3-1 倶楽部見学開始

 放課後、重友は学校内をぶらついていた。倶楽部見学をするためだ。


 あまり積極的に行動するタイプではない重友は、教室内ですでに出来上がっているグループに割って入るよりも志を同じくした倶楽部の仲間を得るほうが取っ掛かりが掴みやすそうだと考えた。


 それに倶楽部への入部は強制なのだった。どのみちどこかを選ばなければならない。重友は今日になってそれを知らされた。


 休み時間に足柄に呼び止められて倶楽部活動について説明をされた。

 うっかりしていて昨日話すのを忘れていた、と詫びられた。できれば一週間以内に倶楽部を決めて入部届を出してほしいと言う。

 重友は頷いて、足柄から白紙の入部届を受け取った。


 特別に希望する倶楽部があるわけでもなかった。そもそもどのような倶楽部があるのかさえあまり把握できていない。倶楽部の一覧表があってもよさそうなものだが、足柄から説明はなかった。重友もすぐにはそれに思い至らず、気づいたときには足柄の姿はもうなかった。


 とりあえず、運動部は除外だ。


 手術のあとからどうにも運動することを敬遠しがちだった。執刀医に言わせれば手術はこれ以上ないくらいの大成功であり、術後の経過もすこぶる順調で日常生活に何ら懸念事項はないと太鼓判をされている。それを疑うわけではない。要は重友の気持ちの問題なのだ。


 初日は静かだった校庭では、今日は野球部の練習が盛んに行われていた。やはり昨日は倶楽部全体が休みだったのかもしれない。重友はそれを尻目にゆっくりと廊下を進む。


 あとは柔道部と剣道部が活動しているはずだが、異世第一高等学校でのめぼしい運動部はおそらくそのくらいだった。文化部のほうが人気なのだ。


 文化部は数が多い。

 しかしその実態は、その実ほとんどが同好会である。


 異世第一高等学校でいう倶楽部の定義は部員が八名以上在籍していることで、それ以下はすべて同好会となる。同好会の活動は二名以上から認められている。

 部活動の補助金が出るのは倶楽部のみだ。

 顧問はどちらも立てる必要があるが、同好会に名前だけ貸して掛け持ちしている顧問は多かった。異世第一高等学校では倶楽部と同好会のどちらも十把一絡げに倶楽部と呼ばれている。


 同好会は倶楽部活動をサボタージュしたい生徒たちに人気だった。


 入部は強制のため何かに属さなければならないわけだが、部員数の多い正式な倶楽部は気概のある生徒が多かった。月次で倶楽部活動報告書を提出する義務もあるため、活動内容が緩くてもゆるされる奇妙奇天烈な同好会が乱立しているのが現状だ。

 学校は倶楽部への入部を強制しつつ、何かしら活動していることを報告できれば内容に是非は問わないようだ。


 都寄は文通倶楽部なるものを立ち上げていた。都寄のほかにどれくらいの部員がいるのかは定かではない。活動を受理されているのだから少なくともあと一人は仲間がいるはずだ。


 今日も手紙を書くのだと言って、都寄は授業が終わると早々に寄宿舎へ戻っていった。手紙の相手は言わずもがな離ればなれになった恋人だろう。要するに、文通倶楽部はていのいい隠れ蓑だ。


 倶楽部活動ひとつ取ってみても、ふるいにかけられているのではないかと重友は思う。

 せっかくいい学校に入学しながら、自ら楽なほうに流される。栗栖の冷笑が浮かぶようだ。


 その栗栖は新聞部に在籍しているのだと言っていた。

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