第7話 商業ギルドにて

 綾ちゃんを先頭に商業ギルドに入って来た私達。中は行き交う商人さん達や街の人達で賑わっていたの。


 「奥が受付みたいですね」

 「そうだねぇ。窓口で綺麗な女性が案内してるし。と言うか右側は商談スペースかなぁ」

 「あ、左壁は紙が貼っているよ?みんなが立ち止まって見ているって事は定番の依頼版かも!」


 そんな中、一通り中の様子を見て受付を見つける綾ちゃんとお姉ちゃん。お姉ちゃんは横の商談スペースも気になっているみたい。私は壁に貼られている紙の内容が気になってつい見に行きたくなっているけどね。


 「奈津。まずはみんなで一緒に行動するよ。その後見に行こ」


 冷静な綾ちゃんに諭されて「はーい」と大人しく従う私。ついラノベみたいでワクワクしちゃったもんなぁ。お姉ちゃんも結構キョロキョロしてるけどね。


 「えーと……あ!字読めるね。受付に新規登録窓口って書いてあるよぉ」


 お姉ちゃんが窓口を見つけてくれたの。でも良かったぁ!私達街で会話もできたから大丈夫かなって思っていたけど、字もやっぱり読めたんだよ。これで読めなければ大変だったよねぇ。


 「あ、今空いたよ。他に並んでいる人いなさそうだし行ってみよ」


 私が見ると、丁度先に窓口にいた人が終わったみたい。二人もそれを見ていて窓口に向かったんだ。


 「ようこそ商業ギルドへ!この窓口は新規登録の窓口です。新規登録にはお一人銀貨一枚頂きますが、本日は3名様が新規登録のご予定でしょうか?」


 私達が窓口にいくと綺麗なお姉さんが笑顔で応対してくれたんだけど……銀貨一枚っていくらなんだろう?そう考えていると綾ちゃんがスッと前に出て、代表で言ってくれたんだよね。

 

 「はい。登録は3人でお願いします。ただ持ち合わせがなくて商品を売ったお金で登録したいのですが、可能でしょうか?」

 「はい、そちらも可能です。では少々お待ち下さい」


 窓口のお姉さんは人を呼んで窓口役を交代して、私達を右側の商談スペースに連れて来てくれたんだ。商談スペースっていってもちょっとした個室になっていて、カウンター席に椅子が三つあって向かい側の職員スペースはオープンになっているの。


 「まずは皆さん席について頂けますか?」


 窓口のお姉さんに勧められて、綾ちゃんを真ん中に私が右側、お姉ちゃんが左側に座ったんだ。そして窓口お姉さん、もう女性職員さんでいっか。女性職員さんに勧められて商品を出した綾ちゃん。ビニール袋は流石に目立つと思って紙袋に、砂糖、塩、胡椒を出したの。


 「こちらは……!随分と品質の良い物ですね……⁉︎失礼ですがどちらでこれを?」

 「すみません。入手経路は秘匿とさせて下さい。ただ現在あるのはこの量だけです」

 「……そうでしたか。失礼しました。取引先は商人にとっての命綱ですものね。不躾に失礼しました。お調べしてまいりますますので、このままお待ちくださいませ」


 女性職員さん、砂糖と塩と胡椒の品質にすっごく驚いていたの。あー、これも異世界あるあるなのかなぁ。スキルで出したものって混ぜ物ない純正品だもんね。と言うか、


 「綾ちゃん流石だねぇ。冷静に答えられるなんて」

 「うん、でも実際はドキドキだったよ。奈津や佳織さんいたから心強かったし」

 「綾ちゃんしっかりしてるもんねぇ。安心だよ。で、ちょっと聞き耳立ててたんだけど、お金の種類って銅貨や金貨もあるみたいだよ」


 私が綾ちゃんを褒めると、お姉ちゃんがどうやら周りの状況を聞いていたみたい。お金の価値を知らないとこれから大変になるもんね。綾ちゃんがお姉ちゃんの言葉を聞いて考え込んでいたら、女性職員さんが戻って来たんだよね。


 「お待たせしました。査定では最高品質でしたので、塩一袋金貨5枚、砂糖一袋金貨7枚、胡椒一袋金貨17枚、合計で金貨29枚でいかがでしょうか?」


 うーん……元手を考えると、これはかなりいい値段をつけてくれた様な気がするけど……どうなんだろう?


 「品質が良くて塩が金貨5枚ですか?」

 「……そうですね。では一律金貨2枚上乗せ致しまして合計金貨35枚ではいかがでしょうか?」

 

 うわぁ、たった一声で金貨枚増えたよ。綾ちゃん強し!と言うか、やっぱり商業ギルドも商売人なんだなぁ。利益はしっかり取ろうとするんだね。これは日本人気質じゃぼったくられるよ。と言うか、すでに門でかなりぼったくられたんだねぇ……。


 ちょっと遠い目をしていたら綾ちゃんはそれで了承していたんだ。では……と言ってお金を用意しようと席を立った女性職員さんを呼び止めた綾ちゃん。ん?まだ何かあった?


 「すみません。各硬貨一枚毎に両替をお願いできますか?この後屋台で食事予定なので」

 「畏まりました。屋台であれば銅貨まで両替いたしますね」


 そのままお金を用意しに奥へ行く女性職員さんを見ながら、思わず振り返って綾ちゃんを褒める私。


 「綾ちゃん!両替って手があったね!良く気付いた!」

 「しかも屋台で食事って言ったからねぇ。1番低い硬貨までわかる様にするのは上手いねぇ!」


 お姉ちゃんも綾ちゃんの機転に関心したみたいだね。言った本人はえへへって照れ笑いしてるもんだから、可愛くて頭撫でちゃったよ。3人でキャイキャイしていると、お金と紙を持って戻って来た女性職員さん。受け取ったらまずは全額あるか確認を3人でしたんだけど、両替した硬貨から予想するにこんな感じだったなぁ。


 鉄貨10枚で銅貨1枚 鉄貨約10円相当

 銅貨10枚で銀貨1枚 銅貨約100円相当

 銀貨10枚で金貨1枚 銀貨約1000円相当

 金貨10枚で白金貨1枚 金貨1万円相当って感じかなぁ。


 検証は屋台やお店でやる事にしたんだ。とりあえず銀貨三枚払って商業ギルドの新規登録をお願いした私達。文字は読めるけど、念の為女性職員さんにお願いして3人分記入してもらったの。名前と年齢ぐらいだけどね。それで女性職員さんが説明してくれたんだよね。纏めるとね……


 Aランク:王室、領主御用達 最上級クラス

 Bランク:貴族御用達 上級クラス

 Cランク:富豪、豪商御用達 三等級クラス

 Dランク:商売年数3年以上 一般クラス

 Fランク:商売年数一年未満 駆け出しクラス


 なんだって。うわぁ、Aまで行かなくていいよ。面倒臭そうだし。あ、でもFランクでも売上げがいい場合は一年未満でもランクアップがあるんだって。まあ、色々あるんだろうね。


 それでお店を持つにはDランク以上じゃなきゃいけないみたいだよ。それまでは屋台とか市場で商いするんだって。大概のお店のオーナーはDランクがほぼみたいだよ。


 FランクやDランクは、1日銀貨1枚で屋台を借りるか、1日銅貨5枚で青空市場に出店するかなんだって。ただ治安面を考えると屋台の方がマシって言ってたなぁ。私達女性だけだから、職員さん気を遣ってくれたのかもね。あと、申請制だって言ってたかな。


 更にね、ギルドカードって銀行口座付きなんだって。だからまとまったお金は口座に入れておく事を勧められたんだけどね。綾ちゃんすぐに金貨10枚ずつ各自のカードに入金お願いしてたの。素早い……!ありがたいけどね。


 「以上ですが、何かご質問はありますか?」


 女性職員さんが一通り教えてくれたけど、何かあったかなぁ?ん?綾ちゃん何か思いついたみたい。


 「屋台の貸し出し申請って何時から出来ますか?」

 「商業ギルドは1の刻から7の刻まで開いています。ですが皆さん前日に受付していかれますので、当日はそのまま場所へ向かわれてますよ」

 「ありがとうございます」


 綾ちゃんが屋台の申請について聞き終わると、今度はお姉ちゃんが職員さんに声をかけていたの。


 「この近くで女性が泊まり易い宿ってありますか?」

 「女性でしたら『緑の雫』がいいと思いますよ。そこには鍵がかかる個室と、各部屋にトイレがついていますから。但し一泊一人金貨一枚と値段が張りますが、安全には変えられませんから。そこまでの地図をおつけ致しましょうか?」

 「助かります。お願いします」


 お姉ちゃんこの街の宿に泊まるつもりなのか。あ、でも一般的な水準知りたいし良いかもなぁ。個人的にはナビちゃんの所に戻りたかったけどね。あ、そうだ。


 「私達最終的には王都を目指しているのですが、王都ってどんな所ですか?」

 「王都ですから様々な物が集まる街ですね。今行くと聖女召喚が成功したそうで、各地から人が集まって賑わっていますよ。但し人が多すぎてFランクの出店は難しいでしょう。しばらくここでお店を出した方が稼げますよ」


 聖女召喚って言葉が出た時3人顔を見合わせたけど、とりあえず平静を装って後で話そうと目で合図をする私達。そのあとは女性職員さんから地図とギルドカードを受け取って、お礼を言って席を立ったんだ。まずは商業ギルドの案件は終了。でも色々な疑問が残っちゃったなぁって会話をしながら入り口に行ったらね……


 「えーと……この状態は何?」

 「シルバちゃんと睨みあっている人達誰かしらぁ?」

 「冒険者っぽいですね」


 商業ギルド入り口で待たせていたシルバが唸って睨んでいる先には、剣を構える男性3人組がいたんだ。その周りには人が集まっていたし。え?何?どうしたのこれ?


 「シルバ!」

 

 とりあえず私がシルバに声をかけたら、こちらを見てクウ……と擦りよってくるシルバ。私やお姉ちゃんが撫でる姿を見て、冒険者の男性3人はとりあえず剣は下げてくれたんだけどね。


 「おい!もしかしてそこのシルバーフォレストウルフは、君らがテイムしているのか?」


 なんか一人の男性がこっちを見て叫んでくるから、一応テイムしている私が答えたんだ。


 「あ、はい。そうですけど」

 「なぜテイム認証を着けさせていない!」

 「えーと……なんですか?テイム認証って?」

 「冒険者ギルドで登録した時に貰っただろうが⁉︎」

 「すみません。街に来たばかりでまだ登録してません」

 「ふざけんな!認証無しの魔獣をそのままにしているからみろ!みんなが警戒して用がある奴らが入れなかったろうが!しかも討伐してくれとギルドに依頼が来たくらいなんだぞ!」


 かなりの剣幕で怒鳴られるのは初めてで、すっごい怖かったけどこれは明らかに私達が悪い。その様子に綾ちゃんもお姉ちゃんも私の肩をポンッと叩いて来たから、顔を見合わせると一緒に謝ってくれるみたい。


 「「「すみません!お騒がせしました!」」」


 私達が3人同時に頭を下げて謝ると「全く……」「人騒がせな……」「これだから田舎者は……」と周りの人が愚痴を言いながらもとりあえず人が散って行ったから良かったけど。冒険者の3人組からはコッテリしぼられたんだ。


 で、早速その3人に冒険者ギルドに連行されて、しっかり冒険者登録もした私達。シルバのテイム認証は首輪にしてもらったの。冒険者ギルドの詳細はあとで教えるね。


 最初は怖かったけど、実は世話好きなパーティメンバーだった3人組。3人はセイラムってパーティ名でAランクなんだって。メンバーは緑の髪のセンリさんに、青い髪のフェスさん、金髪のシークさん。この街で1番強いらしいよ。全員20代後半くらいかなぁって思っていたらなんと20代前半なんだって。3人共西洋風の整った顔してたけど老けて見えるなぁ。


 でもまぁ、この3人がいたから冒険者ギルドでテンプレは起こらなかったんだ。女性3人だけだったら絡まれていただろうなぁって考えると逆に感謝だったね。


 ついでに宿まで送って貰って有り難かったなぁ。去り際は「今後気をつけろよ」だったから、本当に面倒見だけが良かったんだね。私、お姉ちゃんか綾ちゃん狙いか?って実は警戒してたから。ハウジングかけっぱなしだったし。


 「なんかひと騒動起こしちゃったけど、宿屋に着いちゃったね」

 「奈津。バリバリ警戒してんだもん。そりゃそうでしょ」

 「あれじゃ、屋台寄りたいって言えなかったからねぇ」


 あ、二人にバレてた。後でセイラムメンバーにお詫びした方いいかなぁ、と思いながらもとりあえず宿に入ってみる事にした私達。


 この世界の宿ってどんな風なんだろうね?

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