。美味しくて夢中になって食べていたら、ナビちゃんがお姉ちゃんを呼び出したの。

 

 『オーナー、結界の外から応答があります。いかがなさいますか?』

 「んー?もしかしなくても人って事ぉ?」

 『はい、女性二人、おそらく冒険者でしょう。何やら探し物をしている様子です』

 「んー、結界の中からなら応答してみたいけど、声届けてくれる?」

 『了解しました』


 ええ!お姉ちゃんコンタクト取るの?だ、大丈夫?


 そんな私の心配もなんのその。お姉ちゃんたらステーキ皿を持ったままトコトコ歩いて行くんだもん!待って待って!ハウジングもかけるから!


 慌ててハウジングをかけて、お姉ちゃんの後を追いかけて行ったら、結界の外には女剣士さんと多分魔法使いの女性さんが立っていたの。お姉ちゃんの様子を見て不思議そうな顔してる。そりゃそうだよね。森の中で何してんだ状態だもん。


 「あのぉー、何か探しているんですかぁ?」


 お姉ちゃんたらモグモグしながら話かけちゃって。なんか一人で緊張していた私が間抜けみたい。ふふっ、お姉ちゃんらしいや。


 「……あ、ああ。いや、今朝までそこで野宿をしていた者だが、どうやら落とし物をしたみたいで探しにきたんだ。だが、結界が張られていてどうしようかと思っていたところなんだが……この結界、君達が張っているものなのか?」

 「そーですよー。あ、ちょっと待って下さいねー」


 ん?お姉ちゃん何かボソボソナビちゃんに聞いてる?え?結界の中に入れるつもり?うえ!女性とはいえ強そうだし、初対面だよ?大丈夫?


 「あー、お待たせしました。多分通れると思いますよー」

 「ああ、わかった。失礼する」

 「待って、ロティ。ねえ、そこのあなた。まだ結界消えていないわ。どういう事かしら?」

 「……!本当か?ハンナ」


 ありゃ?なんか二人共警戒体制に入っちゃったけど、お姉ちゃんなんかした?


 「モグモグ。うん、美味しい!ってそりゃそうですよー。今この結界解いたら美味しい匂いが森中に広まっちゃいますし、何より結界の中に入れるんですよ?危ない人なんか入れたくないじゃないですかぁ」


 んん?お姉ちゃん何したの?え?危害を加えそうな人達か調べようとした?ちょっとぉ、本当に危険な人達だったらどうしたの?すぐに結界の外に追いやるつもりだったぁ?あー……うん、お姉ちゃんとナビちゃんだもんね。……容赦ないね。


 因みに今は声を結界の外に届けてないから、二人はずっと睨んだままだけどね。


 「あー別に危害は加えませんよぉ。ただちょっと私達に何かしようと考えてたら入れないだけです。その為に結界に細工しただけですから」


 飄々と二人に告げるお姉ちゃん。うん、私達の安全もちゃんと考えてくれたんだねぇ。……お肉食べながらだけど。


 「……そうか。かなりのスキル持ちとみた。こちらは危害など考えていない。今実証しよう」


 女性騎士さんの方が止めようとする魔法使いさんの前に出て結界をくぐって入ってきたんだ。それを見た魔法使いさんも「仕方ないわね」と素直に入って来たの。


 で、お姉ちゃん二人はどうだったの?


 「うん、ナビちゃんによると大丈夫そうですが、何か余計な事をしようものならすぐに追い出しますよぉ」


 モグモグ肉を食べながらも、言うことはしっかりしているお姉ちゃん。なんだかなぁ。二人も素直に応じ、ひとまず綾ちゃんにも二人の事説明することになったんだけど……


 「あーもう!二人共帰って来るの遅い!お肉は待ってくれないんだよ!見て!こんなに焼いちゃって、冷めたら勿体ないでしょう?」


 いやいや、綾ちゃん焼くの止めてくれたらよかったんだよ?明らかに多くなっているでしょ?ああ、シルバはいいの、いいの。食べてて。「ん?ところでお客様?」って綾ちゃん気づくの遅いよ。

 

 綾ちゃんに成り行きを説明していると、またバーベキューコンロの側に行ってお肉を補充するお姉ちゃん。その様子を待たせていた二人がずっと見てたんだよね。……もしかしてお腹空いてるのかなぁ。


 「す、すまん。依頼帰りで干し肉しか食べてないものだからつい目がいってしまった」


 私と目が合った途端に言い訳をして来る女剣士さん。ふむ、女剣士さんは素直な人なんだね。隣の魔法使いさんは頭を抱えているけど、お腹の音聞こえてますよー。これには私達3人共苦笑い。結局、探し物は後にして一緒に食べる事を提案したのはお姉ちゃん。で、冒頭に戻るわけだけど……


 「へえー、ハルトウィルパーティって3人パーティなのぉ?後一人は?」

 「ああ、王都で療養中なんだ。今回の依頼は私と隣のハンナで十分だったからな。お!これレモナが効いていてサッパリして良いな!」

 「こちらのサラダとオニオスープも美味しいですわ。そう、そしてディナのお土産にしようとした魔石をロティが落としちゃったんですの」

 「ハンナ!言わなくて良いだろう、そこは!あ、これ美味い」

 「でっしょー!奈津の料理は天下一品なんだから!」


 ………なんか馴染んでるし。それにみんな食べながら話進んでるし、器用だなぁ。綾ちゃん、褒めてくれるの嬉しいけど褒めすぎだよ。お姉ちゃん二人にお酒勧めないの!


 もう、最初の警戒どこにいったのやら……

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