第30話 大襲撃 ーamoeba(3)ー

 歩く。

 だが。

 その先に見たのは、どれも地獄だった。

 思い出すことすら憚るほどの。

 この世界では、いったいどのような結末を俺は辿るのか。

 せめて、この世界では、地獄に行きつかないように...






「みんな、ただいま」

 そう陽気に言ったが、返事は返ってこなかった。

 なぜなら、全員酔い潰れていたからである。

 全員が顔を赤くして寝ていた。

「何で酒を飲んだのだか...」

 そうして、俺は草むらの中に声をやる。

「な、アルラ?」

 そう声をかけると、ガサガサと言う音と共に1人の可憐なエルフが姿を現した。

「何でわかったんですか?」

「武人の勘というやつさ」

「やはり愛の力よね!!」

 平常運転でよかった。

「他の仲間はどうした?」

「もうすでに街に戻ってるわ」

 アルラ。

 彼女と連絡が取れなくなった時は、もう死んだものと扱っていた。

 だが、地下の研究所を見つけ、そこを探索していた時、ある肢体に違和感を感じた。

 それを調べると、メモが出てきた。

 そこには、

『ここで待っていてください』

 と丁寧に地図まで添えられていた。

 そして、最後には、

『アルラシア=ル=リヒリス』

 と言う署名があった。

 本人かはわからないが、名前が似ているため、ここにきた。

 ようは賭けだった。

 しかし、その賭けは当たったようだ。

「しっかし...何をしてたんだ?」

「ええ、すっごく大変なことをしていたんですよ!?労ってください!」

 頭を撫でろ、と言わんばかりの上目遣いで抱きついてくる。

 俺はその願いに応えてやるように、頭を撫でる。

「ほれ、よしよし...」

 アルラの顔はふにゃふにゃに歪んでいる。とても心地いいようだ。

 本気で俺を好いているのか...

 そのあと、数時間に渡り、アルラの要望に応えていった。




「やっぱり、ナギくんのところは心地いいね...」

 数時間に渡りわがままを言って、最後は膝枕を要求してきたアルラは言う。

「そうか?」

「そうだよ。ここにいたら、何もかも忘れて、一から始められそう...」

 そういいながら、アルラは膝に頭を擦り付ける。

「そういえば聞きたいんだが...」

「なあに?」

 アルラが顔をこちらに向ける。だが、俺はその視線を見ずに言う。

「アルラは何をしたいんだ?」

「何ってぇ?」

「これからのことだよ」

 そう言うと、少し考え込む仕草をアルラはして、答える。

「んー、人間を滅ぼすことかな」

 そう言ったアルラを見ると、目の奥にどす黒い恨みが見えた。

「そう、か」

 俺はそう言ったあと、アルラの頭を優しく撫でる。

「私の頭を撫でるって、もしかして結婚してくれたり??」

「お前の猛アタックにも疲れたから考えるよ」

「えへへー」

 そのあとしばらく、俺は無言でアルラの頭を撫で続け、アルラもそれを堪能していた。

 そして、アルラが口を開いた。

「ナギくんはさ」

「どうした?」

「私が人間を滅ぼしたいって言ったじゃん」

「いったな」

「何でそうしたいか聞かないの?」

 俺は目を見開いた。

「今までの信頼してきた人たちはね、それを言うとみーんな、何でか聞いてくる。それを言うとさ、私に触れて大丈夫だよ、俺がいる、とか言ってくるの」

「...」

 俺は黙って聞く。

 アルラの目から輝きが消えている。

「その瞬間さ、私の彼らに対する信頼は消えていった。あわよくば、って思ってたのかな?彼らはその場で消し去ったよ。所詮は、みんなそう言う目的を持って私に接してきたんだって、後々になって思うんだ」

「そうか」

「でもね?ナギくんは違う。私の体をまじまじと見ないもん。それに、今この話をしても、大丈夫、とか言わないし。過去に何か私と同じことでもあったのかって思うくらいには、憎悪に溢れている人に対する付き合い方って言うのがなれている気がするんだよね。なんでなの?」

 俺は少し考え込んだ。その後に言う。

「俺は2人の妹がいた」

 アルラは反応した。

「いたって...」

「そうだ。いたんだ。1人は行方不明、もう1人は死んだ」

「...」

「俺と妹たちは山奥で一緒に暮らした。2人ともいい子だったよ。俺をお兄ちゃんと呼んで慕ってくれた。早くに亡くなってしまった両親の面影を強く受け継いでいた。俺を本当のお父さんと思って接してくれた。それだけで俺は幸せだったんだ」


「だけどある日、1人の妹が薪を拾ってくるって言うなり、そのまま帰ってこなかった」

 アルラは黙って聞いてくれる。

「何年経っても帰ってこなくて、もう1人の妹は泣いてたな...それを慰めて、大丈夫、大丈夫って...そう言う生活にも慣れてきた」

「だけど、ある日、妹が薪を拾っていた時だ。俺は目を離すべきじゃなかった。一緒に行くべきだったんだ。俺が火おこしをしている間に、妹は男の慰み者にされた」

 アルラの目は見開く。

「それだけじゃない。散々使われた挙句、獣道に放られて、獣にも喰われた。見つけた時は俺を責めたよ。何で一緒に行かなかったのか、てね」

「...」

「そのあとはどうしたと思う?その男たちを探し出して、村ごと血祭りにあげたよ。老若男女問わずね。合わせて二つほどかな」

「そうなんだ...」

「それをやり遂げたあと、最初は達成感があったよ。だけどそのあとは...虚無感が包んだ。村二つを滅ぼしたって、俺の大切な妹が帰ってくるわけじゃない。失ったものは戻ってこないって、改めて実感した瞬間だよ」

「...」

「だから言うよ。君が人間を滅ぼしたいって言う願望は止めるつもりはない。だけど、その後の虚無感は誰が埋めてくれるのかい?」

「ナギくんに任せたいと思っているけど」

「俺以外で、だよ。もし俺と出会わなかったら、君の虚無は誰が埋めてくれるのかい?」

 アルラは黙り込む。そこまで考えてはいなかったようだ。

「俺が虚無を埋めてあげるのに関しては異論はないよ。だけど、こうして俺みたいにアルラと言う1人の女性を見ている人もいることも忘れてくれるな」

「うん...うん」

アルラは俺を抱きしめて、泣き出す。

「ようやく信頼できる相棒を見つけたんだ、今日ぐらいはもう少しわがまま言ってもいいぞ?」

「ふふ...じゃあ、結婚しよ?」

「それはもう少し先の話だな」

 2人は笑いながら、朝を迎える。

 ようやく、2人に信頼が芽生えた。

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