1-5 寄宿舎生活


「学校案内の資料で知っているかもしれないが、寄宿舎は生活棟と各学年ごと三棟の全四棟だ。


 生活棟というのは、食堂や風呂のある棟だね。風呂は学年ごとに分かれているんだが、食堂はひとつきりで三学年合同使用だ。


 とはいえ朝は六時から八時、夜は午後六時から九時のあいだであれば自由に利用できるから極端に人が密集することはないだろう。もちろん、食堂を利用しなくてもいい。麓の町にはうまい食べ物屋がたくさんあるからね。外出も届け出があればよほどのことがない限りは受理される。このへんは生徒に一任しているんだ。


 寄宿舎の消灯は十時。時間になると舎監が見回りにくるから、それまでに寝支度を整えて床に就いているように。


 ……さて、説明はだいたいこんなところかな。初日からあまり話が長くなっても退屈だろう。


 取りこぼしがあるかもしれないから、疑問点があれば後日にでも遠慮なく質問しに来てくれてかまわないよ。今日は授業も終了しているし、もう自分の部屋に行って休むといい。疲れただろう。明日からよろしく頼むよ」


「こちらこそよろしくお願いします」


 重友は立ち上がって足柄に一礼すると、職員室を出た。結局最後まで椅子の主は戻ってこなかった。今日はもう帰宅したのかもしれない。


 寄宿舎へ向かうために一度校舎を出る。


 これから重友が三年間過ごすことになる寄宿舎は、校舎にほど近い場所に建てられている。


 生活棟を軸にして、並列するように学年ごとの寄宿棟が三棟並ぶ。

 生活棟の反対側にも建物があるが、これは学生のための寄宿舎ではなく舎監棟で、舎監が寝泊まりなどをする学校管理のための場所らしい。生活棟と各学年の寄宿舎は渡り廊下で繋がっていて、それぞれの学年棟には生活棟を介して行き来ができる。


 学校施設のある土地部分は切り開かれて整備されているものの、周辺はほぼ手つかずの森である。この山全体が灰雅グループの所有だった。


 舎監と数名の教諭以外は麓の町から毎日通いで山道を登ってくる。舗装されていないいわゆる獣道を三十分かけて徒歩か、自動二輪車を所持しているものは大回りにはなるが舗装された道を利用する。


 重友は今日ここへたどり着くまでの道のりを思いだし、それを毎日往復することを考えて嫌気が差した。術後のまだ本調子ではない体力だったとはいえ、かなり堪えた。学生は寄宿舎生活でよかったとつくづく思う。あるいは三年間も通えば少しは慣れるものなのだろうか。


 一年生の寄宿舎の入り口を抜け、重友は貴重品の入った鞄と先ほど足柄から渡されたプリントの束を胸に抱えて自室へ向かった。


 足柄の説明によれば、二人部屋の同居人は都寄とよりという名前らしい。

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