第5話 プルームの街に入る前に
「か、かわいいー‼︎」
「あ、狡い佳織さん!私も!」
あーあー……、お姉ちゃんバフッと首にしがみついてるよ……綾ちゃんまで。
あの後、お姉ちゃんに頼んで結界にシルバを入れて貰ったんだけどね。意思疎通出来るか試してみたら、この子賢いんだ!自分がシルバって名前を理解しているし、何より私達の言葉がわかるみたい。伏せ、片足あげて、座れ、立て、吠えろっていう指示全部理解してくれたの。
「触っても大丈夫?」
「ガウ!」
触るのはテイムした私が1番最初に触ってみたんだけど、わざわざ伏せてくれたんだよ。ドキドキしながら触るとね……ふわっふわなの!「多分プロテクトリフォームの時、毛や健康状態も戻ったんだろうね」っていうのがお姉ちゃんの見解。あー、そんな効能まであるのか。覚えておこ。
で、私がご機嫌でシルバを撫でていたら、我慢できなかったお姉ちゃんや綾ちゃんもこの子に抱きついたってわけ。
シルバ体長3メートルくらいはあるんじゃないかなぁ。長めの銀の毛にフサフサ尻尾。かっこいい狼だけど、今は目が優しい感じ。本当にAランク?って思っちゃうよ。
「ナビちゃん!ナビちゃん!結界の強度上げれる?」
『確認致します。現在魔物在庫数126。魔物10頭に付き結界強度は一段階上がり、一段階上がるごとに範囲は車体から2メートルずつ拡張致します。何段階強度を上げますか?』
「えーとね……とりあえず5段階かなぁ」
『畏まりました』
あ、お姉ちゃんも気になってたんだ。シルバおっきいからナビちゃんの結界に入っている様で入ってなかったんだよね。
お姉ちゃんとナビちゃんのやりとりの後、結界がぐーんと広がったのがわかったんだ。なんかうっすい青の膜が見えるんだもん。しかもあれだけ沸いて出て来ていた魔物が出てこなくなったの。これ、シルバいるからかなぁ。
「じゃーん!佳織さん、見て見て!シルバ用のブラッシング櫛」
「綾ちゃんさっすがぁ!あ、私にもブラッシングさせてぇ」
「勿論ですよ。シルバちゃん、そのまま伏せしててね」
「ガウ!」
綾ちゃん、なんかステータスウィンドウ開いていると思ったら、ドラッグストアから櫛買ってたんだ。しかも2つ。シルバ嬉しそうだし、私もやりたいけど……
「ねえ、2人共。シルバの事も含めてプルームの街に入る前に、ちょっと色々考え直さないと」
私の言葉に綾ちゃんはすぐ顔を上げてくれたけど、お姉ちゃんよっぽど嬉しいのか夢中になってブラッシングしてるんだよねぇ。ま、いつも聞いてないようで聞いてるからいっか。
「このままシルバ連れて行くのは良いんだけど、シルバ街に入れるのかな?」
「あ〜、奈津の懸念わかる。まさか街の外においていくなんてできないし、やりたくないしね」
「うん、それにシルバの食事もどうすればいいかなぁ」
「私のネットショップで出すだけじゃ足りなさそうだし……」
うーん……と私と綾ちゃんで悩んでいたら「きゃっ!」ってお姉ちゃんが声をあげたの。どうやらお姉ちゃん、シルバが立ち上がってびっくりしたんだね。
「ガウ!ガウ!」
そんで、シルバってば私達の方を見て吠えてから、どこかに走っていっちゃったんだよ。まるでちょっと待っててって言ってるように聞こえたんだけど。
そういえばテイムしてから、シルバの感情が伝わってくるようになったんだよね。だから驚いている2人にも説明して、ちょっと待ってたら一角兎を咥えて戻ってきたシルバ。
地面に死んでいる一角兎を置いて「ガウゥ」って鳴いてから片方の前足をタシタシしていたの。伝わってきた感情はご飯は大丈夫って感じかな。うん、うちの子優秀!お姉ちゃんてば、今の姿が可愛かったのか「良い子ねー!」ってまたしがみついてるし。でもシルバも喜んでいるみたいだしいっか。
それで結局シルバの件は食事は自分で取る事がわかったし、寝床もすぐに解決。ナビちゃんの結界内って空調も調節できるし雨風も防げるんだって。
だったらって事で、私がインテリアから大きめのラグマットを車の近くに敷いて、大きめクッションも3個ぐらい出したらシルバも気にいってくれたんだ。フンフン臭いを嗅いだり、クッションを自分の好きな置き方にして前足で場所を整えたりする姿は和んだなぁ。
「じゃ、後は私達の設定か。女3人だしねぇ」
「綾ちゃん、王都に職を探しに行くってのは?」
「奈津の案もいいけど、商売を目的とした旅ってのも捨てがたい」
「綾ちゃんのスキルで?目立たない?」
「だから屋台かな。これは奈津に頑張って貰わないとね」
「うん、良いねぇ。なっちゃんのクレープ美味しいし!」
屋台かぁ!なんか楽しそう!お姉ちゃんは自分の好きなクレープの屋台にしちゃっているし。でも良いかもね。3人が乗り気になったのは屋台だったから、この線で行く事にしたんだ。
で、街に入る時に持って行く物は、無難なところで砂糖とか塩がいいんじゃないかって事にしたんだけど。念の為にタオルや石鹸も出しておこっか、と綾ちゃん。用意周到だねぇ。あと、お姉ちゃんはお姉ちゃんでちゃんと考えていたみたい。
「街に行っている間車どうしようってナビちゃんに聞いたら、スキルに『車庫』って増えてたんだぁ。どうなるかやってもいーい?」
呑気な口調のお姉ちゃんが「えいっ」ってステータスボードの『車庫』を押すと、車が収納されたのかその場所から消えたんだ。でもね……
「ちょ!佳織さん、車すぐ戻して!結界も消えた!」
「ありゃ。はーい、ナビちゃん戻ってー」
綾ちゃんが焦ったように、結界が消えたんだ。……そりゃそうか。車から結界張って貰っていたんだもん。お姉ちゃんがまたタップしてナビちゃんを戻してくれて復活したけどね。
「ねえ、街に入った時の防犯面はどうする?」
「大丈夫じゃなぁい?」
「いやいや佳織さん。一応私達か弱い女性ですから」
「え、だってシルバちゃんいるもんねー」
私が防犯面を聞いたらお姉ちゃんが呑気に返事したけど、確かにシルバが街の中に入れたら安心かなぁ。っていうか騒ぎにならなきゃいいけどね。言った本人はもうシルバにしがみついて聞いてないし。
「ねえ、奈津。関係ないかもしれないけど、奈津のスキルで『ハウジング』ってあるじゃん。あれ試してみない?」
大丈夫かなって思っていたら、綾ちゃんが私のスキルを試す提案をしてきたんだけどね。
「ん?だってハウジングって家関連の事でしょう?」
「それがね、ハウジングっていろんな意味あったの思いだしたんだ。IT業界でもハウジングってあるし、機械を保護する箱型をハウジングっても言うんだよ。面白くて前調べてたんだよね」
「へえ〜、相変わらず綾ちゃん物知りだねぇ。それだけ意味あるならこの世界版のハウジングもあるかも知れないもんね」
「でしょ?」
綾ちゃんに言われて確かめたら、面白い事がわかったんだよ。これ使えるね!って事で街中でも安心できるものだったんだ。効果は街中に入ったら教えるね。
お昼を挟んで色々試した今日は、移動無しにしたんだ。お昼は簡単なおにぎりにしたから、今日の晩御飯は綾ちゃんとお姉ちゃんのリクエスト。
「はーい、ビーフシチュー出来たよー!」
「いい匂い〜!」
「あ、佳織さん!ちゃんと髪乾かさないと!」
私が料理している間に、お風呂に入った綾ちゃんとお姉ちゃん。お姉ちゃんってばタオルドライしかしないでそのまま席についてるの。まぁ、これも女子だけだから構わないけどね。
「うーん……!美味しい〜!幸せ〜!」
ビーフシチューを頬張り嬉しそうな笑顔のお姉ちゃん。お姉ちゃんは異世界きてもお姉ちゃんだなぁ。だからこそ私と綾ちゃんは安心できるんだ。
「なんかこの空間だけだと異世界って感じしないね」
綾ちゃんもシチューにパンをつけながら美味しそうに食べてくれてる。良かったぁ。あ、因みに外ではシルバもビーフシチュー食べているんだよ。伝わってきた感覚はもっと食べたいだったな。シルバーフォレストウルフってなんでも食べるんだね。シルバったら三杯食べて、今はお気に入りになった寝床で見張りも兼ねて休んでるんだ。
「だねぇ。でもいよいよ明日は夕方頃街に近づくんでしょ?」
「ほうだよ〜!」
「お姉ちゃん食べながら返事しなくていいから」
「でもさ、怖いけどなんかワクワクするね」
「綾ちゃんわかる!楽しみだよねぇ!」
私と綾ちゃんがキャイキャイ騒いでいると「ちゃんと警戒しながら行くよー」と釘をさすお姉ちゃん。こういうところはやっぱり年長者だよね。
でもどうなるかなぁ。
この日の夜は、異世界初の街と人に会えるって事で3人共テンション高くおしゃべりしながら過ぎていったんだ。
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