3-4 四人の学生

 突き当たりのこの部屋は、どうやら教室というよりは倉庫のようだった。


 こんなところでも倶楽部活動が行われているのだろうか。見たところ表に倶楽部名を書いた紙のようなものは貼りだされていない。全部の倶楽部が親切に貼り紙をしているわけではなかったが、倶楽部活動ではないのだとしたら、放課後ただたむろしているだけの治安の悪い生徒かもしれない。関わりあいになるべきではない。


 しかし重友は好奇心に勝てなかった。扉に手をかけ、薄く開けるとそろりとなかを覗きこんだ。


 四人の学生の姿が見えた。


 そのうち口論しているのは二人で、あとの二人は言い争う二人の様子を遠巻きに眺めている。少し神経質そうな見た目をした細面の少年と、小柄な少年だ。どうやって止めるべきかその手立てがわからず、とりあえず様子見しているといったところなのだろう。

 小柄な少年のほうは口論する二人の声が激しくなるたび、びくりと肩を震わせている。


 言い争っている二人のうち一人は長身の少年だ。もうひとりはこちらに背を向けているため顔が見えないものの、そのほかの三人はいずれも知らない顔だったから重友よりも上の学年の生徒なのだろう。今日、同じクラスにはいなかったはずだ。


 そう思ってよくよく見てみれば詰め襟の左腕に巻いた腕章が赤色だ。であれば、二年生か。


 異世第一高等学校では学年ごとに腕章の色が違うのだ。一年生の重友の腕章は紫色である。三年生は緑だ。生活棟の風呂の暖簾も同じように色分けされている。都寄が暖簾を見ればすぐにわかると言ったのはそのためだ。


 腕章には異世第一と金糸で刺繍が施してある。これはどの学年も共通して同じ色だった。


 重友がなおもなかの様子を窺っていると、口論していたうちの一人、こちら側を向いている長身の生徒のほうがふいに口をつぐんだ。そのまま廊下側に視線をやる。


 覗き見をしている重友に気がついたのだ。


 しっかりと目が合い、思わず固まる。背を向けていたほうの生徒も長身の生徒の視線につられるようにしてこちらを振り返った。


 思わず息を呑んだのは、振り向いた少年が恐ろしく端正な顔立ちをしていたせいだ。


 吸い込まれるような漆黒の髪と、対照的に肌は抜けるように色が白い。黒いひとみは光の加減でどこか紫がかって見えた。


 栗栖もたいがい女好きのする風貌をしているが、目の前の少年は迫力がまるで異なる。もしやこの世ならざるものなのではないかという考えが頭をよぎり、重友は慌ててその考えを押しこめた。


「すみません」


 反射的に頭を下げた。咎められる前に自分から謝ってしまおうと思ったのだ。


「勝手に覗いてしまって。その、言い争う声が廊下にまで響いていたので……。様子が気になってしまって」


 言い訳がましくなったがしょうがない。


 叱責を覚悟していたが、予想に反して四人はただ無言で顔を見合わせただけだった。そのままいつまでも黙っている。重友は一刻も早くこの場から立ち去りたかったのだが、四人がいつまでもだんまりでいるので如何いかんともしがたい。


「とりあえず、そんなところに突っ立ってないでなかに入ったら?」


 そう言って重友を手招いたのは、口論を静観していたうちの片方である、神経質そうな見た目の少年だ。長めの前髪が目にかかりそうだ。


 重友は動揺した。まさか招じ入れられるとは思ってもいなかった。


 勝手に覗き見していた後ろめたさと、相手が上級生であることへの畏怖でその誘いを断ることもできずに、言われるがまま部屋のなかへ入った。迷ってから後ろ手に扉を閉める。


「し、失礼します」

 声が震えた。


 とたん、ぐにゃりと視界がゆがんで重友は強烈な吐き気に襲われた。

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