第3話・話があるの。

 らしくもなく緊張に震えながら互いに励まし合い、冴えないトークで間を持たせていると、美智花と氷浦はようやく校門に姿をあらわした。時刻はとっくに十九時を回っている。

「こんな時間まで二人きりだったってこと……!? まさか……」

「にゃん子、いくよ」

「っ……うん!」

 さゆは言いながら、なくはない嫌な予感が脳裏に過ぎった私の背中を押す。

「「ちょっと。」」

「えっ、弥子ちゃんだー! どうしたの!?」

「沙幸に……弥子さん、二人は帰宅部だろう? こんな時間になにをしているんだい?」

 喜色混じりに驚きの声を上げる美智花とは反して、氷浦は怪訝そうな声で問いながら眼光を更に鋭くした。

「美智花」

「なぁに? 弥子ちゃん」

「話があるの。今から私の家に来て欲しい」

 先手必勝。氷浦の視線を振り切り、美智花の手を取って視線を深く合わせてから懇願。

「弥子ちゃんの……お家……? へ? 今から?」

「今から。ダメ?」

「……私は、もちろんいいよ。でも、ちょっとお母さんに電話するから待ってて」

「!?」

 勢いで切り出したけど……美智花こういうとこちゃんとしてる子だった……! お母さんからNG出たらどうしよう、公園でも連れてく!? いやでもムードがな……。

「そう、そうだよ、弥子ちゃん。うん……えっ?」

 スマホを耳に当てながら、美智花は戸惑いつつ私を見やる。

「弥子ちゃん」

「なに?」

「今日はその……お泊り?」

「っ……じゃあ、泊まり、で」

「ん、わかった」

 勢いで飛び出た返答に後悔する間もなく話は進んでいく。

「お母さんも少し驚いてたけど大丈夫だって。いつぶりだろうね、弥子ちゃんのお家にお泊りなんて」

 通話を終えた美智花は照れ笑いを浮かべた。可愛すぎて心臓が締め上げられたように苦しくなる。やばい。言いたいこと全部すっ飛びそう……。

「ごめんね、急に」

「んーん、全然。……その、嬉しい。とっても」

「~~~!」

 心内にいくつものガッツポーズが乱立していく……!

 さて、こっちは一個目の課題を乗り越えたよ。次はさゆの番……!

「氷浦、私もあんたに話あるんだけど」

 きっと気恥ずかしさを隠すためなんだろうけれど、やや素っ気なくさゆがそう切り出すと――

「つまり私も、沙幸の家に泊まっても良いということかい?」

――氷浦帥はズズいと前のめりになってさゆの両手をとった。

「えっ? いや私たちは別にその……ファミレスとかでも……」

「いいや。沙幸が私に対して大切な話をしてくれるのだろう? ならば相応の場所を用意すべきだ。そうだ、七年前に沙幸が『ねぇねぇあれお城? すごい! 可愛いね』と無邪気に微笑んでテンションをあげていたホテル、あれを買い取ってしまおうか。もちろん建物内には私達だけだからどんな話でもどんなコトでも」

「こいつホントこういうところあるんだよ! 助けてにゃん子! にゃん子ぉ~~~!!」

 いつどこでなぜスイッチが入ったかもわからないが、突然瞳からハイライトを無くした氷浦帥は、さゆをずるずると引き摺りながら帰路へと消えていった。

 いやもうあんなん百パー両想いじゃん大丈夫じゃん。大丈夫どころの話じゃないかもしれないけど。

「私達もいこっか」

「うん!」

 二人きりになると、美智花はスルリと自然にその滑らかな手指を絡ませてきた。

 あー、ごめんさゆ。目の前にいる子が可愛すぎて普通に日和ひよりそう。

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