第29話 大襲撃 ーamoeba(2)ー

 俺は2人を連れて、置いてきた仲間の元へ戻る。

 結局、2人は俺の要求を飲んだ。

 この国を、ネプラスをこの目で見ることにしたのだ。

 ここが、愚王と聡明な聖人君子の違いなのかもな。

 そう思える。

 だが、俺には失ったものが多かった。

 何も思わないと言えば嘘になるが、特段落ち込むほどでもなかった。

 このようなことは、何度も経験しているから。







「...」

「...おかえり」

 懐疑的な目で出迎えてくれる、ゼンとシハル。

 まだ出迎えるだけマシだと思っておこう。

「ああ、ただいま」

 答えるが、誰も返事はしてくれない。

「それよりも、後ろにおる奴らは何者じゃ」

 ゼンが口をひらく。

 まあ、こいつらのことは気になるだろう。

「ああ、人質だ。俺の。雑兵だがまあ人質として連れてきたんだ、面倒くらいは見てやれ」

「...そうか」

 どうやらゼンの俺に対する信用は地に落ちたらしい。

 ほんの数日前までは目をキラキラさせて勝負勝負と喚いていたのにね。

 その原因を作ったのは俺だが。

 これからは信用の回復に努めることに時間を費やした方が良さそうだ...

「とりあえず、今日はここで野宿しようか」




「それでは...第一回!!自己紹介大会を始めまーす!!」

 唐突に始まる謎の大会にナギ除く全員が思考を放棄した。

「ルールは簡単!自己紹介をするだけ!イイなと思った自己紹介に票を入れて、一番票が多かった人が優勝でーす!理解できたかな?できたよね!それでは、ゼンくんからスタートで!」

 そんな彼らを置いていくかのようにどんどんナギは話を進める。

 指名されたゼンは、口を閉ざしきっている。

「あれ?もしかして自身のほどがないようで...?それじゃ仕方がない。それでは隣のレーゼさん!どーぞっ!」

「ええぇぇぇぇぇ?!わわわ私ですか?!」

「そうですとも!是非とも皆を感動させる自己紹介をお願いするよ!!」

「ええぇぇ...えっと、その...れ、レーゼと申しましゅ...」

「はい!レーゼって言うんだね!趣味とかは?!好きなものとか教えてくれない??」

「趣味は...今はないです...好きなものはりんごです...」

「自己紹介ありがとうございまーす!!」

 ナギの異常なテンションについていけてない。

 このまま、全員の自己紹介をし、最後にナギの自己紹介となった。

「最後は俺だね。俺はスドー・ナギ。異世界から来た人だ。得意なことは魔法・剣術。剣はそこの剣豪であるゼンくんにも引けを取らない強さだよ!よろしくね!!」

 最後の人の自己紹介が終わった。ここまで何が起きているのかを理解できた人はここには1人もいない。

「それじゃ投票タイムだね!3分くらい考える時間をあげるよ!その間に決めてね!あ、俺はちょっとトイレ行ってくるね」

『...』

 最後の最後までよく分からずじまいで、ナギはどこかへ行ってしまった。

 取り残された5人は、何とか思考を取り戻そうと脳が奮闘していたのだった。




 森の奥にて。

 ナギは歩いていた。

 そして、とある岩につくと、その岩にもたれかかって座った。

「...ふぅ」

 ため息をつきながら、ナギは空を見上げる。

 今日の昼頃は雨が降っていたのに、すっかり晴れ晴れしている。

 星も、曇りなくしっかり見える。

「こっちの世界も大変だよ...雪、梓」

 かつて俺のそばから離れず、ずっとついてきた妹たち。

「こっちで剣道まがいのことをしてると、お前の剣筋が恋しくなっちまうよ...川西」

 第一印象は最悪だったが、お互いに切磋琢磨し、ライバルとも言える存在となった、川西。

 3の幻が見える。

「お前らに...いつになったら会えるんだろうかな...」

 雪はもうこの世にはいない。梓と川西には...この世界から元の世界へ帰る方法がない限りは、2度と会えないだろう。

「お前は、本当に川西なのか...?」

 魔津波発生前に出会った二人組。

 うちの1人は、川西とそっくりだった。

 もし、川西と同じように梓もこっちにきているなら...

「会いたいけど、今の俺じゃ会えない...」

 あの時、俺は死ぬと悟った。

 三途の川を渡りきれば、雪に会えると思った。

「雪には、辛い思いをいっぱいさせてしまった...」

 仕方ないとは言え、俺が行軍中の時は、雪はずっと1人でいた。

 誰にも合わせてあげることもできなかった。

 友達も、作らせてやることはできなかった。

 不自由な人生を遅らせてしまった俺は...兄失格なのだろう。

 それを謝れると思った。

 だが、この世界に来た。

 人が魔族を虐げる世界に。

 最初は意味がわからなかった。

 だが、慣れていくうちに、俺は目の前で起こる胸糞悪い光景に我慢ならなかった。

 王の魔族の首を切れと言う命令には、苛立ちを隠せなかった。

 いや、我慢の限界だった。

 人に近い...いや、人とほとんど違いのないエルフを、奴隷のような扱いをする王は、愉悦を感じているとしか思えなかった。

 私は偉いのだ、強い、と。

 俺も、虐げられる人には会ったことがある。

 厳密には、キリシタンと呼ばれる人たちに、だが。

 各地を放浪していた俺は、死ぬ数年前に、九州にやってきた。

 島原・天草地方では、森の奥に隠れ里があり、そこでキリシタンたちが暮らしていた。

 隠れ里以外でも、仏像ではなくキリストに救いを求める人は多数いた。

 当時の為政者は、金遣いが荒かった。それに、キリスト教を認めないとしていた。

 だから、キリシタンたちは粛清されていく。

 それを防ぐために、人目につかないよう隠れ里、隠れてキリスト教に入信していた。

 それと同じ境遇にある彼女を、俺は見捨てることはできなかった。

 だから俺は、王を斬り捨てた。

 レーゼは、自分からついてくると言ったので、好きにさせた。

 生粋の魔物嫌いだと言うことは想定外だったが...

 それに、川西ほどではないとはいえ、剣を打ち合えるゼンもいる。

 だが、彼らからの信用は地に落ちてしまった。

 これだけで落ちるものなのかと思うが、それは人それぞれなのだろう。

 人が狂気に染まったところを見るのは誰しも興味心ではない。

 考えることができないほどに、普段のその人の性格からかけ離れた行動を見てしまったからなのだろう。

 俺は考えを片付ける。

「いつか...また」

 そういうと、仲間たちの元へ戻っていった。

















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