第8話 プルームの宿屋と発見

 「お風呂ない……」

 「んー、ベッドが硬いわぁ」

 「料理がまさかの塩だけとは……」


 お風呂がないと嘆く綾ちゃんに、ベッドに座ってコンコンと叩くお姉ちゃん。私は料理が塩だけだったのがとっても不服だった。あ、シルバは宿の獣舎にいるんだよ。


 なんて贅沢な私達なんだろう。これでお高めの宿なんだって、と残念に思ってしまったんだよね。という事は普通のお宿は更にランクが下になるわけで……ああ、ナビちゃんの居住空間に慣れた私達にはこれは難しいなぁ。


 「人間贅沢を覚えたらランクを落とせないんだね……」


 しみじみと言う綾ちゃんに同意する私とお姉ちゃん。


 「んー、ねえナビちゃん。居住空間につながる扉だけこの部屋に出せる?」

 『現在のランクではまだ無理でございます』

 「あーでもいずれ出せるようになるんだねぇ」


 お姉ちゃんはステータスウィンドウを出して、ナビちゃんと会話していたの。あ、会話できるんだと聞いてみたら、「なんとなく出来そうだったからやってみたのぉ」だって。うん、お姉ちゃん平常運転だ。


 「あ、ナビちゃんに接続できるならナビちゃんのトランク収納ってそのままで使えない?」

 「ナビちゃん、どお?」

 『トランク収納は可能です』

 「やった!布団が出せる!」

 「「やったぁ!」」


 お姉ちゃんがナビちゃんと話している時、ピン!ときたんだ。硬いならインテリアから予備マットレスや布団セット出せば良いじゃないって。でも持ち歩けないからなぁって思っていたところに、ナビちゃんとお姉ちゃん話しているし!と、喜ぶ私に更に喜ぶ綾ちゃんとお姉ちゃん。やっぱり現代人柔らかくなきゃ寝れないからね!


 「でさあ。1日くらいならお風呂は我慢出来るけど……」

 「宿に頼むとタライにお湯持ってきてくれるみたいよぉ?」

 「お湯で拭くだけかぁ」


 私が我慢を提案すると、お姉ちゃんは宿の人から聞いた情報を教えてくれて、綾ちゃんはちょっと残念そう。気持ちはわかるなぁ。日本人、それも女性はお風呂にこだわるよね!


 幸い、女性に必需品の化粧水や乳液や洗顔石鹸は綾ちゃんから仕入れる事が出来るけど……お風呂はねえ……ってアレ?


 ・家屋

  → 住居

    店舗

    工場

    倉庫


 ん?何気なく調べてみた事ないなぁっていう家屋を開いて見たら、家屋に種類がある!


 「ねぇねぇ!綾ちゃん、お姉ちゃん!なんか面白いもの見つけた!」

 「ん?家屋調べてたの?ってこれなんで?」

 「ん〜?ああ、これってやっぱり広い意味でいってたんだねぇ。家屋って人が住む為の建物だけど、こう言う意味でも持ちいられる事あるんだよぉ。確かなんかで見たなぁ」

 「「へぇー」」


 意外にお姉ちゃん物知りだ、流石社会人!それで2人共、店舗何があるんだろ?って私の後ろから覗き込んでいるんだよね。でも確かに何あるんだろう?そう思ってタップしてみたら、


 店舗

  → ・銭湯(小) MP40,000

    ・クリーニング店(小) MP 30,000

    ・医院(小) MP50,000

 

 「えええ!銭湯があるよ⁉︎」

 「あ!クリーニング店って良いね!」

 「医院ってお医者さんついてるのかなぁ?」


 3人とも見事に見てる所が違う(笑)


 私は銭湯、綾ちゃんクリーニング、お姉ちゃんに至っては確かに……って事言ってた。押して見ればわかるかなぁって思ったけど『敷地が足りません』って出てくるだけ。まあ、そりゃそうだよね。


 「こーれ面白いよ!奈津!……でもこれって一度建てたらその場から移動出来なそうだね」

 「んー、基本家屋って固定された建物だからねぇ」


 綾ちゃん面白がっていたけど、即このデメリットをあげてくれたの。お姉ちゃんも更に補足してくれたけど、使いどころが難しいかなぁ。そう考えていると『オーナー。トランク収納で収納可能です』ってナビちゃんがお姉ちゃんに言っていたんだ!うわぁ、ナビちゃん最高!

 

 「でもどうするの?この街でお店開くの?」

 「うーん……なんにしても試しに出してみたいよね」


 ま、結局のところ今使えないんだよねぇ。だから明日街から出たら試してみようかって話しになって、今日はお風呂なし決定。インテリアから掛け敷布団セットMP10,000を三つ、マットレスMP3,500を三つ出して今日は早々と就寝して早起きする事にしたんだ。


 そして早朝……


 起きた3人ともが寝ぼけながら言った言葉は「お風呂入ろう」だったんだ。うん、私達には宿屋暮らしが無理だってわかった瞬間だったなぁ。


 だから楽しみにしていた宿屋だったけど、早々にチェックアウトした私達。シルバを連れて街門のところまできたんだ。


 「まだ空いてないのに結構人いるねぇ」

 「ふあ……後少しで開くって宿屋のご主人言ってたね」


 門の前では開くのを待つ商人さんや冒険者の姿があったんだ。キョロキョロとその様子を見ている綾ちゃんに、欠伸をしながら応えるお姉ちゃん。私も周りの様子を見てたけど、私達も目立ってるみたい。若い女性3人はいないもんね。シルバいるけどハウジングかけとこ。そうしていると、ゴーン……と一つ大きな鐘の音がしたと思ったらにゴゴゴゴ……って街の門が開いたの。


 「あ、やっと開いた」

 「凄いねぇ。みんな一斉に出ていくよぉ」

 「私達も行こっか」


 開いた途端に馬車は走り出すし、冒険者達もすぐ歩き始めたの。余計なトラブルもなく私達も進み出したんだけど……


 「グルルルル……」

 「あー……やっぱり誰か付いて来てるのかな?」


 シルバが後ろを見て威嚇しているんだよね。私が後ろを見たら冒険者見たいな男性4人組が距離をあけて付いて来ていたんだ。


 「よし!なら、ナビちゃんカモン!」


 まだ門は見えてるけど、この街には戻らず進もうって話を昨日してたから早々にナビちゃんを出してくれたお姉ちゃん。ナビちゃんが現れたら即座に乗り込む私達の姿に慌てて走り出して来た冒険者達。でも結界に阻まれて近づけない上に、ナビちゃん機転を効かせて走り出してくれたからあっという間に離れたんだ。


 「んー、街に寄るのも良し悪しだねぇ」

 「情報だけ集めて街はすぐに出ましょう。あ、服買って無い」

 「次の街では服だけ買おう」


 運転しながら考えるお姉ちゃんと、街には泊まらないように提案する綾ちゃん。私も同意して次の街は服だけ買う事に決めたんだ。そして程よく人もいなくなって、街道からちょっと離れたところの空き地によって、いよいよスキルのお試し。


 「では!今から銭湯を出してみたいと思います!」

 「「待ってました!」」


 敬礼のポーズで言う私の遊びに拍手で乗ってくれる2人。早速ハウジングの家屋から銭湯を選択してタップすると……目の前が光り出し、しばらくして光が収束すると目の前には瓦屋根の銭湯の暖簾がついた平家が現れたんだ。


 「うっわー!これって結構前の銭湯じゃない?」

 「うん、昭和の銭湯って感じ」

 「スーパー銭湯じゃないんだねぇ」


 私が以前TVで見たようなノスタルジックな銭湯が出てきたの!私は赴きがあってこの雰囲気好きだなぁ。そう思って早速入ってみようと思ったら扉が開かないんだよね。


 「アレ?開かない」

 「あ、扉になんか書いてるよ?『横の発券機で入浴券をお買い上げください』だって」

 「発券機?ってこれ?」


 私が扉に手をかけていると、綾ちゃんが案内に気づいて読み上げてくれたの。お姉ちゃんは自販機みたいな発券機をポンポンしてる。


 3人で発券機みてみると、チカチカ光っているボタンがあったんだ。よく見てみたら『オーナー専用パスポート(3人まで入浴可能)』ってカードだった。押すだけでいいんだね、とボタンを押すとカコンとカードが落ちてきたんだ。因みに入浴日帰りが銅貨5枚で1週間が銀貨3枚、1ヶ月が金貨一枚だったよ。


 「これって商売しろって事かなぁ?」

 「奈津、面白そうだよ!」

 「でも目立つねぇ」


 私がカードを発券機から取り出すとワクワク顔の綾ちゃんと冷静なお姉ちゃん。うーん……とりあえず中に入ってから考えてみたいから、一先ず保留にしたんだ。さて、


 「さあ、入るよー!」

 「「はーい!」」


 やっとお風呂に入れるね!

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