第6話 プルームの街にて

 ザワザワ……

 「凄いねぇ。こんなに人がいたんだねぇ」

 「佳織さん、キョロキョロしてると目立ちますよ」

 「綾ちゃん、それ今更。シルバが横にいるから私達の周りに空間出来てるし」


 そう、私達は今プルームの街に入る為の列に並んでいるんだけど、シルバがいる事で私達の前後の人達が距離をとっているんだ。


 あれから順調にプルームの街まで来た私達。ナビちゃんはかなり手前でお姉ちゃんが収納して、歩いて街の入り口まで来たんだけど……


 「門の兵士さん達増えたねぇ」

 「完全に私達を見てますね」


 お姉ちゃんや綾ちゃんがちょっと警戒している様に、私達の周りが騒がしくなってきたんだよねぇ。私はシルバを撫でながら大丈夫ですよアピールしているんだけど。


 「あ、兵士さん達動いたよぉ」

 

 呑気にお姉ちゃんが実況していると、兵士さん達に囲まれたんだ。


 「そこのお前達!シルバーフォレストウルフと共に詰所まで来てもらおう!」


 なんか偉そうに指示する兵士さんにちょっとムッとしつつも、騒ぎを大きくしたくないからシルバと共にゾロゾロと詰所の中に移動したんだ。でもシルバ大きいからねぇ。入るかなぁって思ったら大きな会議室みたいなところに連れて行かれたの。


 それで偉そうな兵士さん達3人と私達が部屋に入ったら、私達に向き直って兜を脱ぐ兵士さん達。


 「まずはいきなり連れてきて失礼した。詰所に多くの人から要請が届きこんな形になってしまった事をお詫びしよう」


 緑の髪の兵士さんが、さっきとは一変して真摯な態度で接してきたんだよね。これには思わず顔を見合わせる私達。


 「君達と一緒にいるシルバーフォレストウルフは並んでいた時から大人しかった。君達の誰かがテイムでもしているのか?」


 兵士さんからの質問に私が答えようとしたら、お姉ちゃんがスッと前にでてきたの。


 「はい。私の妹がテイムしていますわ。改めてお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。私達なにぶん田舎から出てきたばかりですから……」


 お姉ちゃんのこの変わり様……しかも申し訳なさそうにするお姉ちゃんは一見可憐で儚げに見えるから凄い。これお姉ちゃん面倒臭くなった時によく使う手なんだよね。異性にはよく効くんだけど、異世界でも効くのかな?


 「なんと……そうでしたか。しかし凄いですな、シルバーフォレストウルフをテイムできるとは」


 あ、異世界でもお姉ちゃんの技は効くんだねぇ。兵士さんちょっと顔赤くなっているし。うん、流石お姉ちゃん。使えるものは使うからなぁ。


 「ええ、妹が子供のシルバーフォレストウルフをここまで育てたのですわ。ですから私達に害が無ければ、この子は人を襲う事はございませんわ」

 「ふむ、確かに大人しい……。では身分証を見せて頂けますかな?」

 「申し訳ありません。私達は初めて村を出てきたものですから、こちらで身分証を作る予定でしたの」

 「成る程。では仮身分証を発行致しましょう。その前にこの魔導具に皆さん手を触れて頂けますかな?」


 お姉ちゃんが兵士さんを上手く対応していると、兵士さん達が奥から丸い装置持ってきたんだよね。それを見て3人共首を傾げていたら、ふっと笑い出す兵士さん。


 「大丈夫。これは犯罪歴を調べるものだ。何もしてなければ光らないから安心してくれ」


 兵士さんが差し出した丸い装置に、お姉ちゃんがまず先に触れて、綾ちゃん、私の順で触っていったの。当然光るはずもなく、その後は順調に進んでいったんだ。


 そして兵士さんによると、まず私はシルバがいるから冒険者ギルドで登録しなきゃいけないんだって。一応私達の目的は商売をしに来た事も話していたから、お姉ちゃん達には商業ギルドで登録を勧められたの。この兵士さん親切な人だったんだねぇ。


 「この仮身分証は各ギルドで登録する時に返してくれればいい。但し、3日以内に登録しないと罰金が発生するから気をつける様に」


 兵士さんの説明が終わり、私達は解放されたんだけど。お姉ちゃん兵士さんから早速お誘い受けてたなぁ。笑顔で交わしていたけどね。そしてやっと詰所から街の中に入れた私達。


 「佳織さん!ありがとうございます!」

 「お姉ちゃん流石だねぇ」


 お姉ちゃんの腕に綾ちゃんと私がしがみつくと「ふう……疲れたねぇ」といつもの調子に戻ったお姉ちゃん。シルバも尻尾を振ってお姉ちゃんに擦り寄ってる。お姉ちゃんたら「シルバちゃん!疲れたよぉ」とバフッとしがみついてるの。お姉ちゃんがシルバに癒されている間に私と綾ちゃんは今後の相談。


 「さてと、佳織さんのおかげでまずひと段階クリアしたね。で、兵士さんに聞いたけど、身分証作る為にはお金が必要だから先に商業ギルドかな。私のショップから出したのを売ってお金作らないとね」

 「そうだねぇ。塩と砂糖と胡椒だっけ?兵士さんに見せたら結構良い反応してたよね。良い値段で売れたら良いね」


 そう、兵士さん達に荷物確認もされていたんだ。私達バック背負っていたからね。その時に綾ちゃんすかさず兵士さん達に色々教えてくれた感謝として塩と砂糖渡していたんだよ。兵士さん達はそれを入場料の変わりに受け取ってくれたみたい。1人銀貨一枚だったんだって。銀貨っていくらなんだろうね?


 「うん、詰所では多少損はしたかもしれないけどね。今度は私がしっかりやらないとね!佳織さんだけに負担かけてられないからね!」


 綾ちゃんやる気になってるなぁ。頼りがいあるったら。そんな中私は私でのんびりとしつつも全員に『ハウジング』をかけていたの。


 だってね、お姉ちゃんも綾ちゃんもやっぱり目を引く容姿なんだもん。今はシルバがいるからみんな近づいて来ないけど、念には念を入れなきゃね。


 そう考えつつ、私達は商業ギルドを目指して歩いていたんだ。この街綺麗なんだよ。白い壁に木組の家で統一されているの。大通りを今歩いているんだけど、石畳で整備された道に左右に屋台が並んでいて良い匂いがしているんだ。


 匂いって言えばトイレ事情もいいのかな?変な匂いしないもんね。兵士さん達が持ってきた装置も魔導具って言っていたし、魔法もある世界なのかなぁ。


 綾ちゃんやお姉ちゃんとそんな会話しながら歩いていたら、冒険者みたいな人達が私達の行く方向を塞いでいたんだよね。うーん、いかにもな人達だなぁ。


 「よお、あんたら見ない顔だなぁ。この街の事俺らが教えてやろうかぁ?」


 ガタイの良い男達がニヤニヤしながら近づいてきたんだよね。革鎧に剣ってこの時代まさにファンタジーの世界なんだねぇ。とのんびり構えていた私に向かって手を伸ばしてくる1人の男。


 「いってぇぇ!」


 あ、グキって言ったねぇ。いたそー。


 「あ、奈津『ハウジング』かけてくれたの?」

 「うん。綾ちゃんやお姉ちゃん目立つからね」

 「なっちゃんもでしょう?自覚ないんだから」


 呑気に構える私達に「おい!なんだこれ!」「どう言う事だ?触れねえぞ」と騒いでいる男達。実は『ハウジング』って人を守る結界なんだよね。これ便利でね、私がONとOFFを意識するだけで発動するんだよ。体型に沿って30センチくらい外側に結界が張られているの。


 で、当然シルバも黙っているわけもなく、私達を庇ってグルルル……って唸ってくれているんだよね。その迫力には男達も流石に引いて「くそっ」「覚えてろ!」って言っていなくなったんだけど。


 「なぁんにも私達してないのにねぇ」

 「全くですよ」


 と緊張感のないお姉ちゃんと綾ちゃん。でも発動しといてよかったし、シルバも偉い!シルバにはあとでご馳走あげなきゃね。


 この後は、ハウジングとシルバに助けられてスムーズに歩く事ができたの。おかげで3人で帰りにアレ買おうとかアレ食べたいとか言って、すっかりおのぼりさんになっていたんだ。


 で、目指す商業ギルドについたんだけど、すっごい立派な黒い建物でね。3人で思わず「おおー」って見上げちゃったんだ。看板は多分お金のマークかな?多くの商人さん達が出入りできる大きな入り口でね。奥がどうやら受付になっているの。


 シルバはここで待っていて貰った方がいいかな?って言ったら、シルバったら「ガウ!」って言ってお座りしているんだよ。可愛いんだから。


 「じゃ、今度は私が先に行くね」

 「「綾ちゃんファイトー!」」


 気合いを入れた綾ちゃんを呑気に応援する私とお姉ちゃんの姿に「……気が抜けるなぁ」と言う綾ちゃん。その背中を「まぁまぁ」と押しながら入っていく私と笑いながらその後をついてくるお姉ちゃん。


 さあってと、商業ギルドはどんな感じかなぁ。なんかワクワクするね。

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